ADHDの人のほうが「食料採取能力」が15%も高かったと判明 / Credit:clip studio . 川勝康弘

15 %以上高いようです。

アメリカのペンシルベニア大学で行われた研究によって、ADHD(注意欠如・多動症)の傾向を持つ人々が、限られた時間内でより効率的に資源を見つけ出す――いわば「採食能力」の高さを示すことが明らかになりました。

一般には「集中力が続かない」「落ち着きがない」と捉えられがちなADHDですが、その特徴がむしろ新しいチャンスを探る「探索行動」において有利に働く可能性があるとしたら、一体どのような意味を持つのでしょうか?

研究内容の詳細は『Proceedings of the Royal Society B』にて発表されました。

目次

なぜ“ADHD”が淘汰されなかったのか? 背景にある進化論食料採取実験で明らかになったADHDの探索力ADHDの優れた食料採集能力が現代社会で罠にはまっている

なぜ“ADHD”が淘汰されなかったのか? 背景にある進化論


ADHDの人のほうが「食料採取能力」が15%も高かったと判明 / オンラインの「茂み採食タスク」の画面構成を示した図。 中央にある茂みをクリック(あるいはカーソルを重ねる)するとベリーを収穫でき、収穫を続けるたびにベリーの残量は徐々に減少していきます。 いっぽう、画面の端にある「移動」ボックスへカーソルを移すと新しい茂みに切り替わりますが、そこで設定された「移動時間」を待たなければなりません。 このように、「茂みに留まるメリット」と「移動時間のコスト」を天秤にかけて判断させることで、参加者が“どのタイミングで茂みを見切るか”を研究者が観察できるようになっています。/Credit:David L. Barack et al . Proceedings of the Royal Society B (2024)

私たち人間を含む多くの生物にとって、限られた資源をどのように探し、どのタイミングで別の場所へ移動するかは、生存戦略を左右する重要なテーマです。

生態学の分野では、この「採食行動」を数理的に解き明かすために「最適採餌理論」が生まれ、蜂から鳥、サル、そして人間に至るまで幅広い種で検証されてきました。

一方で、ADHD(注意欠如・多動症)は集中力が持続しにくい、落ち着きなく動き回るといった特徴が挙げられる一方で、「探索」や「新しい刺激への強い関心」という側面も指摘されています。

ですがもしADHDが単なる障害ならば既に淘汰されてしまっていてもおかしくないのに、多くの人々に現在も残っている事実は、こうした性質が一定の環境では「才能」として働く場面もあるのかもしれません。

特に、遊牧民のような生活様式を持つ集団でADHD関連遺伝子が高頻度に見られるという報告から、ADHD的特性が環境によっては有利に働く可能性があるのではないかという仮説が提示されてきました。

しかし、実際にADHD傾向のある人がどのように資源を探索し、報酬を得る行動を取るのかは十分に解明されていません。

そこで今回研究者たちは、オンラインの「茂み採食タスク」を使い、資源の枯渇と移動コストをあえて設定した条件のもとで、ADHD自己申告スコアとの関連を徹底的に調べることにしました。

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食料採取実験で明らかになったADHDの探索力


ADHDの人のほうが「食料採取能力」が15%も高かったと判明 / ADHD傾向が高い参加者と低い参加者での“茂み滞在時間”を比較したグラフ。 横軸は移動時間(短い条件と長い条件)、縦軸は1つの茂みにどれだけとどまったかの平均時間を示しています。 棒グラフや箱ひげ図の形で示されているように、ADHD傾向が高い人は茂みを早めに切り上げる傾向があり、特に移動時間が短い条件下でより顕著です。 この早期移動が最終的な高い報酬率につながっていると考えられます。/Credit:David L. Barack et al . Proceedings of the Royal Society B (2024)

今回の実験では、アメリカ在住の一般成人457名がオンラインで「ベリーを摘むゲーム」に参加し、どれだけ効率よくベリー(報酬)を集められるかを競いました。

ゲームのルールはシンプルで、画面に表示された「茂み」からベリーを収穫し続けるか、移動時間をかけて別の新しい茂みへ移るかを選ぶだけです。

ただし、同じ茂みから収穫を続けるとベリーの数は少しずつ減るように設定されており、一方で新しい茂みへ移動するには1秒または5秒の“待ち時間”が発生します。

参加者は「短い待ち時間」パターンと「長い待ち時間」パターンの両方を体験し、合計8分間でできるだけ多くのベリーを集めようと試みました。

さらに、プレイ終了後にはADHD(注意欠如・多動症)傾向を測る自己申告によるADHDスクリーニング(※スクリーニングとは、病気や特性の有無を簡易的に調べる検査のことです)テストを受けてもらい、そのスコアとの関連が分析されました。

結果として、多くの人はベリーが減りはじめてもなかなか茂みを離れず、「もう少しだけ取れるかもしれない」と思って長めにとどまる傾向が見られました。

しかし興味深いことに、ADHD傾向を示すスコアが高かった人ほど、茂みを早めに見切りをつけて別の場所へ移動することが多く、実際に最終的なベリーの獲得率が高かったのです。

最終的にADHD傾向が高い人は、オンライン実験の「茂み採食」タスクにおいて、累積報酬で約15%、1秒当たりの獲得率で約17%ほど多くのベリー(報酬)を獲得しました。

つまり、衝動的に動き回る性質がむしろ「早めに切り上げて、新しいチャンスを探す」行動につながり、より多くのベリーを得る結果をもたらしたと考えられます。