【ネタバレあり】ニコケイの怪演も光るホラー界の新たなシリアルキラー、ロングレッグスを解剖!

実話をベースにしたものからフィクションまで、映画やドラマを通じて観る者を恐怖のどん底へと突き落としてきた連続殺人鬼たち。そんなシリアルキラー界の新たなスターとなりそうなのが、『ロングレッグス』(公開中)に登場する“ロングレッグス”だ。

多くの悪役を演じてきたキャリアのなかで、意外にも初めてのシリアルキラー役となったニコラス・ケイジの怪演際立つこの狂気の殺人鬼を、ここで解剖していきたい。

※本記事は、映画のネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)に該当する要素を含みます。未見の方はご注意ください。

■奇妙な未解決事件に新人FBI捜査官が挑む


ハーカーは捜査をしていくうちに自らの過去に関する秘密を知る / [c] MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.
ケイジが製作にも名を連ねた本作は、1990年代半ばのオレゴン州を舞台に、FBIの新人捜査官が重大な未解決事件の真相に迫っていくサイコサスペンス。並外れた直感力を持つFBI捜査官のリー・ハーカー(マイカ・モンロー)は、過去30年以上にわたって続く「誕生日殺人事件」の捜査にあたることに。平凡な一家の父親が妻子を殺したのちに自らも命を絶つという不可解な事件の現場には、いずれも侵入者の痕跡はないが“ロングレッグス”という署名付きの暗号文が残されていた。


並外れた直感力で事件を解決に導いていくハーカーだが、その能力にも秘密が… / [c] MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.
過去の事件発生日を結ぶと、カレンダー上にシンボリックな逆三角形の図形が浮かび上がることに気づくなど、事件の真相に近づいてくハーカーは、ロングレッグスの正体に迫ると同時に自らの過去との意外な接点を知ることになる。

■白塗り顔の不気味な殺人鬼ロングレッグスの動機とは?


白塗りの不気味なルックスで、子どもに近づく恐怖のあしながおじさん / [c] MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.
デール・フェルディナンド・コブルという本名を持つロングレッグスは、整形の失敗を思わせる腫れた顔に白塗りを施し、カールした長髪と中性的なファッションを合わせた独特な風貌の持ち主。さらにゆったりと甲高く、かと思えばボソボソつぶやくしゃべり方など、掴みどころのない異様な雰囲気を醸しだしている。


子どもじみた言動で、店員をドン引きさせることもしばしば / [c] MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.
金物屋の店員の前で唐突にカッコウの声真似をしながら踊りだすような子どもじみた言動を連発しつつも、その仮面の裏の顔は恐ろしいほど打算的。子どもの命と引き換えに殺しに協力するように脅すなど、残酷な一面を併せ持つサディスティックな連続殺人鬼だ。

ボリュームのあるヘアスタイルと厚化粧、整形失敗の痕からもわかる美への執着をはじめとするロングレッグスの言動、思考の根底にあるのが悪魔の存在。「悪魔のために自分を美しく見せようとしている。悪魔に恋して、自分をアピールしている。自分をできるだけきれいに見せようと、整形手術と失敗を繰り返してきた」と特殊メイクのハーロウ・マクファーレンが語るように、悪魔を崇拝し、強迫的な献身によって突き動かされてきた人物なのだ。

■斬新すぎる!ロングレッグスのまさかの犯行手口

数々のホラー映画のエッセンスが織り込まれた『ロングレッグス』同様に、このロングレッグス張本人にも様々なシリアルキラーや事件からの影響を読み解くことができる。


【写真を見る】ニコラス・ケイジ演じるシリアルキラーの着想元になった事件とは? / [c] MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.
1966年7月14日のアップルホワイト家を皮切りに、14日生まれの9歳の娘がいる家庭をターゲットに誕生日の前後6日以内に殺人を行う「誕生日殺人事件」を繰り返してきたロングレッグス。その特徴の一つが現場に残された不可解な暗号が書かれた手紙。これは言わずもがな、現在も捜査が継続されているという未解決事件の犯人であるゾディアック・キラーの影響だ。


数々の映画やドラマの題材となってきたゾディアック事件(「Myth of the Zodiac Killer」) / [c]Peacock/Courtesy Everett Collection
ロングレッグスからの“ヒント”をもとにハーカーが解読したこの暗号には、スペルミスや文法の誤りもあり、これは暗号化されたメッセージに誤字脱字が多かったゾディアックキラーへのオマージュとなっているとか。


人形で人をコントロールするという黒魔術的な手法で殺人を重ねていく / [c] MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.
また殺しの手口も特徴的で、人形を使ってターゲットを洗脳し、殺人をさせるという黒魔術的なもの。アトリエで作られた精巧な人形の頭部には、高エネルギーを持つ不思議な金属の球体が埋め込まれており、謎の力によって自らの手を汚さずにターゲットを死へと追いやっていく。

この人形による殺人のインスピレーションの一つが、劇中に何度も登場するジェームズ・フレイザー著の「金枝篇」。この本にはブードゥー人形、操り人形といった人間を模した無生物が人間の行動にもたらす影響について記載されている。


地下のアトリエにこもり、ターゲットとなる家庭の娘そっくりの人形を作っている / [c] MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.
そしてもう一つの着想元としてオズグッド・パーキンス監督が挙げているのが、1996年、コロラド州ボルダーの自宅地下室で当時6歳の少女ジョンベネが遺体となって発見されたジョンベネ・ラムゼイ殺人事件。両親がジョンベネに贈ったクリスマスプレゼントの等身大レプリカ人形が、遺体から15フィート離れた地下室の段ボール箱に横たわっていたということに、監督は狂気を感じ、その要素を物語に組み込んだそうだ。

■ケイジが役作りで参考にしたものとは?

そんな風変わりな役どころで怪演を見せるニコラス・ケイジもまた、ロングレッグスを作り上げるにあたって様々な映画のキャラクターを参考にしているようで、インタビューでは「フェリーニの『魂のジュリエッタ』(64)に登場する、『私きれい?』と聞く中性的な霊能者をイメージしていた」と語っている。


ニコラス・ケイジが参考にした『オペラ座の怪人』
またモンスター映画のアイコン、ロン・チェイニーのファンであるケイジは、上向きの鼻を付けるなど、チェイニーの『オペラ座の怪人』(25)を自分なりも意識したのだとか。さらに「ロン・チェイニー演じる怪物たちが好きな理由は、彼らが心を持っていたから」と、この殺人鬼に感情や弱さを与えるため、なんと自身の母もモデルにしたというから驚きだ。


ハーカーは、一家の父親が家族を惨殺したのち自殺するという未解決事件に挑むことに… / [c] MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.

様々なインスピレーションから誕生したホラー界のニューカマー、ロングレッグス。仕事部屋にはルー・リードやT・レックスのポスターが飾られ70年代グラムロックへの嗜好が示されるなど、キャラクターを紐解くエッセンスが作品には数多くちりばめられている。繰り返し作品を観て、キャラクターへの理解を深めてみてほしい!

文/サンクレイオ翼