東映ラインナップ発表会見が1月16日に丸の内TOEIで行われ、2025年および2026年の同社のラインナップが明らかとなった。
この日は、東映株式会社代表取締役社長の吉村文雄、映画事業部門長兼映画編成部長の出目宏と共に、鈴木亮平、有村架純が兄妹役として出演する『花まんま』(4月25日公開)の前田哲監督、STUDIO4℃が手掛ける意欲作『ChaO』(2025年夏公開)の田中栄子プロデューサー、大友啓史監督がメガホンを取る『宝島』(9月19日公開)の五十嵐真志プロデューサー、シンエイ動画×冨嶽による大作アニメ『ペリリュー -楽園のゲルニカ-(仮)』(12月5日公開)の久慈悟郎監督が出席した。
バラエティ豊かなラインナップが発表された
吉村社長は「アニメ作品にますます力を入れていく。東映アニメーション作品だけでなく、日本のアニメシーンを牽引する強力なプロダクションとタッグを組んでステキな作品を届けていく」「愛される物語を“全世界へ”というビジョンに基づき、海外展開を積極的に仕掛けていきたい」「泣かせるラインナップ。泣かせる東映」と今後のラインナップにおける3つの推しポイントを掲げた。
また1960年9月20日に開業した「丸の内TOEI」が東映会館の再開発に伴って閉館することが決定しているが、吉村社長は「丸の内TOEI」について「この夏で終わりを迎えます」と改めて発表し、「東映にとって新たな創世の年。東映の新しいスタートの年」だと2025年を表現した。
東映株式会社代表取締役社長の吉村文雄
吉村社長は「今日のラインナップ発表会は、どうしても丸の内TOEIを使ってやりたかった」とも。「こちらの東映会館には本社のオフィスも入っていますが。今年の7月で本社が京橋に移転します。このビルは昭和35年のスタートから60数年経ちますが、この建物も取り壊して再開発します。東映としては最後の直営館となる丸の内TOEIもクローズ。閉館日は本年、7月27日の日曜日ということに決まっております。多くの俳優の方々、スタッフの方々、お客さまに愛された劇場です。この劇場の最後を華々しく盛り上げて、賑やかな終幕を迎えたい」と心を込めた。「新しいスタートの年」だという2025年から2026年のラインナップは「お客さまファーストを心がけた企画を並べた」と語り、「なにがいい映画なのかと考えると、皆さまにおもしろい、心の底から楽しいと思っていただける映画が、東映にとってのいい映画だと位置付けています。そのためにできることは、すべてのステップにおいて全力で取り組んでいきたい。巳年ということで、ヘビーローテーションしていただけるような作品を揃えたつもりです」と意気込んでいた。
ラインナップ紹介は、1月17日から公開となる『室町無頼』からスタート。出目は、世界的に日本の時代劇が注目されていることに言及しつつ、「日本映画史上に残る、圧倒的なスケール感で贈るアクション時代劇。いまの時代劇ブームの集大成と言える東映の自信作」だと胸を張った。
【写真を見る】『花まんま』の前田哲監督、鈴木亮平&有村架純は「前世はきっと兄妹」と笑顔
そして直木賞を受賞した朱川湊人によるベストセラーを映画化した『花まんま』は、不思議な記憶を巡る兄と妹の物語。
前田監督は『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)や『そして、バトンは渡された』(21)に取り掛かる前から朱川による原作に出会っていたそうで、「この原作には、人の心に届く物語の原型のようなところがある。大切な人、愛する人を失い、残された人たちがどう生きていくかということを朱川先生が見事に物語として紡いでいた。なんとか映画にしたいという想いがあった。17年くらい時間がかかってしまい、すごく想いが詰まっている作品」と並々ならぬ想いを吐露。「ネイティブな関西弁を話せる俳優さんのトップの人から当たろうと思っていたところ、鈴木亮平さんと有村架純さんが快くこの話に乗ってくださった。お2人が映画を輝かせて、豊かにしてくれた」と感謝を述べ、鈴木と有村については「前世で兄妹だったんじゃないかと思う。すごく息が合った」と撮影現場で絶妙なコンビネーションを目にしたと話す。「笑いがあって、心に響く物語を関西弁で見事に表現してもらった。本当に2人は仲良し」と目尻を下げながら、「ベストのキャスティングの人たちが集まってくれた。俳優陣も楽しんでくださって、すばらしいパフォーマンスを見せてくれた」とアピールしていた。
STUDIO4℃が手掛ける意欲作『ChaO』
『ChaO』は、人間と人魚が共存する未来を舞台に、サラリーマンのステファンが人魚王国のお姫様、チャオに突然求婚される様を描く。種族や文化を超えてわかり合うために、なにができるのかというテーマが浮かび上がるラブストーリーだ。
田中プロデューサーは「人間は、出会うことが奇跡。そのなかで自分たちがした約束や叶えようとした想いが叶うことも、またなかなかないこと」と切りだし、「いま宗教や文化の違いのなかでいろいろな戦争が世界中で起きている。異文化を乗り越えるとはどういうことだろう。どう変わることによって人を理解できるのか。もうちょっと違う目線を持ってほしいというところから、アイデアをいろいろ練るなかで生まれました」と物語の着想を振り返った。「10万枚以上という、ものすごい作画の枚数で描かれている。アニメーションの作画力も感じてもらえたらありがたいなと思っています。1枚、1枚、手で描いて完成させた作品」と手描きアニメのよさも詰まっているといい、「うちが手がけた『マインド・ゲーム』や『鉄コン筋クリート』『海獣の子供』といったちょっとサブカルやアートなニュアンスもある作品で、王道ではないかもしれませんが、東映さんとタッグを組むことで王道になれる作品なのではないかと期待しています」とSTUDIO4℃の新境地となる作品になりそうだ。
大友啓史監督からビデオメッセージが到着
第160回直木賞を受賞した真藤順丈による同名小説を、妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太ら豪華キャストを迎えて映画化するのが『宝島』だ。会見には、大友監督からビデオメッセージが到着した。大友監督は「2019年に原作を読んでから、完成まで6年かかった。格段の思い入れがある」と告白。「自分のできることすべてをこの作品に投げ打って、なんとかこの作品を実写化したいと思った作品。コロナなどもあり、撮影が延期してしまった。無理なのではないか、諦めようという気持ちもあったりした」と打ち明けたが、「原作に込められている、“生きろ”という痛烈なメッセージがある。戦後、アメリカ統治下の沖縄が舞台。まだ食えない時代に、若者たちがハングリーな心と気持ちを抱えて一生懸命に生きようとした。その生きる活力やエネルギーには、令和の時代になってデジタル化が進むなかで、もう一度生身の体を持った人間として、自分の人生を生きないといけないという深いメッセージが原作に刻まれていた」と原作に励まされながら、完成まで漕ぎ着けたという。
豪華キャストが集結する『宝島』
五十嵐プロデューサーは「1950年代、60年代の沖縄の原風景を再現している。観客の皆さまに作品世界に没入して、体感していただくために、監督、スタッフ一同、リアルさを追求することにこだわり抜き、制作しました。プロジェクト費としては、25億円以上の規格外の金額をかけています」と熱い思いを口にしていた。
戦争漫画「ペリリュー 楽園のゲルニカ」が映画化されることが発表された
『ペリリュー -楽園のゲルニカ-(仮)』からは、久慈悟郎監督が参加した。終戦80年に捧げるアニメーションで、1万人中たった34人しか生き残れなかった地獄のような戦場、ペリリュー島で起きた壮絶な戦いを描く。
映画は初監督となる久慈監督は「事実をもとにしたフィクション。ペリリュー島は、南北に9キロ、東西に3キロしかない島です。主人公たちはさらに狭い2、3キロのなかで戦って、逃げて、潜伏しています。実際にロケハンで現地に行ってみると、こんな狭い範囲で過ごしていたのかと実感して帰ってきました」としみじみ。原作は、武田一義による戦争マンガ。久慈監督は「原作の武田先生の絵がかわいらしく、柔らかい絵で表現されている。凄惨な表現もたくさん入っている。映画もその絵の力を借りて、なるべくそこであった事実から逃げないように表現したいと思っています」とこだわりを明かし、当時を知らない人たちにも「自分ごととして観てもらえるようなものにできれば」と力を込めていた。バラエティ豊かなラインナップが並び、最後に出目は「世界に向けてどう発信していくのかというチャレンジもある。今年1年間、チャレンジが実を結ぶように、1本、1本、大切に映画を作り、配給、宣伝をしていきたい」と未来を見つめていた。
取材・文/成田おり枝