実写版につきものの、「原作改変」は、一か所変えるとそれにともないまた別の変更点も出てくるものです。それにより、とあるキャラの運命が大きく変わってしまうこともありました。



コメディーテイストのスピンオフでも利根川がたどる運命は一緒だった。『中間管理録トネガワ』最終第10巻(講談社)

【画像】え…っ? 「これを実写化は無理」「グッズ化されてんの?」 こちらが『カイジ』利根川が男を見せた「焼き土下座」の光景です

原作と実写で「モテ度」変わりすぎ?

 マンガの実写映画化では、上映時間や3次元で再現できる範囲の描写の都合などで、多かれ少なかれ「改変」が発生します。その結果、キャラクターがたどる顛末が変わることも多く、原作より大幅に不幸になったキャラもいれば、だいぶマシな運命になった人物もいました。

※この記事では『キングダム』『ヒメアノ~ル』「カイジ」シリーズの原作マンガ、実写版のネタバレに触れています。

 ストーリーやキャラのビジュアルが原作に忠実で、好評を博した実写「キングダム」シリーズ(原作:原泰久)は、2019年の1作目から興行収入50億円超えの大ヒットとなりました。その1作目での最大の改変ポイントは、「ラスボスの変更」でしょう。

 1作目の大まかなストーリーは、古代中国を舞台に、奴隷の主人公「信(演:山崎賢人)」が反乱を起こされた秦国の王「エイ政(演:吉沢亮)」に協力し、反乱の首謀者でエイ政の弟である「成キョウ(演:本郷奏多)」から王都を奪還するというものです。王都に入ってから、信たちは成キョウのいる王宮の本殿を目指します。

 原作では、本殿に向かう途中の回廊で信が上級武官の「左慈(演:坂口拓)」と戦い、その後に本殿で成キョウを守る巨大な怪物「ランカイ」との決戦が始まる、という流れでしたが、実写版では逆になっていました。この変更は原作者の原先生も納得し、自分から「左慈は元将軍」というオリジナル設定の提案もしたそうです。

 実写版での信vs左慈の戦いは大きな見どころとなりましたし、実写化不可能と思われていたランカイも、身長201cm、体重120kgの俳優、阿見201さんが特殊メイクも込みでしっかり再現して、評判を呼んでいます。ただ、この改変により、ランカイの運命は大きく変わってしまいました。

 人間かどうかも分からない怪物のランカイは、原作では反乱鎮圧後に「山の民」たちに引き取られて自分の居場所を見付け、後の「合従軍編」でも見せ場が用意されています。一方、実写版のランカイは回廊で負けた後死んでしまったようで、その後は登場していません。まだ戦いが続いている状況だったので、生かして仲間にするという選択肢がなくなってしまったものと思われます。

 この改変に関しては「実写だとランカイをラスボスにするとリアリティが落ちるのは分かる、でも生かしてあげて欲しかった」「山の民と救援に来てくれたときの信の『ランカイだよ』が観たかったのに」などと、残念がる声が多く出ていました。

 死にはしなかったものの、実写版で大幅に不幸になったのは『ヒメアノ~ル』(作:古谷実)の「安藤勇次」です。2016年に公開された映画版は、結末含めて原作から変更点が多々あり、主人公「岡田進(演:濱田岳)」の会社の先輩で童貞の安藤(演:ムロツヨシ)も、原作のハイテンションなトーンでしゃべるキャラからボソボソと話す無表情な男になっていました。

 とにかく女性にモテない安藤は、原作ではさまざまな人に惚れては失敗していましたが、紆余曲折を経て美人ながら変わり者のジムインストラクター「織田涼子」に向こうから告白されて付き合う、という幸せを手にします。

 一方、映画ではのちに岡田の恋人になる「阿部ユカ(演:佐津川愛美)」に惚れているところは一緒でしたが、その恋は報われません。さらに、中盤でユカと岡田の居場所を知りたい殺人鬼「森田正一(演:森田剛)」に、背中と股間を撃たれる悲劇に見舞われてしまいました。

 映画『ヒメアノ~ル』は原作とはまた別物として高い評価を受けていますが、大けがを負った安藤が誰かと付き合うことはなく、その人生のあまりの差には悲しい気持ちになってしまいます。

 逆に原作の悲惨な末路を免れ、出番も増えたキャラでは「カイジ」シリーズ(作:福本伸行)の「帝愛グループ」幹部「利根川幸雄」があげられるでしょう。原作の利根川は、第1部『賭博黙示録カイジ』で主人公「伊藤開司(カイジ)」に「Eカード」対決で負け、帝愛の会長「兵藤和尊」の命で、灼熱の巨大鉄板の上で膝をついて額を付ける「焼き土下座」をさせられます。

 利根川は鋼の意思で、誰かに抑えられることもなく12秒間(ルールでは10秒)焼き土下座をやり遂げ、物語から退場しました。スピンオフ『中間管理職トネガワ』(原作:萩原天晴/作画:橋本智広、三好智樹)のラストでは、焼き土下座後の利根川がどこかの浜辺にいる様子が描かれています。

 一方、香川照之さんが演じた2009年の実写映画『カイジ 人生逆転ゲーム』の利根川は、Eカード敗北後に帝愛の地下帝国に送られ、2作目『カイジ2 人生奪回ゲーム』(2011年)ではカイジ(演:藤原竜也)に協力する立場となりました。もちろん帝愛幹部の立場に比べれば落ちぶれているのですが、五体満足な状態で最終的には大金を手にしています。

 土下座の場面で有名なドラマ『半沢直樹』を経たいま、当時の香川さんが鉄板の上で頭を下げていたらどのような場面になっていたのか気になりますが、実写で再現したら映画に年齢制限が設けられていたかもしれません。