「値上げは心苦しい」「儲けのためにやってない」…物価高騰でも「丼太郎」が牛丼並盛300円台を維持し続ける理由

真横には松屋となか卯も……他社のセールはむしろ歓迎!? 

「たくさん儲けて裕福な暮らしをしようっていう感じじゃなく、生活できるレベルの給料で、価格を抑えてお客さんに喜んでもらおうっていうやり方ですから。後継者はいないんですが、今の時代の子からすると『やってるわりには大して儲かんねぇな』となるので、うちら4人にしかこんなやり方はできないでしょうね(笑)。

実は、過去には『継ぎたい』という人が何人かいて、7〜8年前には名古屋から『経営を教えてほしいです』『名古屋で店舗展開させてください』と当時18歳の大学生が来たこともありました」

顧客を優先する一方で、暗い外の照明からは、設備投資への余裕がないことも窺える。これだけファンがいるならクラウドファンディングでの資金調達もできそうだが、ここには商売人としての矜持があった。 

「人のお金でやるのはどうなのって感じは、社員みんなあるかなぁ。今の人はそういうのを活用するのかもしれないけど、うちらは古い人間なので、ちょっと抵抗を感じているのかもしれませんね」 

こうして客のために粉骨砕身する丼太郎だが、なんと、真隣には牛丼大手の松屋がある。さらにその隣はこちらも牛丼を販売するなか卯で、厳しい競争が予想される。 

とくに、松屋は1月下旬、牛めし並盛390円というセールを開催。同店はみそ汁が無料でつくため、丼太郎は一時、「価格」という優位性を失うこととなった。こうした大手のセールは、顧客を奪われる機会にも思えるが、実は意外な効果があるそうだ。

「松屋さんのセール中も、あまり客入りは変わらなくて。セール中は同じ値段でも、終わったらうちのほうが安くなるので、むしろ、セールが終わった後はお客さんが増えたんです。

客層は、基本はサラリーマン・学生・力仕事の人たちでしたが、ここ数年は女性1人でも来るし、カップルやファミリーも来ますね。インバウンド需要は、この辺は観光地もないですし、ほとんどありません」

最後に、他店の牛丼との違いをたずねる。その答えからは、丼太郎への愛着が感じられた。

「うちはこの値段で、この味で、この量だったらお客さんに満足してもらってるだろうな、というのでやってます。安さや味を追求というよりは“お値打ち感”ですね。

私は何十年も毎日牛丼を食べてますが、それでも飽きずに食べ続けられるのは、やっぱりバランスがいいからだと思うし、そこが他と違うところですかね」

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班