耳が聞こえない蚊のオスは交尾をしない / Credit:Canva,ナゾロジー編集

特定の蚊は、黄熱やデング熱、ジカ熱などの感染症を媒介するため、人間にとって脅威です。

そして彼らは、交尾相手を探すのに、羽音と聴覚を利用しています。

アメリカのカリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)に所属するクレイグ・モンテル氏ら研究チームは、この点に着目し、遺伝子操作により聴覚を失った蚊を作り出しました。

そして、耳の聞こえないオスが交尾しなくなることを発見しました。

この新しい発見は、感染症を媒介する蚊の個体数を減らすための新たな戦略を生み出す可能性があります。

研究の詳細は、2024年11月4日付の科学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載されました。

目次

蚊は交尾に聴覚を利用する耳が聞こえない蚊のオスは交尾をしない聴覚の遺伝子を利用した新たな蚊対策

蚊は交尾に聴覚を利用する

寝室を飛び交う蚊の羽音は、私たち人間をイライラさせます。

しかし、蚊たちの中では、その羽音は魅力的なものです。

なぜなら、蚊は交尾相手を探すのに、互いの羽音とそれを識別する聴覚を利用するからです。


蚊は羽音と聴覚で交尾相手を探す / Credit:Canva

例えば、全世界の熱帯・亜熱帯地域に生息する「ネッタイシマカ(学名:Aedes aegypti)」のメスは、羽を約500Hzの周波数で羽ばたかせます。

それを聞いたオスはすぐに近くへ飛び立ち、自分の羽音を約800Hzに調整して響かせ、交尾相手と待ち合わせします。

互いの居場所が分かると、彼らはすぐに引き寄せられ、数秒間の空中交尾を行い、その後は別々の道へと分かれます。

ちなみに、一度交尾したネッタイシマカのメスは、二度と他のオスと交尾することはありません。

オスの精子を蓄えることができるため、一生その精子を利用して産卵するのです。

対照的に、オスは交尾後も精子を作り続けるため、常に新しいパートナーを探し、新たなメスと何度でも交尾しようとします。

交尾を繰り返すオスの蚊によって、蚊はどんどん増えてしまうのです。

蚊の個体数の増加は、蚊が嫌いな私たちを一層イライラさせるだけではありません。

ネッタイシマカは吸血する際の唾液で黄熱、デング熱、ジカ熱などの感染症を媒介する害虫であるため、人間にとって脅威なのです。

実際、ネッタイシマカによって年間4億人が感染し、そのうち約1億人が病気を発症しています。

では、ネッタイシマカの個体数を減らすために、効果的な方法はあるでしょうか。

モンテル氏ら研究チームは、ネッタイシマカの交尾に不可欠な「聴覚」に着目し、新たな蚊対策の道を開こうとしました。

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耳が聞こえない蚊のオスは交尾をしない

今回、モンテル氏ら研究チームは、蚊の聴覚が彼らの交尾に影響を及ぼすと考えました。

そこで彼らは、ネッタイシマカの聴覚を失わせるため、聴覚と関連している遺伝子trpVaをノックアウト(遺伝子の機能を人工的に失わせること)しました。

このように遺伝子編集された蚊は、音に対して全く反応を示さず、聴覚と関連するニューロンでは電気活動も検出されませんでした。

研究チームは、遺伝子編集により、ネッタイシマカの耳を聞こえなくすることに成功したのです。

次に彼らは、耳の聞こえなくなった蚊を遺伝子編集していない蚊の集団の中に入れてどうなるか観察しました。

その結果、耳の聞こえないメスの蚊は、通常よりも苦労したものの、パートナーを見つけ交尾を成功させました。

このことは、メスが交尾相手を探すのに聴覚だけに頼っていないことを示しています。


聴覚に関書する遺伝子をノックアウトした蚊のオスは、メスがいても交尾しなかった / Credit:Canva,ナゾロジー編集

一方、耳の聞こえないオスは、メスたちに全く反応を示さず、遺伝子編集されていないオスが数分の間に何度も交尾するのをただ見ていました。

モンテル氏も、「メスの羽音が聞こえないと、オスは興味を示さなかった」とコメントしています。

またオスの蚊の聴覚は、パートナーを探すだけでなく、彼らの欲望をかき立てるのに役立つようです。

研究チームがそれぞれのオスに、メスの羽音を聞かせたところ、遺伝子編集されていないオスは腹部を突き出して反応を示したにもかかわらず、耳の聞こえないオスはピクリとも動かしませんでした。

ほとんどの生物では、交尾行動が複数の感覚刺激の組み合わせで成り立っているため、モンテル氏は、オスの蚊について、「感覚を1つ奪うだけで交尾行動が完全に無くなるというのは興味深いことだ」と述べています。

ちなみに、今回の研究では、オスとメスで差が生じる理由は詳しく分かっておらず、この点は今後の研究で調査される予定です。

そして今回の成果によって、蚊対策の新たな道が開く可能性があります。