人気漫画家たちの過去の作品には、これまでの作風からは想像もつかないマンガを描いているケースもあります。なかには、誰もが知っている有名漫画家のデビュー作が、少女マンガだった、などと意外な事実も存在するようです。



電子版『天才バカボン』第1巻 著:赤塚不二夫(小学館)

【画像】雰囲気違いすぎて「信じられん…」 こちらが巨匠「赤塚不二夫先生」のデビュー作です(4枚)

幅広いジャンルでヒット作を描く漫画家たち

 さまざまなマンガを読んでいると、あまりのテイストの違いに「え、同じ作者なの?」と驚くことは少なくありません。なかには、描くジャンルの振れ幅が大きすぎて、読者からも驚愕された漫画家もいます。

赤塚不二夫先生

「ギャグマンガの王様」と称えられる赤塚不二夫先生は、幅広いジャンルの作品を描いた漫画家としてよく知られています。赤塚先生の作品といえば『天才バカボン』や『おそ松くん』などを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか? しかし、意外にも少女マンガを描いた実績もあります。実は「東映魔女っ子シリーズ」の人気作品『ひみつのアッコちゃん』の原作者です。

『ひみつのアッコちゃん』は、1962年に少女マンガ雑誌「りぼん」(集英社)にて連載され、1969年にアニメ化されました。なんでも望むものに変身できる魔法のコンパクトを手にした少女「加賀美あつ子」が、コンパクトの力を使って人助けをする物語です。

 さまざまな職業に変身するアッコちゃんの姿は、当時、多くの少女に夢を与え、同年に連載された『おそ松くん』などのギャグマンガに比べて絵柄もさることながら、内容も一線を画す作品となりました。読者のなかにも、いまになって原作者が赤塚先生と分かり、驚いた人も多いようです。

 ちなみに、赤塚先生は1956年刊行の『嵐をこえて』という少女マンガで漫画家デビューしており、世に出る最初の作品もギャグマンガではありませんでした。

江川達也先生

 アニメ化もされたギャグマンガ『まじかる☆タルるートくん』の原作者である江川達也先生は、青年向けの作品を数多く発表し、「頭のなかで原作者が一致しない」と言われがちな漫画家のひとりです。

 江川先生は『まじかる☆タルるートくん』の連載後、旅する青年の放浪記を描いた『GOLDEN BOY』や東京大学を目指す学生の色恋に焦点をあてた『東京大学物語』などの連載を開始しました。この2作品は大人向けのシーンも描かれ、お色気描写が登場する『まじかる☆タルるートくん』に通ずるものがありましたが、原作者が同じだと認知する人は少なかったようです。

 特に『まじかる☆タルるートくん』のかわいらしい絵柄に比べ、『GOLDEN BOY』や『東京大学物語』の絵柄はよりリアルで、性描写も生々しく描かれていたので、読者のなかには江川先生のジャンルの振り幅に衝撃を受ける人もいました。

細野不二彦先生

 太ったピンク色のニワトリモドキ「ガンモ」と、ユニークな登場人物たちとのドタバタ群像劇を描いたマンガ『GU-GUガンモ』の原作者である細野不二彦先生は、社会派の青年マンガ『ギャラリーフェイク』の作者でもあります。

『ギャラリーフェイク』は、1992年から「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)、「ビッグコミック増刊」(小学館)にて現在も連載されています。贋作やレプリカ専門のアートギャラリー「ギャラリーフェイク」のオーナー「藤田玲司」が、さまざまな美術品を通じて「美とは何か」を紐解いていく物語です。

 作中、社会問題や時事を取り扱う本作の原作者が、過去にニワトリモドキの日常を描いていたことに、大きなギャップを感じた人も多いのではないでしょうか。

 また、『GU-GUガンモ』はアニメ化され、『ギャラリーフェイク』も小学館漫画賞を受賞するなど、他ジャンルでヒット作を生み出す細野先生の鬼才さは今でも語り継がれています。