ウイリアムズにとって2024年シーズンのF1は、激しい中団争いを戦う中で様々な困難に見舞われたシーズンでもあった。
まずウイリアムズが開幕時に悩まされたのが、マシンの重量超過。チーム代表であるジェームス・ボウルズは昨年5月のエミリア・ロマーニャGPの際、FW46が最低重量をオーバーしていることで1周あたりコンマ4秒からコンマ5秒を失っていると認めていた。
当然、チームはマシンの軽量化を進めていったわけだが、アレクサンダー・アルボンやローガン・サージェント、そしてシーズン途中でサージェントと交代してドライブしたフランコ・コラピントが相次いで大きなクラッシュを喫したため、いくつかのパーツは重い旧型に戻さなければならなかった。
そんな状況について、ウイリアムズのチーフエンジニアであるデイブ・ロブソンはmotorsport.comに対して次のように語った。
「もし開幕時のクルマが最低重量に到達していたら、もっと良い結果を残すことができただろう。それに、重量削減のために費やした労力を他のことに注ぐことができたはずだ」
「つまり、それ(重量超過)が結果に響いたとは思っているが、マシンは進歩しているし、どのように進歩させるかのノウハウもある。前の年のマシンよりも良くなっていると思う」
2024年に向けては、2023年マシンと比べて14kgも重量を減らすことに成功していたウイリアムズ。重量削減のプロセスについてロブソンはこう説明した。
「いくつかのパーツは単純に作り直したり、設計により多くの時間を割くことにした。つまりストレス解析を何度も繰り返し、重量を削減する方法を見つけ出そうとしたのだ」
「結局はリソースをどのように使うかであり、シーズン用に大量生産していない部分であれば、その変更を盛り込むことができた。製造の観点ではそれほどコストはかからず、必要なのは設計時間だった」
ウイリアムズはシーズン後半のオランダGPで「初めての本格的なアップグレード」を行なった。フロアの刷新、ディフューザーの再設計、サイドポッドやエンジンカバー形状の調整などは、重量削減にも繋がった。その後シンガポールGPでは、アルボン車に軽量化されたフロントサスペンションが装着。ロブソン曰く、外注されていたパーツを除けば見直せるものはほとんど見直したという。
しかし、ウイリアムズは重量の問題が改善した一方で、度重なるクラッシュが予算制限を圧迫するという新たな問題が深刻化していった。サージェントはオランダGPでのクラッシュを最後にシートを失ったが、後任のコラピントも雨のサンパウロGPやラスベガスGPなどでウォールの餌食となった。その結果、終盤2戦のコラピントは重い旧型サスペンションでレースを戦うしかなかった。
マシンを壊したのはサージェントやコラピントだけではなく、チームのエースであるアルボンもメキシコシティGPとサンパウロGPでのクラッシュでチームに多額の修理費を強いることになってしまった。ボウルズ代表はラスベガスGPにて、クラッシュによる被害額の総額が数百万ドル、つまり日本円換算で億単位に達していると明かしただけでなく、「1000万ドル(約15億7000万円)ほどではないが、300万ドル(約4億7000万円)は超える」と具体的な額にまで言及した。
こうした度重なるクラッシュがマシンの開発計画や予算制限に与えた影響について、ロブソンはラスベガスGPでこう語っていた。
「かなり大きな影響があった。シーズン中盤の比較的おとなしかった時期を除けば、開幕からずっとだ。コンスタントに影響を受けていたが、おそらくここ数週間(シーズン終盤)は今シーズンのどの時点よりも問題となっていた」
「終盤戦の2度のトリプルヘッダーに向けては、計6レースのうち最初のレースで必要なものは全て揃えておきたい。そうすることでレース部隊が7〜8週間自給自足でレースできるのが理想で、その間にファクトリーや翌年のマシンの設計やパーツの製作に専念する予定だった。しかしそれは叶わなかった」
「FW47(2025年のマシン)に当てていたファクトリーのリソースを、最後のトリプルヘッダーとテストで使うスペアパーツの製造に割り当てねばならなかった。FW46に投入したかった小さなアップグレードアイテムに関しても、遅延や中止を余儀なくされた。これはFW46を少しでも速くするためのものでもあり、FW47の研究開発のためのものでもあった」
「これでFW47の製造も遅れているので、来年(2025年)の序盤まで問題が尾を引かないように、遅れを取り戻す必要がある。しかし、同じ設計の部品を何度も製造するために、時間や労力、特にコストキャップ内の予算を費やすことになり、本来なら新しい設計で車を速くするために使うべきリソースを浪費してしまった」
「アクシデントによる損害と、それがリソースを食い潰したという事実、さらにシーズン初めの重量の問題やそれを取り戻すための多大な労力により、空力のアップデートを進める機会を逃してしまった」
2024年のウイリアムズは前年から獲得ポイントを減らしてしまい、コンストラクターズランキングも7位から9位に下がった。少なくとも8位に入れる可能性があったが、低迷していたアルピーヌがシーズン終盤にサンパウロGPでダブル表彰台を獲得するなど猛追したこともあって、順位を下げてしまった。
これによりウイリアムズの分配金は下がってしまったが、その分空力開発のハンディキャップが効くことになり、少なくとも来季前半はライバルよりも多くの風洞実験やCFD(コンピュータ解析)を実施することができる。これはレギュレーションが刷新される2026年に向けたマシン開発でプラスになるだろう。
2024年シーズン全体の開発を振り返り、ボウルズはこう結論付けた。
「結局、本格的な空力アップグレードは1回だけだった。その後に(新型)フロントサスペンションを投入して(アップグレードが)完成に至ったが、理想的にはオランダでの他のアップグレードと一緒に導入されるべきだっただろう。両者が分離してしまったため、現状の中団グループについていけるような改善さえできなかった」
「もしシーズン開始時点で重量が想定内に収まっていれば、おそらく5番目に速いチームとしてスタートできた可能性があり、それは大きな進歩だったと言える。全てが順調なら、4番目に速いチームの背後に迫るチャンスも十分にあっただろう。しかしそう上手くはいかず、本来やるべきでないことにリソースを費やさざるを得なかったことが大きな要因となった」