末席からエースFWへ。大一番で“起点となる仕事”も遂行した上田綺世は、自らのスタイルを貫き、貪欲に理想像を追い求める【日本代表】

 8大会連続ワールドカップ出場のかかる大一番と位置付けられた3月20日のアジア最終予選・バーレーン戦。森保一監督は満を持して上田綺世(フェイエノールト)を最前線に抜擢した。

 ご存じの通り、上田は昨年11月にハムストリングを痛めて長期離脱。今年2月に復帰したものの、再び欠場を強いられ、今回の3月シリーズに間に合うかどうか微妙な情勢だった。2月に欧州視察に出向いた指揮官も「綺世を呼べるかどうか分かりません」と不安をにじませていたほどだ。

 しかしながら、代表活動直前の3月16日に行なわれたトゥエンテ戦でフル出場。2ゴールを奪って完全復活を印象付けたことで、指揮官も安心して背番号9を1トップに据えられた。「コンディションは悪くない」と本人も話していたが、彼なりに自信を持って埼玉スタジアム2002のピッチに立てたはずだ。

 前半はバーレーンの徹底マークに苦しみ、自身のハンドで遠藤航(リバプール)の先制点を取り消されるなど、苦しいスタートを強いられた。それでも地道にレベルアップに勤しんできた“起点となる仕事”を着実に遂行。DFを背負ってボールを収め、流れを作っていく。

「綺世はシュートのうまい選手だが、ターゲットになる仕事は改善の余地がある」と森保監督も前々から繰り返し話していたが、本人が真摯に課題と向き合い続けた結果が、この日の目覚ましいパフォーマンスにつながったのだろう。

 66分の先制点はまさに努力の凝縮と言っていい。上田は伊藤洋輝(バイエルン)の長めのパスをセンターサークル付近で収めると、余裕を持って反転。斜めに動き出した久保建英(レアル・ソシエダ)を見逃さずに鋭いボールをつけたのだ。

 次の瞬間、久保はドリブルで抜け出し、左サイドから中にクロスしてきた鎌田大地(クリスタル・パレス)にパス。背番号15はGKの位置をしっかりと見ながら、ゴール左隅に技ありの先制弾を蹴り込んだのである。
 
「得点できたらもっと良かったですけど、自分が増やしてきた引き出しの中でチームに貢献できたんじゃないかなと思います。プレーの幅を日々、広げようと努力してきたんで、過去の代表と比較しても、より分かりやすく成長を感じられましたね」と本人も納得の表情を浮かべていた。

 確かに、2022年カタールW杯出場を決めた3年前のオーストラリア戦の頃を思い返すと、ここまでの余裕と冷静さは持ち合わせていなかった。その大一番で上田は後半途中から浅野拓磨(マジョルカ)と交代してピッチに立ったが、前線で起点になる仕事を含め、そこまで効果的なプレーを見せることはできなかった。

 それはカタールW杯本番でもそう。当時は鹿島アントラーズからサークル・ブルージュに移籍したばかり。少しずつゴールは積み上げていたものの、1トップを任せてもらえず、シャドーで起用されていた。ミロン・ムスリッチ監督からも「何かが足りない」と評価されていた。そんな不安をコスタリカ戦で露呈してしまい、日本はまさかの苦杯を喫することになった。

「僕はコスタリカ戦しか出れてないけど、コスタリカ戦で何もできなかった自分がドイツ戦やスペイン戦に出たら一体、何ができたんだろうと思うところもあります。5大リーグで活躍している(三笘)薫君(ブライトン)や(堂安)律(フライブルク)はああいう大舞台でも違いを出せる。自分を常にアップデートさせていかないといけないですね」と2023年2月時点で、彼は神妙な面持ちで語っていた。

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 直後に発足した第二次森保ジャパンで着実にゴールを積み重ね、同年夏にフェイエノールトにステップアップ。チャンピオンズリーグも経験した。最初はサンティアゴ・ヒメネスという屈強なライバルに阻まれ、出番が限定的だったが、今年になって彼がミランに移籍。上田の存在が日に日に大きくなっていったのだ。

「サークル、フェイエって来て、フェイエで2シーズン目ですけど、監督も4人代わって求められることも変わっている。その時に感じた足りないことを伸ばして、自分なりにやってきたんで、それが成果として実感できるようにはなってきています」

 上田がこう語るように、アルネ・スロット監督、ロビン・ファン・ペルシ監督らから幅広いタスクを求められ、ガムシャラに食らいついていった結果、今回の最終予選の大一番ではエースとして日本を勝たせる大仕事をした。その立ち位置の変化を誰よりも痛感しているのが上田本人である。

「前回のワールドカップを決めた3年前は、ギリギリ代表にしがみついている状態だった。なかなか出場機会もなくて、出ても特に何ができるわけでもなかった。それに比べたら、今は感情もプレースタイルもクオリティも全く違う状態になれていると思います」と彼は目を輝かせる。

 確固たる手応えを掴んだ今、上田は進化の歩みを加速させなければいけない。来年のW杯本番で日本が大躍進を遂げるためにも、この男が絶対的エースとして君臨することが必要不可欠。今回のバーレーン戦は2-0で勝ち、日本は早々と切符を手に入れることができたが、アジアとW杯の戦いは全くの別物。その事実を上田はしっかりと認識しているに違いない。
 
「ワールドカップで優勝するためには、やっぱり個人個人のレベルアップじゃないですかね。優勝を逆算して考えた時に、当たる国々っていうのはCL上位クラブにいる選手がズラッと並ぶ国じゃないですか。そこに勝とうと思ったら、僕らのステップアップは必須なんで。

 自分は物事を逆算して目標に向かっていくタイプではないですけど、本当に目の前の環境に対して挑戦していくことが大事。それが自分のスタイルなんで、良い準備を繰り返していくことしかないと思っています」

 常に自分の理想像を貪欲に追い求める上田なら、1年3か月後には世界トップ基準に到達することも夢ではない。そうなるように高みを追い求め続けてほしいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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