チタン製の人工心臓で100日間生き延びることに成功 / Credit:BiVACOR

心臓移植を待つ患者にとって、時間は何よりも貴重です。

多くの患者が適切なドナーを待つことができずに命を落としているのです。

そんな中、医療の歴史に新たな1ページが刻まれました。

オーストラリアで、チタン製の「完全置換型人工心臓(TAH)」を移植された男性が無事に退院し、人工心臓を付けたまま100日間以上生存したのです。

この人工心臓は、従来の補助人工心臓(VAD)とは異なり、完全に心臓を代替する可能性を秘めた革新的なデバイスです。

そして彼は、2025年3月初めにドナーが見つかり、本物の心臓と交換するまで、見事生き抜くことができました。

目次

心臓病患者を救う!?「チタン製の人工心臓」とは世界初、「人工心臓で退院した男性」が命を繋ぎとめる

心臓病患者を救う!?「チタン製の人工心臓」とは


チタン製の心臓 / Credit:BiVACOR

これまで人工心臓といえば、補助装置(VAD)の形で心不全患者をサポートするものでした。

しかし、医療機器会社「BiVACOR」が開発した新しい人工心臓は、心臓の完全な代替となる可能性を秘めています。

このチタン製の人工心臓には磁気浮上技術(MAGLEV)が利用されており、磁石で固定された浮上ローターが備わっています。

摩耗しやすい弁などは存在しません。

唯一の稼働部品は磁場によって浮遊し、物理的な接触がないため、摩耗が発生せず、長期間の使用に耐えられる設計となっています。

実質、「壊れることがない」設計なのです。


コンパクトでパワフルなチタン製心臓。大人から子供まで装着可能 / Credit:BiVACOR

そしてこのチタン製の心臓の大きな利点の1つは、そのサイズと重量にあります。

コンパクトで650gと軽いため、女性だけでなく12歳の子供の胸にも移植できます。

しかも、そのサイズに似合わずパワフルで、運動中の成人男性に必要な血流を十分供給できると言われています。

この人工心臓が実用化されるなら、心臓移植における最大の問題である「ドナー不足」を解決できるでしょう。

そして最近、この人工心臓を移植した患者に大きな進展がありました。

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世界初、「人工心臓で退院した男性」が命を繋ぎとめる

この度、BiVACOR社のチタン製人工心臓を移植されたオーストラリア人男性が、手術後100日以上の経過観察を経て、ついに病院を退院しました。

このニュースは世界中の医療関係者の関心を集めています。


人工心臓により、ドナーが見つかるまで命を保たせることに成功 / Credit:BiVACOR

もともとこの男性は、末期の心不全を患っており、10mも歩けば息切れする状態でした。

しかし、2024年11月、BiVACORの人工心臓が移植されたことにより、驚くべき回復を見せました。

2025年2月には、この装置を付けて退院した世界で初めての人物となりました。

彼は退院後も定期的な検査を受けながら、人工心臓によって普段どおりの生活を送ることができました。

そして2025年3月8日、人間のドナーが見つかり、彼のチタン製の心臓は、本物の心臓と交換されました。

この男性はドナーを待つ間、チタン製の心臓移植によって自らの命を保たせることができたのです。

医師たちは「人工心臓によるつなぎがなければ、患者はドナーが見つかるまでもたなかっただろう」と述べています。

今回の事例は、「金属製の人工心臓を本物と一時的に置き換える」ことが可能であることを示しています。

今後の進展によっては、「永久に置き換える」ことが可能になるかもしれません。

この装置はまだ試験段階にあるため、一般使用は認められていません。

それでもこのニュースは、世界中でドナーを待つ患者たちに希望を届けるものとなりました。

参考文献

St Vincent’s Makes History with Australia’s First Total Artificial Heart Implant
https://www.svhs.org.au/newsroom/news/australia-first-total-artificial-heart-implant

World First: Man Leaves Hospital With Life-Saving Titanium Heart
https://www.sciencealert.com/world-first-man-leaves-hospital-with-life-saving-titanium-heart

Replacing Hearts. Restoring Lives.
https://bivacor.com/#home

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部