『エミリア・ペレス』ジャック・オーディアール監督が来日!ティーチインで明かす、“音楽映画”を手掛けた理由

横浜みなとみらい21地区で開催中の横浜フランス映画祭2025で3月21日、第97回アカデミー賞で最多12部門13ノミネートを果たし助演女優賞と歌曲賞に輝いた『エミリア・ペレス』(3月28日)が上映。上映後に、来日中のジャック・オーディアール監督が登壇するティーチインイベントが行われた。


【写真を見る】「歌が出てくる時に物語が前進する」アカデミー賞に輝いた楽曲など、音楽づくりへのこだわりにも言及
メキシコの麻薬王マニタス(カルラ・ソフィア・ガスコン)から、女性としての新たな人生を用意してほしいという極秘の依頼を受けた弁護士のリタ(ゾーイ・サルダナ)。彼女は完璧な計画を立て、マニタスは姿を消すことに成功。数年後、イギリスに移住し新生活を送るリタの前に現れたのは、新しい存在として生きるエミリア・ペレスだった。

「ここに来ている皆さんに映画をお見せすることができてとても幸せです」と挨拶したオーディアール監督は、「2作目の『つつましき詐欺師』を撮った時に、作曲家のアレクサンドル・デスプラと一緒にオペラを作りたいという話をし、それから30年が経ってこのようにミュージカル作品をつくることになりました」と、本作を手掛けた経緯について明かす。


キャリア初期のころからオペラを作りたいと考えていたというジャック・オーディアール監督
そして「アメリカだとミュージカルの伝統がありますが、フランスではあまりメジャーではありません。ですので謙虚に少しずつ、一人でシナリオを書いてからカミーユとクレモン(・デュコル)と曲を作り、それが出来上がったあとに振付師のダミアン(・ジャレ)と振付けを考えていきました」と制作のプロセスを振り返った。

続いて観客からの質疑応答コーナーに。すでに2回目の鑑賞だという観客から「音楽づくりにおいて意識したことは?」と訊かれると、「歌が出てくる時に物語が前進するように作られています。歌唱部分と音楽のスコアが流れる部分が別々に作られていて、スコアは映画のなかのいろいろな要素をつなげるような働きをしています。長い間考えて作っていきました」と、音楽が映画の重要な役割を示していることに言及。


上映直後ということもあり、多くの観客から積極的に質問が飛び交った!
さらに「他国、多言語で映画を撮ることは、監督にとってどういうことでしょうか?」という質問に対し、オディアール監督は「『ディーパンの闘い』ではタミル語、『ゴールデン・リバー』では英語、『預言者』ではアラビア語、そして本作ではスペイン語。すべて言語として理解せず、その言葉のテキストを音楽的に捉えてきました。音楽性を追求してきた結果、このような音楽映画になったのだと思います」と回答。

また「ヨーロッパ以外の民族に対する興味が強いのでしょうか?」と訊かれると、「興味はあります。それは“自分”じゃないからだと思います」と答え、「私にとって映画は自伝を描くものではないと考えていて、様々なことに興味を持って映画を撮っていると、映画の方からたくさん語りかけてくれるのです」と自身の作家性について語っていた。

文/久保田 和馬