どこを切っても“一級品”と唸らせる大人のミステリー『教皇選挙』など週末観るならこの3本!


週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、ローマ教皇を決める教皇選挙を舞台にしたミステリー、染井為人の小説を北村匠海主演で映画化したサスペンス・エンタテインメント、時代に翻弄されながらも劇場を守り続けた人々の物語の、俳優陣の演技が光る3本。

■深い感銘と感動に打たれる…『教皇選挙』(公開中)


【写真を見る】ローレンス枢機卿は、新教皇を選出するために教皇選挙を執り仕切ることに(『教皇選挙』) / [c] 2024 Conclave Distribution, LLC.
どこを切っても“一級品”と唸らせる大人のミステリー。近年もナンニ・モレッティの『ローマ法王の休日』(11)やフェルナンド・メイレレスの『2人のローマ教皇』(19)など、“教皇選挙=コンクラーベ”をモチーフにした佳作は少なからずあるが、本作ほど興奮と感動を覚えた作品はない。

ローマ教皇が急逝し、新教皇を決めるため世界各地から100人以上の枢機卿が集まってくるが―。選挙を執り仕切る首席枢機卿(レイフ・ファインズ)がいわば“謎解き役”となり、有力候補らの不正やスキャンダルを暴いていくことに。普段は尊敬を集めるハズの枢機卿らの野望や愚かしさにドン引きしつつ、彼らの恨みを買い、あるいは泣き落とされそうになりながら一つ一つ誠実に対処する首席枢機卿の奮闘、そのサスペンスフルな展開に思わず夢中に!有力候補4人の人種や主義主張など、キャラの立て方やバランスも上手い。そうして我々観客が「教皇にふさわしい人間なんて結局いるのか!?」とジリジリし始めた時、歓声を上げずにいられない瞬間が訪れる。まさに目の前の霧が晴れたかのように、深い感銘と感動に打たれる。予想の斜め上をいくオチに加え、高齢男性ばかりによる“秘密選挙”を舞台に、ジェンダーギャップや多様性などの問題も映し込む。荘厳で美しい映像に漂う緊張感、俳優たちの繊細な演技、音楽、衣装、美術など、すべてが見どころ。米アカデミー賞作品賞を含む8部門にノミネートされ、見事、脚色賞を受賞。監督は『西部戦線異状なし』(22)のエドワード・ベルガー。(映画ライター・折田千鶴子)

■この世の“生き地獄”を生々しい恐怖とともに体現…『悪い夏』(公開中)


気弱な公務員が犯罪に巻き込まれていく姿を描く『悪い夏』 / [c]2025映画「悪い夏」製作委員会
こんな北村匠海は見たことがない!『正体』(24)の原作者としても知られる染井為人の衝撃のデビュー小説を映画化した本作の彼は、私たちもいつ巻き込まれるか分からないこの世の“生き地獄”を生々しい恐怖とともに体現し、自らも人間のクズに成り下がる主人公を怪演しているのだ。

北村が演じたのは、市役所の生活福祉課に勤める佐々木守。いたって好青年だ。そんな彼が、「職場の先輩が生活保護受給者のシングルマザー、林野愛美に肉体関係を強要しているらしい」という噂を聞きつけ、真相を確かめるために同僚の宮田(伊藤万理華)と愛美のもとを訪ねる。ところが、育児放棄寸前の彼女は、裏社会の住人、金本や手下の山田と繋がっていた。そうとは知らずに、愛美に次第に惹かれていく佐々木は、彼らの犯罪計画のターゲットになって…。

冷ややかな笑顔で、弱者から容赦なく金をむしり取ろうとする金本に扮した窪田正孝がめちゃくちゃ怖い!ネチっこく愛美の心を揺さぶる山田役の竹下ピストルも窪田はまた違う気持ち悪さで迫ってくる。それこそ、愛美を憂い顔で演じた河合優実も佐々木に好意を持っているようで、金本たちの片棒を担ぐべく、佐々木をワナにハメようとするのだから恐ろしい。

そんな奴らの計画に巻き込まれ、徐々に転落していく佐々木を北村が淀んだ瞳で体現しているのだが、その邪悪な表情と言動がとにかく生っぽくて、現実と地続きのリアルな恐怖を立ち上がらせる。そこには「東京卍リベンジャーズ」シリーズなどでコミックやアニメのキャラを演じた北村はもういない。中でも、溜まっていた不満や鬱憤をカメラ目線で爆発させる長回し撮影のクライマックスは圧巻!そこで彼がまくし立てる本音や不満には、この国の歪んだ常識を突く真実が見え隠れするし、『アルプススタンドのはしの方』(20)、『女子高生に殺されたい』(22)などの鬼才、城定秀夫監督による斬新な映像設計にも目をみはる。すべてを笑い飛ばすラストも鮮やかだ。(映画ライター・イソガイマサト)

■劇場の火を灯し続けた家族の物語…『BAUS 映画から船出した映画館』(公開中)


吉祥寺バウスシアターをめぐる歴史と家族の物語を描く『BAUS 映画から船出した映画館』 / [c]本田プロモーション BAUS/boid
映画館、ライブハウスとして、演劇、音楽、映画…さまざまなエンタテインメントを提供、惜しまれつつ閉館した吉祥寺バウスシアター。元々は無声映画上映、落語などの興行を行っていた吉祥寺初の映画館「井の頭会館」だった。青森から上京してきた兄弟(峯田和伸、染谷将太)を中心に、戦前、戦中、戦後と時代の波に翻弄されながら、90年間、劇場の火を灯し続けた家族の物語を映画、劇場を愛する豪華キャストで映画化。

バウスシアター館主だった本田拓夫の著書「吉祥寺に育てられた映画館 イノカン・MEG・バウス 吉祥寺っ子映画館三代記」を原作に故・青山真治が温めていた脚本を甫木元空が引き継いだ。「ご飯は体を作る。学校は頭を作る。映画は心を作る。ご飯や学校と同じように映画は大事」と説く、オーナー役染谷将太のスピーチとそれに耳を貸す子どもたちの姿に心温まる。(映画ライター・高山亜紀)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼