森永卓郎 (C)週刊実話Web

2024年大晦日の朝日新聞の1面トップに、私が書いた『ザイム真理教』の内容を報じる記事が載った。

出版から1年半、大手メディアが初めて書籍の内容を紹介したのだ。

記事では、私の著書を「財政均衡主義を掲げる財務省は、『カルト教団化』している。その教義を守る限り、国民生活は困窮化する一方になる」とまとめた。

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だが、朝日新聞はそこから、財務省擁護の論理を展開していく。

財務省の権威はすでに失墜していて、財務省批判は一種の弱い者いじめだというのだ。

その認識は、事実と異なる。

例えば安倍政権末期の2020年度に80兆円を超えていた一般会計の基礎的財政収支赤字は、2025年度予算案ではわずか7800億円と、5年間で財政赤字を100分の1まで強引に削減している。

2023年度の財務省と金融庁出身者の天下りは410人と、全省庁1544人の27%を占めており、圧倒的トップであると同時に10年間で11%も天下りを増やしている。

財務省の権威は、失墜どころか、ますます強大化しているのだ。

朝日新聞は、ここからさらに歴史認識に踏み込む。

「戦前も大蔵省の権威が地に落ちていたのは同じだ。積極財政で世界恐慌による不況から抜け出し財政引き締めに転じようとすると、軍部や議会から猛反発を食らい、高橋是清蔵相は二・二六事件で凶弾に倒れた」

「軍部による予算膨張の最後の歯止め役を失った日本は、破局の戦争への道をひた走ることになる」

大蔵省が財政緊縮の手綱を緩めたことが、日本を戦争に向かわせたというのだ。

そもそも二・二六事件は、昭和維新を掲げる陸軍の一部が軍部主導の政権樹立を目指して起こしたクーデターだ。

高橋蔵相は、クーデターに巻き込まれただけだ。

記事は忖度&経営優先

もう一つ、朝日新聞の致命的な間違いは「当時の大蔵省批判を振り返ると、その論理と財政の状況はいまと酷似している」としていることだ。

朝日新聞が示した政府債務残高のGDP比のグラフをみると、一見、戦前と現代の数字が似通っているように見える。

しかし、グラフはネットではなく、グロスの借金だけを描いている。

現代日本の財政は確かに借金を増やしてきたが、それ以上に増税で得た資金を政府資産の積み上げに回している。

すでに政府の資産は借金を上回っている。

だから、IMFが行っている財政の国際比較でも、日銀を含む統合政府ベースでネットの政府債務を比較すると、日本はカナダに次いで世界で2番目に財政が健全な国になっているのだ。

朝日新聞が、歴史を歪曲してまで、なぜ財務省の擁護をするのかについては、二つの可能性がある。

一つは勉強不足で、本当にこの記事のような歴史観を持っていること。もう一つは、本当のことを知ってはいるものの、財務省に忖度して、事実を歪曲していることだ。

私は後者の可能性が極めて高いと考えている。

皮肉なことに、この記事を掲載した新聞の3面には、三五館シンシャが出稿した『ザイム真理教』の広告が、三段抜きで大きく掲載されている。

もし朝日新聞が記事にあるように、『ザイム真理教』という書籍が日本を戦争へと導く不当な財務省批判をする書籍だと本気で考えているのであれば、こうした広告を掲載すべきではない。

それを堂々とやっているということは、朝日新聞が真実の追及よりも「経営」を優先していることの証左なのだ。

「週刊実話」1月30日号より