
『ミセス・ノイズィ』(20)で、人間の機微を絶妙に描き、 監督としての手腕が注目されている天野千尋の最新作『佐藤さんと佐藤さん』が岸井ゆきの、宮沢氷魚をW主演で迎え、“夫婦”をテーマにオリジナル作品として2025年秋に公開することが決定。あわせて出品情報が明らかとなった。
【写真を見る】ダンス好きで活発、アウトドア派な“佐藤さん”のサチを岸井ゆきのが演じる / [c]2025「佐藤さんと佐藤さん」製作委員会
大学卒業後に会社員を経験後、2009年に映画制作を開始した天野監督。短編『さよならマフラー』がシネアスト・オーガニゼーション大阪にて上映され、 続く中編『費ヲナゲロ』はぴあフィルムフェスティバル(PFF)に入選。初オリジナル長編映画『ミセス・ノイズィ』では、隣人との危うい関係という社会問題をシニカルな笑いで包み、NYジャパンカッツ観客賞、日本映画批評家大賞脚本賞を受賞した。そんな天野が今回選んだテーマは“夫婦”。佐藤さん同士が付き合い、結婚、出産を経て見えた「夫婦」の形とは? 結婚しても離婚しても苗字は変わらない。でも夫婦は常に変化していくもの。その変化にどう順応していくのか、していけないのか。家事や育児、日々のこと、そして未来のこと。夫と妻はなぜすれ違うのか?そんな行き違いを真正面から描いていく。
オリジナルで本作を描いた天野は、「オリジナルの醍醐味は、はてしなく広がる自由な世界の創造主になれることですが、それはこの上なく孤独で苦しい道のりでもあります。だからこそ共に歩んでくれる脚本の熊谷さんの存在が大きな力になっています」と、2006年の『はっこう』で 、PFF2006グランプリ、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭審査員特別賞など受賞した熊谷まどかとの共作を振り返る。さらに、今回佐藤サチ役に迎えた岸井の印象を「岸井さんは、ひと言でいうなら『芯『の人です。芯がある人、という表現ではもの足りない、芯そのものという感じ。ひとつも嘘のない、誠実でまっすぐな芝居を見せてくれました」と語り、佐藤タモツ役に迎えた宮沢を「宮沢さんはとにかく慈しみ溢れる人で、佐藤保という人物に愛情を注ぎ、大事に大事に育ててくれたと感じています。その温度は今もなお画面からも溢れてきて、私の心を温めてくれます」と、見た目も中身も凸凹な2人を演じた俳優に賛辞を贈っている。
正義感の強い真面目なインドア派の“佐藤さん”、タモツには宮沢氷魚 / [c]2025「佐藤さんと佐藤さん」製作委員会
今回W主演のサチとして参加した岸井は「どうして分かり合いたい人とこそすれ違い、分かち合いたいことも、ほんとは楽しいはずの会話も、余計なひと言や不要な思いやりによって手のひらからすり抜けていくのだろう」と、2人のもどかしい関係に想いを馳せ、「佐藤さんと佐藤さんの激しくて楽しくて切なくて嬉しい数年間の記録が、どこかであなたの人生と重なりますように」と、2人の物語が一人ひとりに届くようにと願いを込めている。
さらにタモツとして参加した宮沢は、岸井との共演を「とてもチャーミングな方で、撮影初日からお互い心を開いて、タモツとサチをしっかりと演じられたと思います」と初めての共演ながら、息が合っていたことを明かし、「初めて脚本を拝読した時から2人の佐藤さんの関係がどこかシュールで、でもリアリティに満ち溢れていて引き込まれました。夫婦であっても、苗字が同じでも、やはり他人同士。そんな二人の歩む人生をぜひご覧頂ければと思います」と本作の魅力を伝えている。
なお本作は、今年4月に開催される第49回香港国際映画祭Fantastic Beats部門への出品も決定している。注目の監督と、気鋭のキャストで贈る『佐藤さんと佐藤さん』。天野が描く、“夫婦”の形とは?公開まで楽しみに待とう。
■<コメント>
●天野千尋(監督)
「本作で描かれる15年間で、2人の佐藤さんはゆっくりと変化していきます。子どもから大人になり、社会に出て、それぞれの立場で役割を担っていく。一人は弁護士に、一人は主夫に。立場が違うと、眺める世界もちょっとずつズレてくる。そのうち相手の目にいったいなにが映っているのか分からなくなる。理解できないと怒ったり、憎んだり、切り捨てたりする。佐藤さんに限らず、これは社会の中で生きる私たち誰もが経験することです。『他者』をどう理解するか、どう折りあいをつけていくかを、私たちはずっと考え続けなければならないと思っています」
●岸井ゆきの(佐藤サチ役)
「どうして分かり合いたい人とこそすれ違い、分かちあいたいことも、ほんとは楽しいはずの会話も、余計なひと言や不要な思いやりによって手のひらからすり抜けていくのだろう。私には夫婦の”普通”が分からないけど、家族というのはあまりにも普遍的で、それぞれがあまりにも特別なのだと思う。佐藤さんと佐藤さんの激しくて楽しくてせつなくて嬉しい数年間の記録が、どこかであなたの人生と重なりますように。そして、見逃しそうな幸せをどうか見逃しませんように!」
●宮沢氷魚(佐藤タモツ役)
「初めて脚本を拝読した時から2人の佐藤さんの関係がどこかシュールで、でもリアリティに満ち溢れていて引き込まれました。岸井さんとは初めての共演でしたがとてもチャーミングな方で、撮影初日からお互い心を開いて、タモツとサチをしっかりと演じられたと思います。天野さんはとても柔軟な方で、スタッフや役者と意見を交換しながら撮影を進められたので、ともに作り上げた感覚がとても強いです。夫婦であっても、苗字が同じでも、やはり他人同士。そんな2人の歩む人生をぜひご覧頂ければと思います」
文/サンクレイオ翼