“組織内フリーランス”ではない! 「4時半に起きてルポライターとしての原稿の執筆。10時からは会社の勤務時間」二刀流記者の創作アウトプット術

新聞記者とルポライターの両立

――三浦さんはいまルポライターとして活躍する一方で、新聞社に所属する現役の記者でもあります。どのように両立しているのでしょうか?

最近よく「三浦さんは組織内フリーランスでいいですよね」って言われるんですが、大間違いです(笑)。周囲からは、僕があたかも筑紫哲也さんや本多勝一さんみたいに、会社組織に所属しながら自由に取材しているように見えているのかもしれませんが、実際はまったく違います。

僕は現在、朝日新聞の盛岡支局に勤務する地方記者なんですが、地方記者は今、本当に大変なんです。というのは、メディアの経営が大きく傾いてきて、特に新聞は地方からまず人を減らしている。かつての半分から4分の1ぐらいの人数で、回しているのが実情です。

その中で、僕は今年で言えば、全国版に年間2~3シリーズの連載記事を書き、新聞に170本の署名記事を書き、それとは別にネットサイトに100本以上の記事を出しています。

その合間を縫って、ルポライターとして年に1冊のペースで本を出せるように、取材と執筆を続けています。

――合計すると驚くべき数の執筆量です。

正直、睡眠時間と命を削っています(笑)。

1日のスケジュールとしては、まず朝は4時半とか4時40分ぐらいに起きる。だいたい午前5時から午前9時とか10時ぐらいまではずっと書籍用の原稿の執筆です。午前10時からは会社の勤務時間で、夜8時とか9時ぐらいまで働いて、帰ってきてすぐ寝る。

翌朝、起きたらコーヒーとマンゴー入りのヨーグルトを食べながら、また書籍用の原稿を書く。僕は書籍用の原稿はだいたい十数回書き直します。それを1年間続けて、ようやく人に読んで満足してもらえるような「商品」に仕上げられる。

――そうした日課の一方で、SNSでの発信をみると、いつも熱心に地方や国外に出かけていらっしゃるような印象があります。

たとえば昨日(当インタビューの前日)は勤務先の盛岡にいて、今日は新潟に行ってから東京(当インタビュー会場)に来ています。明日は講演で名古屋に行き、来週は福島と茨城に行く。来月は沖縄と台湾にも行く予定です。

現場を見たり現地の人の話を聞いたりすることがなにより大事なので、移動の労を惜しんではいけないし、交通費を削っちゃいけない、といつも自分に言い聞かせています。地方記者なので、東北以外への移動・宿泊はもちろん自腹です。

でも、それをケチると世界が小さくなる。フリーのジャーナリストの方々の場合は、経費はみんな自腹ですし、私はずいぶん恵まれていると思っています。

――三浦さんがこれまで書いてきた作品の世界を思い返すと、とても説得力があります。

僕は最近はどこか、そうした移動距離が原稿の質を決めているんじゃないか、と考えている節があります。走りながら考える、ビジネスホテルやドミトリーの狭いテーブルの上でメモや原稿を書く、それが僕のスタイルなんじゃないかと。

思えば『沸騰大陸』も、当時の膨大な移動距離によって成り立っている本です。200ページちょっとの中に、20カ国以上の生活や人生が散りばめられている。僕が移動した距離と、自分の目と耳で確かめた「物語」を、ぜひ読んでいただけたらと思います。

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「一匹狼」ではなく、「一頭象」と呼ばれたい

――『沸騰大陸』では、その膨大な移動距離の先に見えたアフリカの雄大な景色も、印象的に描かれていました。

アフリカでは、見渡す限りの大地や壮大な夕焼けとか、テレビや映画や写真で見たことのあるような絶景を何度も目にしますし、それはそれでとても感動するんですが、ともすると紋切り型になってしまうため、新刊の『沸騰大陸』には盛り込んでいないのです。

ただ、そんな中でも、いま改めて心からの感動を思い出すのは、やはりアフリカゾウのことです。たまたま夕暮れ時、広大な草原で車のエンジンを止めて地平線を見ていたんですね。アフリカの地平線って、本当に丸いんですよ。

そしたら地平線の向こう側がこう、黒くて太い線になって、ところどころに点々が見える。何だろうな、と見ていたら、その線がだんだん太く、大きくなってくるわけです。ズン、ズン、ズンって。それらが、はるか遠くからこちらに向かってくるゾウの大群なんだと気づいたときには、本当に鳥肌が立ちました。まるで地平線が動いてるみたいなんです。

草原を埋めた数百頭のアフリカゾウの群れが、ブワーンとこっちに迫って来る。しかも先頭にいるのが、メスの一番の長老のゾウなんですが、それが鼻を高く押し上げ、耳をバタバタしながら、こちらを威嚇しながら迫ってくる。これを見たときは、もう胸がいっぱいで、アフリカに来て本当によかったな、と思いました。

――それは一度、ぜひ見てみたい光景です。

ぜひ、見てみてください。ゾウという生き物は、あまりに雄大で、優しく、彼らそのものが「大地」なんです。だからできれば、動物園ではなく、アフリカに出向いて、野生のゾウたちを見てほしい。

僕はよく、周囲から「一匹狼」と言われますが、実はオオカミは群れで生活する動物です。一方、アフリカゾウのオスは大きくなると、群れを離れて一頭で行動します。だから僕も、「一匹狼」ではなく、「一頭象」と呼ばれたいです(笑)。

取材・文・撮影/集英社学芸編集部