
中居正広 (C)週刊実話Web
1月23日に芸能界引退を発表した元SMAPのリーダー・中居正広の女性トラブルを巡る問題で、開局以来の大ピンチを迎えているフジテレビ。
港浩一社長は17日、同局幹部社員の関与が疑われていることなどについての記者会見を開いたが、限られたメディアしか参加できず、テレビカメラによる取材NGという閉鎖的な姿勢が批判された。
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会見で、港社長が中居の問題について把握したのは「2023年6月」だと判明。2023年6月といえば、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」がちょうど発足した時期だ。
この年の3月、イギリスのBBCが『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』と題したドキュメンタリーを放送。旧ジャニーズ事務所の創業者・故ジャニー喜多川氏の性加害問題が明るみになり、世界を揺るがす大騒動に発展した。
奇しくも同時期に、かたやベールがはがれ、かたや隠ぺいされた2つの性加害問題。“ジャニーズ”でつながっているのは、果たして偶然なのだろうか。
昨秋、ジャニー氏の性加害問題について、さまざまな形で告発を続けてきた「ジャニーズ性加害問題当事者の会」元代表・平本淳也氏にスポットを当てた『ジャニーズ崩壊の真実 命を懸けた35年の足跡』(小社刊=本体1700円+消費税)が発売された。
35年以上にわたる旧ジャニーズ事務所と平本氏との関係を詳細に記し、ルポ形式でメディアが触れていない事件の真実を明かす。
※以下、第3章「孤独な戦い」から一部抜粋
BBCが性加害に着目

35年にわたり告発を続けてきた平本淳也氏
世界的にも類を見ない少年に対する大量性加害事件について、これを根本から解決しようという人権意識のようなものは、日本のマスコミ報道からはまったく感じられない。
これは海外の基準からすると、とんでもなく異様なことであり、「こんなに重要なニュースをなぜ報じないのか?」「完全解決となるまで徹底追及するべきだろう」という一種の問題意識が、のちのBBCによる番組制作へとつながることになる。
平本のところへBBCから連絡があったのは、まだコロナ騒動前の2018年のことだった。
「ジャニーのことを語れるのが僕しかいないから、僕のところに来たんです。それで先方の関係者と新宿の喫茶店で会いました」
平本はこれ以前にもBBCとつながりがあり、日本の芸能界や地下アイドル文化の特集番組で、キャスティングを手伝ったりしたことがあった。
「それもあって、以前に関わった番組とは別のスタッフだったけど、BBCにおいては『日本の芸能界のことなら平本に聞け』というふうになっていた。元ジャニーズということから、BBC以外にも海外メディアの取材はよくあった。それでもこのときばかりは、ジャニーの犯罪をテーマにした番組をつくりたいというので、かなりびっくりしたよね」
BBC側は、文春裁判などある程度の資料と情報を整理しながら、このスキャンダルが日本では事件にも犯罪にもなっていない不思議な状況を紹介する意向だという。
いわゆる暴露系とされる書籍や雑誌記事に携わってき平本は、ジャニーズ事務所の幹部社員たちから煙たがられていたが、新旧ジャニーズメンバーたちとの交友関係は、ほかの誰よりも広かった。
独りぼっちで戦い続けてきた中で身に付けた交渉術や、天性の人当たりの良さにより、同期はもちろん、先輩や後輩たちとのネットワークをしっかりキープしていた平本は、ジャニーの所業についても常に新たな情報をつかんでいた。
性被害を公に告白する者はいなくても、いつの時代もジャニーの虐待行為があったことは、しっかりとチェックし、把握していた。
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ジャニーの異常性を世間に知らしめる
欧米において、権力を持つ著名人の性暴力が次々と明らかになり、いわゆる#MeToo運動も広がりを見せていたにもかかわらず、なぜ日本では、かねてから俎上に載せられてきたジャニー喜多川を追及しないのか。
BBCの取材は、そのことに対する疑問から始まったものだった。
ただし、この時点では番組制作が決まっていたわけではなく、まだ企画を立てる前の予備取材の段階であり、つまり、その打ち合わせに参加していた平本は、実質的に企画立ち上げから関わっていたことになる。
「BBCから連絡があったときは、まだジャニーは生きていたからね。2023年からのジャニーズ追及の動きについて、『ジャニーが死んでしまって弁明ができなくなってから告発するのは卑怯だ』などという人間もいるけれど、それが一番ムカつく。僕は35年前のジャニーが現役バリバリのときから、1人でずっと言ってきた。それを誰も聞く耳を持たずに無視してきただけ」
最初はBBC側の記者から、メールで「ジャニー喜多川に焦点を当てた番組をつくりたい」との連絡が入った。
「それで、面白いじゃないですかと即答しましたよ。日本のメディアは誰もそういうことを言ってくれない。YouTubeとかニコニコ生放送の配信者などからしか声がかからないのに、それをBBCがやってくれるという。なんといってもBBCはイギリスの公共放送ですからね。日本でいえばNHKと同格の存在で、その歴史や世界規模の影響力からすれば、NHKよりも権威がある」
そうして番組制作に向けて、内容やキャスティングなどの打ち合わせを続けている中で、2019年7月9日、ジャニー喜多川がくも膜下出血により亡くなった。
「それからも話自体は続いていたんだけど、ちょうど新型コロナの流行が始まって、BBCのスタッフが来日することが困難になった。向こうは『行けるようになったら行きます』と言うんだけど、水際対策がどうのこうのとドタバタしているうちに、あっという間に1年、2年が過ぎてしまった。それでようやく2022年9月に撮影が終わったんです。取材では僕個人だけでも10時間ぐらいインタビューされましたからね。ただ、番組で使われたのは5分ぐらいだったけど。そこはちょっと寂しいよね」と苦笑い。
取材においては、日英の問題意識の差をひしひしと感じたという。
「これまで日本の記者や媒体からは聞かれなかったけど、被害の状況をBBCの記者はしっかり聞いきた。日本人はどこか被害者に対して遠慮があってか興味がないのか、具体的に何をされたかまでは聞いてこない。こっちが『ホモ行為を強要された』と言えばそこでおしまいで、あとは記者側で勝手に脳内補完してくれるというか、具体的な内容については読者に委ねるようなところがあった。だけど、BBCの取材は容赦なかったね。これは決して悪い意味ではなく、こっちとしては詳細を話すことは精神的につらくて苦しいことなんだけど、でも、その被害の実態を明らかにすることによって、ジャニーの異常性を世間に知らしめることができるという。それが彼らにとってのジャーナリズム精神ということなんでしょう」
そもそも日本社会においては「ホモ行為」に対して、明確な共通認識が定まっていない。
どんなことが行われるのか、人それぞれによって頭に浮かぶ行為の内容は異なるだろう。
平本をはじめ告発者たちは、それを「やられた」という一言で済ませ、詳細までは触れないことで、過去のおぞましい記憶から自意識を守ってきた。
だが、時に世間の想像する「やられた」が、自分の実際にやられた行為よりもひどいものだったりする。
そうすると「やられた」と思われることの恥ずかしさや気持ち悪さが増幅して、それで、ついつい「やられていない」と言ってしまうこともある。
被害の事実をないものとすることによって、「自分は汚れていない」と自ら言い聞かせるのだ。