平均年齢21歳の4人組バンドyutoriは2024年、シングル4曲に加え、3rdミニアルバム『Luv』をリリースしてきた。精力的とも言えるリリースからは、対バンツアーやワンマンツアーも行いながら、彼らが楽曲制作にも意欲的に取り組んできたことが窺えるが、中でも12月18日に配信した最新シングル「純粋無垢」はサウンドメイキングおよびバンドアンサンブルが新境地を印象づけるという意味で、ひときわ鮮烈な印象を残すものとなっている。
yutori流のガレージロックを目指したという「純粋無垢」がどんなふうに生まれたのか、メンバー4人に話を聞いてみたところ、バンドは大きな転機を迎えようとしていることが伝わってきた。前述したワンマンツアーで1,300人規模のSpotify O-EASTをソールドアウトさせるなど、ライブの動員を着実に伸ばしてきた中でメンバー達の意識は確実に変わり始めたようだ。その点、「純粋無垢」は2024年の活動を締めくくるものではなくて、新年の始まりだけにとどまらない新たなスタートをバンドのキャリアに刻み込むものなのだろう。
「純粋無垢」を聴きながら、メンバー達の発言に耳を傾ければ、yutoriの今後が楽しみになることはうけ合いだ。
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■2024年はいろいろ試して出したい曲も出したから
■このタイミングで一度忘れかけていた初期衝動を
──2024年はyutoriにとって、どんな1年でしたか?
佐藤古都子(Vo, G):今後に向けて、yutoriというバンドをどう進めていくか、ということを楽曲面も含め、いろいろとみんなで話し合いながら進めていった準備期間だったのかなと思います。
内田郁也(G, Cho):わりと試行錯誤もしましたね。2025年に向けてデモを作ったり、ワンマンツアーも “自分たちは何を伝えたいのか”ということをしっかり話し合って決めたりとかして。
佐藤:ツアーに限らず、今までと同じようなライブをしていてはお客さんに届けたいものもしっかり届かない、と思ってた。
▲佐藤古都子(Vo, G)
──2024年は、今回の「純粋無垢」をはじめ配信シングルを4曲リリースしているし、5月には3rdミニアルバム『Luv』もリリースしているし、「準備期間だった」と言いながら、リリースにも積極的に取り組んでいたという印象がありましたが。
浦山蓮(Dr, Cho):『Luv』は、“この先もこういう曲を出していきたいね”っていう曲を詰め込んだんですよ。
内田:たとえば、“この先もっとダンスミュージックっぽいものを出したいから、このタイミングで、そういうテイストが入った曲を一発出しておこう”みたいな。動きやすくするための布石というところもあって。
浦山:おのおのがずっとやりたかった曲を作ったんですけど、“この先、こういう曲も出したいよね”っていう曲がいっぱいあるんです。ただ、それを急に出すと、「変わった」とか「yutoriっぽくなくなっちゃった」みたいな声って絶対上がると思うので、それは自分たちも避けたい。だったら実験的に、このタイミングでこういう曲を出してみて、ツアーでお客さんの反応を見てみようって考えたんですけど、“受け入れてもらえた”とか“このタイミングじゃなかった”とか、どっちの反応もすごく楽しくて。
──つまり準備しながら、それを早速、楽曲に反映させていったと。
内田:そうです。だから、楽しく準備ができたというか、僕ら自身楽しみながらやってたから、“準備するぞ”って気持ちでは全然なかったというか。
豊田太一(B):でも、やりながら、それを“2025年に爆発させるぞ”みたいな気持ちはありました。
▲内田郁也(G, Cho)
──「おのおのがずっとやりたかった曲を作った」という話が出ましたけど、それはおのおののやりたいことを曲に反映させても、yutoriの曲として完成させられるようになったからこそ、このタイミングだったんですか?
浦山:そうですね。やりたいことはそれぞれにいろいろあったと思うんですけど、これまではそれをやるには力量が足りなかったっていうのはあると思います。「こういう曲やりたいよね」って話が出て、「じゃあ作ってみよう」ってなっても、それに対するインプットが全員あまりにも少なかったので、一昨年ぐらいまでは何もできなかったですね。
内田:それがようやくできたというか、やりたかったことの答え合わせがしっかりできた気がします。
──力量が上がったのは、自然な成長だったのか、それとも力量を上げるためにそれぞれに何かしらの努力をしたのか。どちらだったんでしょうか?
内田:“こういう曲をやりたい”となったら、それに対してどうアプローチしていくのかってところで、メンバーそれぞれに練習するんですけど、それよりもやっぱり、そう思う気持ちが大きかったんだと思います。たとえば僕の場合、ライブを見たり、曲を聴いたりして、衝撃を受けて、“自分たちでもこういう曲をやりたい”と思うことが多いので。
浦山:そうだね。衝撃とか衝動が大きいですね。
佐藤:その意味ではライブの影響が大きいかもしれないです。やっぱりライブでしか得られないものってあると思っていて。対バン相手さんのライブを見て、「こういう曲をやりたいね」とか「ああいういう曲間の繋ぎ、めっちゃ良くない? yutoriでもやろうよ」とか、「こういうMCいいな」とかみたいなところをそれぞれに吸収して、楽屋とかライブからの帰りの車とかで話をして、その後の曲作りやライブに反映させて、みたいなことはけっこうやったかもしれないです。
▲豊田太一(B)
──ここ最近の衝撃を、参考までにそれぞれ挙げていただけないでしょうか?
浦山:自分は、なとりさんを知った時の衝撃がすごかったです。どこか懐かしいメロディーも含め、ポップスとしてすごく完成されていると思いました。
内田:2024年6月にブルエン(BLUE ENCOUNT)さんとちょっと小さめの箱で対バンさせてもらったんですけど、かなり衝撃を受けました。“たぶん自分はこういうことをしたいんだな”というところもちょっとありつつ。ブルエンさんってサウンドがけっこう歪んでいるんですけど、その影響が今回の「純粋無垢」にもけっこう反映されてますね。
佐藤:私は二つあって。yutoriとして、初めてツーマンツアーをやらせてもらったとき、ヒトリエさんからすごい衝撃を食らってしまって。“私がやりたいのは、こういうことだ”みたいなことを思って、それからMCも含め、けっこうステージ上のパフォーマンスは意識している時はありました。そのご縁もあって、「ヒメイドディストーション」という曲でシノダ(ヒトリエ / G, Vo)さんに編曲で加わっていただいたんですよ。レコーディングにも立ち会っていただいたんですけど、本当に、いい兄貴分というか、yutoriとして相談に乗ってもらうことも多いんです。
内田:2024年はちょっと暗めというか、ダークな雰囲気の曲も出したんですけど、ヒトリエさんみたいな曲をやりたいと思ってたので、全員がそういう曲のお手本として参考にしたと思います。
──佐藤さんは二つあるとおっしゃっていましたが。
佐藤:椎名林檎さんが昔から好きなんですけど、この間、ツアー(<(生)林檎博’24 -景気の回復->)をされていて。チケットが取れて観に行ったら、ライブというより芸術作品を見てる感じだったんですね。この1年間ずっと自分の中で、“フロントに立つものとして何かが足りない”と思いながら、それが何なのかがわからなくてモヤモヤしてたんですけど、林檎さんのライブを観た時に、“自分に足りないのはこれだ。見せる力、伝える力が自分の中で足りなかったんだ”って気づいて、そこはすごく衝撃を受けました。
──豊田さんは?
豊田:僕はCLAN QUEEN、Chevon、muqueという3バンドに衝撃を受けました。同世代なんですけど、最近すごく話題になってきた中で、何がすごいんだろうって考えてみたとき、それぞれに芯があると思って。同時に“僕らに今足りていないのは、それだよな。一本芯と言えるものがもうちょっとほしい”となって。さっき「ワンマンツアーで何を伝えたいかを改めて考えた」という話が出ましたけど、<yutori ONEMAN TOUR 2024 Luv yourself>ってツアータイトルは僕が提案したんです。“自分たちの芯って何だろう”って改めて考えたとき、(浦山)蓮さんが作る曲や歌詞とか、聴き手に寄り添うような歌詞を歌う(佐藤)古都子さんの表現力とかが、僕らの強みだと思っているから、お客さん一人一人にフォーカスして、“yutoriのライブを見ている間だけは自分を愛して欲しい、そしてそんなあなたを僕らも愛するよ”ってコンセプトというか芯を作ろうと思って、<Luv yourself>ってツアータイトルを考えたんです。それはさっき言った3バンドを見たからこそだと思います。そういう意味で、衝撃を受けたというか、その3バンドにはけっこう助けてもらったという気持ちもあります。
▲浦山蓮(Dr, Cho)
──なるほど。今回の「純粋無垢」に繋がるお話もけっこう出てきたと思うんですけど、かなり攻めた作品だった『Luv』から、「白い薔薇」「合鍵とアイロニー」を経て、今回、さらに突き抜けたというか、ぱきっと開けた印象がありました。そんな「純粋無垢」はどんなふうに作っていったんですか?
内田:「2024年の年末に、もう1曲リリースしたいよね」という話はしてたんですけど、それに合わせて作ったわけではなくて、これだっていう曲があれば出したいぐらいに考えて。「純粋無垢」を作っているうちに、“これだ”ってなったんです。
浦山:そもそも曲そのものは、2023年5月ぐらいからあって。
内田:そうだね。
浦山:曲の候補を探すつもりで、デモのファイルの中にあった「純粋無垢」を聴いてみたところ、“年末に出したら、この1年の答え合わせになるような気がする”って全員が一致して。「白い薔薇」「合鍵とアイロニー」というふうにしっとりしている曲が2曲続いてたから、もちろん、そういう曲もyutoriの強みではあるんですけど、「君と癖」とか「センチメンタル」とかが持っていた初期衝動をちょっと忘れかけてたっていう気持ちもあって。2024年はいろいろ試したし、出したい曲も出したから、一度このタイミングでアッパーチューンに戻ってみてもいいんじゃないかって。歌ってることはけっこう心にグサッとくるけど、曲としては明るいし、サウンドは荒々しいし、拳を突き上げたくなるような感じもぴったりだろうってなったんです。
▲シングル「純粋無垢」
──今、おっしゃったように原点回帰もありつつ、曲の音像としては新境地を打ち出していると感じました。yutoriとしてここまでタイトなアンサンブルの曲は、これまでなかったんじゃないですか?
内田:近いものはあったと思うんですけど、ここまで振り切った曲はなかったですね。
豊田:「センチメンタル」がちょっと近い気もするけど。
内田:でも、あれはもうちょっとライトというか。
佐藤:素直な音だよ。
内田:「純粋無垢」は、“やりすぎなんじゃないか?”ってくらい歪んでるから。
佐藤:“どれだけ音を歪ませられるか”みたいなことをバッキングでずっとやっていて。バッキングのギターが全体通して、ずっと歪んでいるんですよ。クリーンな音作りのところが一切ないみたいな曲で。テクニックを追求したというよりは、音作りの面でそれぞれにけっこう遊んだところはあります。
■だからyutoriとしては新しいというか
■聴いたことのないような曲が生まれたのかな
──「歪ませた」というのは、さっき話に出たブルエンやヒトリエからのインスピレーションもあるんじゃないかと思うんですけど、作詞作曲を担当した浦山さんはこの曲を作ったとき、音像をここまで歪ませることは考えていたんですか?
浦山:この曲を作ったとき、自分の中でがっつりリファレンスは決めていて、SIX LOUNGEさんがインスピレーションのもとになってるんですよ。
──SIX LOUNGEはちょっと意外でした。
浦山:大好きなんですよ。あと、初期のクリープハイプさんとか、「手と手」みたいな感じを自分たちの曲に落とし込めたらっていうのもあったし。a flood of circleさんとか、やっぱりガレージロックってシンプルじゃないですか。シンプルなのに届く曲って一番難しいと思ってて。じゃあ、その人たちはどんなことをやっているんだろうって曲を聴いたとき、“やっぱりギターのブリッジミュートか”って。yutoriってこれまでブリッジミュートの曲ってないんです。“やっぱり、そういう重みなのか”ってヒントを得て、曲に落とし込んでいくみたいな作業でした。
──なるほど。興味深いです。ところで、これまで内田さんはリードプレイを得意とするギタリストという印象だったんですけど、今回、以前ほどリードフレーズを弾いていないですよね。浦山さんがおっしゃったようにブリッジミュートも含め、コードバッキングに徹したギタープレイは逆に挑戦だったんじゃないですか?
内田:そうですね。最初に蓮が作った3ピースのデモを聴いたとき、“もうできてるじゃん”って思っちゃったんですよ。その上で何をしたらいいのかを考えて、入れたいところにはリードを入れましたけど、それ以外のところは逆に音圧を足そうと思って、コードにしてみたんです。そういう意味では、確かにいつもよりはリードギターっぽさとか、メロディーアプローチとかは少ないですね。
──1番サビの直前に加えた音階を上がっていくコードリフがめちゃめちゃキャッチーで耳に残るのに、そこ一回しか出てこないっていう。
内田:確かに。
──めちゃめちゃ贅沢な使い方をしているなって(笑)。
内田:サビの爆発力を考えたとき、ラスサビはサウンド的な部分で歪みを足して開放感を出したんですけど、それを踏まえた上で1番サビはどうするかってところで。サビの直前が普通のコードストロークだったら味気ないよなってことで、あのリフを加えたんですよ。
──2回あるギターソロもフレーズはもちろん、それぞれ音色も変えていますね。
内田:最初のギターソロは、もう完全に僕がやりたいことと言うか、自分が気持ちよくなるためだけのソロという位置づけで感情的に弾いたんですけど、アウトロに加えたソロは蓮と一緒に考えました。自分の中でギターソロは基本、自由時間だと思ってるんです。だけど、イントロとアウトロは曲の印象を決めるものだから、やっぱり曲を作った蓮の意思や気持ちを尊重したいと思って。一緒にギターを弾きながら、「こういうのどう?」って提案したり、「こういうのがいいんじゃない?」と蓮が提案したものに対して、自分のエッセンスを足したり。それでできたのがアウトロのソロです。たぶん、さっきレファレンスとして挙げていたクリープハイプさんみたいな部分をちょっと意識した音作りや音選びになっていると思います。
──なるほど、ありがとうございます。こんなふうにお一人ずつプレイやサウンドについて聞かせてほしいんですけど、豊田さんのベースもこれまでの曲の比べると…。
豊田:かなり歪ませてます。
──歪ませつつフレージングもルート弾きが中心で。これまでギターとユニゾンでリフを弾いたり、リード的なフレーズも弾いたりしていたことを考えると、今回はかなりタイトですね。
豊田:蓮さんから、「こういうベースにしてほしい」ってふわっと言われたとき、「どういうバンドを参考にしたらいい?」って聞いたら、「SIX LOUNGEさんとかを聴いてみて」ということだったので、SIX LOUNGEさんとかを聴いてこういうベースになったんです。たとえばガレージロックを聴いてみたら、歌をまったく邪魔しないベースが多くて。それも学びになったんですけど、そういうタイトなベースを入れるとかベースの音を歪ませるとかは、普段の僕の思考にはないものだったので、すごく新鮮で楽しかったです。それにしても、とんでもない歪みの乗せ方をしたよね?
浦山:うん、した。
豊田:本当にプレベの音っていうか。レコーディングではプレシジョンベースっていう、いなたい音のするベースを使ったんですけど、プレイだけじゃなくて、その楽器が求める音に寄せていくってこともしたんです。だからyutoriとしては新しいというか、聴いたことのないような曲が生まれたのかなって思いますね。
──タイトなベースプレイに徹しながらも、所々に動くフレーズも入れています。2番のサビの裏にサステインを生かして、リードっぽいフレーズを加えているところは、豊田さんならではですよね。
豊田:昔から隙あらば動いちゃうみたいな、ベーシストとしてはあまり良くないクセがあったんですけど。
内田:いや、本当にそういうクセがあって。ギターソロにベースソロを被せられたこともありましたからね(笑)。
豊田:2021年5月にリリースした「午前零時」ね。当時、僕は6弦ベースを使っていて、通常の4弦ベースに、高いほうと低いほうに1弦ずつ足した6弦ベースで。そうするともう、その増えた高いほうの1弦を使いたくなっちゃって(笑)。そうしたらギターともボーカルとも音域がぶつかっちゃって、ちょっと反省しました。
内田:でも今はね、いい具合に(豊田)太一の良さとして出てるよね。
豊田:学んで改心して、今の僕になりました。
──改心って(笑)。でも、本当に新旧のプレイがいい塩梅で混ざり合っていますね。それはギターも然りなんですけど、“ギターはこれを使ってみた”みたいなのはありますか?
内田:普段はフェンダーのアンプなので、けっこうクリーンなアンプにエフェクターで歪みを加えているんですけど、今回はボグナーっていうめちゃくちゃ歪むアンプを使いました。直接アンプでがっつり歪まるってやり方だったので、そもそものパワー感が違うというか。エフェクターの限界を超越したアンプの歪みという感じなので、これまでの中でぶっちぎりの歪みになった理由はそこっていうのはあります。アンプに関しては、古都子も同じボグナーを使ったので、歪みの相性としてもう最高でしたね。
佐藤:全編通して、初めてホワイトファルコンでレコーディングしました。ギターだけ変えて同じアンプで歪ませてるから、どっちのギターもめっちゃ歪むけど、相性は抜群で。
──ギターの歪みはボグナーだけで作っているんですか?
内田:プッシュでエクリプス(SUHR)を使ってます。古都子もそれとVoodoo-1(ロジャーメイヤー)を掛けっぱで。
佐藤:「純粋無垢」のレコーディングのとき、テックさんがVoodoo-1を持ってきてくれて。見た目もかわいいし、音もカッコいいし、思わず買ってしまいました。
──ギターソロは?
内田:弁当箱ファズです(笑)。
──いかにもファズの音ですよね。エレハモのBIG MUFFですか?
内田:最初、Voodoo-1を使ったら、すごくきれいな音になっちゃって。
佐藤:変にまとまっちゃったんだよね。
浦山:“きれいに鳴らすなよ”と思って、「ちゃんと汚い音で鳴らせ」って言いました(笑)。
──ちゃんと汚いって(笑)。
内田:それで5種類ぐらいファズを試して、弁当箱ファズ以上に歪むのがあったんですけど、なかなか低音の感じが出なくて、「やっぱりデカいのが一番いいんじゃね」ってふざけて言いつつ、筐体のデカさが正義でした(笑)。
──そして、浦山さんのドラムもこれまたタイトで。
浦山:かなりタイトですね。“できないからやらない”と“できるけどやらない”ってすごく違うと思っていて。やれるけどやらないカッコよさってあるよなって、一生8ビートに徹しました。だから、聴き心地がいいと思います。聴き心地を意識しましたね。どれだけ他を邪魔しないか。まずベースがシンプルでタイトだからこそ、ドラムが一番タイトじゃなきゃダメだと思ったので、敢えてフィルもほとんど入れなかったんですけど。
内田:最近の曲、それが増えたよね。引き算が。
浦山:難しいことが曲にはまってカッコよく聴こえる時もあるけど、リスナーのことを考えると、自分のエゴよりも聴き心地を重視するべきだと思うんですよ。「純粋無垢」は特にそれを意識したので、どシンプルにしましたね。
──1番のサビにスネアロールが入っていますけど、スネアロールはそこだけですか?
浦山:あと落ちサビもかな。
──他がシンプルだからこそ、スネアロールが映えるというか、スピード感がめちゃめちゃカッコいい。
浦山:最初はシンバル4つでダンダンダンダンってやろうと思ったんですけど、疾走感がちょっとなくなるなと思って。それだったら、ダラダラダラダラダラダラダラってやってるほうが聴いていて、“来るぞ来るぞ。ここからどうなる!?”ってなるじゃないですか。で、サビが来るみたいなところも含めて、シンバルを4分で打つよりもスネアの連打にしてよかったと思います。
──スネアロールにして、絶対正解だと思いますよ。
浦山:そう思います。
■もっと大きなステージで一人一人に歌いたい
■全部しっかり届けられる1年にしたい
──そして、佐藤さんのボーカルは曲調が曲調なので、いつにも増してパンチのあるものになっていますが、「純粋無垢」の歌詞を受け取ったとき、その歌詞を歌う人としてどんなふうに感じましたか?
佐藤:これまで彼(浦山)が書いてきた歌詞と違って、「純粋無垢」は同じ言葉の繰り返しで、ワンコーラスにすべてが詰まっているんですよ。しかも、ベースもドラムもタイトなので、歌が特に映える曲だと思いましたし。だから、どれだけ芯を持たせて歌えるか、ということを考えました。ぶれちゃいけないなと。
──そこを一番意識したと。
佐藤:“私、あなたの純粋無垢な香り とても嫌いだった”とか、“私、あなたの純粋無垢な瞳 とても嫌いだった”とか、“嫌い”という言葉をけっこう前に押し出しているというか、何回も歌うので。“嫌い”という軸がぶれたら、この曲は終わりだなって。それが正解かどうかわからないですけど、レコーディングの時、自分が嫌いな物事を思い浮かべながら歌いました。
──たとえば、どんなものを思い浮かべたんですか?
佐藤:ピーマンを思い浮かべました。
──なるほど(笑)。
佐藤:子供みたいですけど、私、ピーマンが苦手なんですよ(笑)。
──お陰でぶれずに歌えたわけですね(笑)。ところで、いただいた資料に“新たなラブソング”と書いてありましたけど、聴きながら、“これってラブソングなのかな?”ってちょっと思いました。
浦山:ラブソングではある、とは自分では思っていて。ラブソングっていろいろな種類があると思うんですけど、その人のことを好きじゃないと書けないし、この曲も“嫌い”とは言ってるけど、その人のことをこんなに書くってことは別に嫌いではないというか。本当に嫌いだったら、まず思い出したくないじゃないですか。これだけ言葉にしているってことは、嫌いなんだけどその人になりたかった、ということも含めて、好きなところもあるんじゃないか。それはどの感情なんだろう?って考えると、やっぱり愛なのかな。好きとか恋とかではないけど、愛ではあるのかなと思ったので、やっぱりラブソングではあるなと思います。
佐藤:不器用だよ、すごく。
浦山:はい。
佐藤:いや、君がじゃなくて、「純粋無垢」の主人公が(笑)。
浦山:あぁ、なるほど。
内田:その返事が不器用すぎるけど(笑)。
豊田:そんなところも含め、人間臭いところが蓮さんらしい。繊細で、すごくいい歌詞だと思います。普通、こういう歌詞って、自分が見透かされるみたいで、あんまり書きたくないと思うんですよね。“そういう人間なんだって思われちゃうかもしれない”って考えて、僕だったらたぶん書けないですけど、自分のことを曝け出すみたいに書けちゃう蓮さん、すげえなって思います。
浦山:歌詞で嘘をつきたくないんですよ。たとえば、そんな気持ち、それほどないのに“救うよ”とは書けない。聴いた側は、ありがとうって思うかもしれないけど、こっちはそんな気持ち、そんなにないから、っていううしろめたさがダメで。だから実体験含め、自分が本当に思ったことしか書けないんです。漫画を読んだり、映画を見たりして、それをモチーフに歌詞を書くこともありますけど、100%そのことを書いたら、自分じゃない人が書いてるみたいで、自分に対して響かない。だから、嘘はつかないようにはしてます。そういうところが人間臭いと思われるのかもしれない。
──内田さんはいかがですか?
内田:同じ言葉が何度も出てくることによって、言葉の意味合いが変わってくる歌詞のスルメ感みたいなところが、この曲の良さなのかな。言葉としてはシンプルなんだけど、それを繰り返すことによって、意味がどんどん捻じれていくみたいな、そのシンプルさとひねくれてる感じが共存してるのが、この歌詞のおもしろさだと思うんですよ。最初のギターソロの後に、“君と似ていた部分はひとつもなかった”って1行だけ出てくるのが、個人的にすごく好きで。
──そこも含めてギターソロだと感じました。
内田:僕は“ギターソロに、その1行に繋がるような葛藤を入れてくれ”っていう意味なのかなと思って。
浦山:そうそう。
内田:その葛藤によって、出てきた結果みたいな歌詞がここにあるのがすごく気持ちいいなと思って、メンバーながら、“さすがです”と思いました。
──ボーカルレコーディングの時は、佐藤さんは歌詞を書いた浦山さんと歌い方の擦り合わせはするんですか?
浦山:ボーカルのディレクションは基本的に全曲、僕がやっているんですけど、今回は「まずはっちゃけてくれ」と言いました。AメロもBメロもちょっと低めだけど、ウェットすぎる感じやおさえた感じで歌っちゃうと曲に合わないから、「音は低めだけど、芯がある感じで歌ってほしい」というのは伝えました。低音で芯があるからこそ、サビの疾走感が出ると思ったので、そこは特に意識してましたね。
佐藤:どの曲もそうなんですけど、その曲を歌う間、私は曲の中のキャラクターになりきるというか、演じるので。キャラクターのビジュアルとか年齢とか性格とか、すべてレコーディングする前に蓮と擦り合わせして、自分の中で噛み砕いた上で、「じゃあ一回やってみるね」ってワンコーラス歌って。歌い終わったときに解釈の不一致が起きてないかも確認し合うんです。「純粋無垢」の主人公は、けっこうツンツンしていて。素直になれない、素直になったら負けだと思っている。言っちゃえば、扱いづらいタイプなのかなと考えたんですけど、それが蓮の中のキャラクター像と一致したので、けっこう歌いやすいレコーディングではありましたね。
──浦山さんの実体験や本当に感じたことから生まれた歌詞を、佐藤さんが歌詞の中のキャラクターを演じながら歌うという構図がおもしろい。
浦山:そうですね。ただ、嘘はつきたくないと思いながらも、歌うのは古都子なので、線引きはしっかりしてます。一人称も“僕”が使える時は使いますけど、浦山蓮が投影されすぎると、それはもう古都子じゃないというか。その曲から僕が滲み出すぎたら、届くものも届かないと思って、そこの線引きは毎回すごく考えます。古都子だから歌えるワードと、古都子にはあまり合わないワードを自分で模索しながら。たとえば、今回の“とても嫌いだった”を、“とても好きだった”にしちゃうと違うのかな。そういうことを歌ってほしくないわけじゃないけど、どちらかと言うと、そういう真っ直ぐな言葉よりもむしろ卑屈に聞こえる言葉を歌ってほしいという思いが強いので、歌詞を書く時はそういう言葉選びを意識してますね。
──今のお話を聞いてから、「純粋無垢」を聴いたら、またちょっと印象が変わるような気がします。さて、「純粋無垢」は2024年最後のシングルなのですが、2024年の締めくくりというよりは、新しいスタートを印象づける曲なのかなと思いました。2024年に準備してきたものを、2025年に爆発させるという発言もありましたが、2025年はどんなふうに活動していこうと考えているのか、最後に抱負を聞かせてください。
佐藤:もっと大きなステージというか、もっとたくさんのお客さんとしっかり顔を合わせて、目を見て、一人一人に歌っていきたいですね。もっとしっかりと。届けてるつもりでも相手には届いてないことっていろいろあると思うので、全部しっかり届けられる1年にしたいと思います。あと、2025年は2024年以上にSNSも含め、yutoriに関する情報をみなさんにお伝えしていきたいです。
浦山:ライブで言うと、曲に負けないようにはしたいですね。特に「純粋無垢」は誰か一人が気を抜いた瞬間、楽曲に食われるような気がするんですよ。
──でも、「純粋無垢」はライブで盛り上がるんじゃないですか?
浦山:この間、ライブ初披露したんですけど、盛り上がりました。お客さんの反応がわかりやすい。クラップも入れやすいし、内田さんが煽ったら、お客さんも応えてくれるし。「純粋無垢」に関しては、楽しみ方はけっこう自由だなと思いました。もちろん、どの曲もそうなんですけど、この曲は特にそうですね。歌うのも正解だと思うし、手や拳を上げるのも正解だと思うし、浸るのも正解だと思うし。
──制作面はいかがですか。やりたいと思いながら、曲に反映させていないことって、まだまだあるんじゃないでしょうか?
内田:たくさんあります。
浦山:同期をもっと使ってみたいですね。
佐藤:シンセも入れたい。
──おっ、そうなんですか。
内田:2024年はそれを我慢しながら、どこまでできるのか攻めてたところもあって。だから、電子音を入れたくても、シンセで出すんじゃなくてギターのエフェクターで出したりとか、4ピースの限界をとことん追求してたところもあったんです。けど、2025年はもう、使えるものは使っていこうと思ってます。今現在の自分たちに何ができるのか知ることができたからこそ、“それができるなら、これもできるじゃん”ってわかってきたところもあるので、2025年はどんどん取り込んでいきたいと思ってます。
──なるほど。2025年はさらにおもしろい曲、カッコいい曲を聴かせてもらえそうですね。大いに期待しています。
浦山:がんばります!
取材・文◎山口智男
■新曲「純粋無垢」
2025年12月18日(水)配信開始
配信リンク:https://yutori.lnk.to/Jyunsuimuku
■<yutori 5th Anniversary Starting Live「大人になったら」>
202年2月23日(日) 東京・shibuya eggman
open19:00 / start19:30
▼チケット
スタンディング 3,000円
※ドリンク代別途必要
【オフィシャル最速先行】
受付期間:2024/12/26(木) 20:00~2025/1/15(水) 23:59
https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=2448110&rlsCd=&lotRlsCd=32462
■<yutori ONEMAN TOUR 2025>
4月12日(土) 福岡・DRUM Be-1
open 17:30 / start 18:00
4月29日(火/祝) 新潟GOLDEN PIGS BLACK
open 18:00 / start 18:30
5月30日(金) 宮城・darwin
open 18:00 / start 19:00
6月01日(日) 北海道・札幌PLANT
open 17:30 / start 18:00
6月07日(土) 広島・CAVE-BE
open 17:30 / start 18:00
6月08日(日) 香川・DIME
open 17:30 / start 18:00
6月14日(土) 愛知・DIAMOND HALL
open 17:00 / start 18:00
6月29日(日) 東京・Zepp Shinjuku
open 16:00 / start 17:00
7月11日(金) 大阪・BIGCAT
open 18:00 / start 19:00
▼チケット
¥4,500 (ドリンク代別)