天才ボノボ「カンジ」/ Credit: en.wikipedia
米アイオワ州にある類人猿研究施設「エイプ・イニシアチブ(Ape Initiative)」は、オスの天才ボノボ「カンジ(Kanzi)」が今月18日に亡くなったと報じました。
44歳でした。
カンジは生前から天才と称され、英語を理解し、記号を使って人とコミュニケーションを取り、さらにはマインクラフトなどのゲームまでプレイできたことが知られます。
そんな彼の生涯をふりかえってみましょう。
目次
カンジの天才性を物語る逸話マインクラフトまで楽しむように
カンジの天才性を物語る逸話
カンジは1980年10月28日に、米エモリー大学の霊長類研究センターで生まれました。
生後まもなく、養母となったメスのボノボ「マタタ」と一緒に、言語研究の現場に足を踏み入れます。
そこで研究者たちは「レキシグラム」と呼ばれる記号を使って、ボノボに人間の言語を教えようとしました。
レキシグラムとは、人間以外の霊長類のために開発された人工言語で、物や概念を表す記号(=レキシグラム)が描かれたコンピューターのキーボードを使って、霊長類に言語を教えます。
例えば、こちらは人工言語の開発者であるスー・サベージ=ランボー氏を表したレキシグラムです。
レキシグラム/ Credit: ja.wikipedia
この実験は当初、マタタをメインに進める予定でしたが、彼女はまったく興味を示しませんでした。
しかしそれと裏腹に、幼いカンジはレキシグラムを次々を覚えていき、その学習スピードと言語の理解力で研究者たちを大いに驚かせたのです。
カンジはついに300以上のレキシグラムを習得し、それらを組み合わせて新しい意味を作り出す能力まで発揮しました。
これは私たち人間が単語を組み合わせて文章を作り出すようなものであり、カンジに抽象的な思考力があることを示した事例でした。
生前のカンジ/ Credit: en.wikipedia
さらに驚くべきは、カンジが英語の音声指示を理解できたことです。
カンジが8歳のときに行われた実験では、カンジと人間の2歳児に660の音声命令が与えられました。
結果、カンジは人間の子どもよりも良い成績を収め、彼が少なくとも人間の幼児と同程度の知能を持っていることが判明しています。
また、手話を習得していたゴリラの「ココ」の映像を見るだけでアメリカ手話(ASL)を学習してしまったことも彼の天才性を物語るエピソードの一つとして有名です。
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マインクラフトまで楽しむように
凄いのはそれだけではありません。
カンジは火を起こし、道具を使い、調理を学ぶこともできました。
さらにマインクラフトやパックマンのようなゲームまでプレイして楽しむことができたのです。
カンジが生前にマインクラフトをプレイしたときの実際の映像がこちら。
後年のカンジの姿はもはや単なる「賢い動物」ではなく、人間に近い「もうひとつの知性をもった存在」のようだったといいます。
ただしカンジは人間の言語を深く理解していたものの、それを話すことはできませんでした。
これについて研究者たちは、人間とチンパンジーやボノボの発声器官の構造が違うことが原因だろうと述べています。
カンジ(右)と妹のパンバニシャ(真ん中)/ Credit: en.wikipedia
しかしカンジは晩年に心臓病を患ってしまい、治療を受けていました。
この治療が成果を上げることはなく、2025年3月18日、カンジはエイプ・イニシアチブの職員によって、まったく反応を示さない状態で発見されたのです。
44歳でした。
ボノボの寿命は30〜50年といわれているので、十分に寿命を全うしたといえるでしょう。
エイプ・イニシアチブのスタッフらは「カンジの死は科学界にとって大きな損失であり、彼の残してくれたデータや映像は今後も多くの研究者によって分析され続けるだろう」と話しています。
カンジの存在は「知性とは何か」「言葉とは何か」「人間とは何か」といった根源的な問いに新たな視点を与えてくれたのです。
参考文献
‘Bonobo genius’ Kanzi, who could understand English and play Minecraft, dies at 44
https://www.livescience.com/animals/bonobo-genius-kanzi-who-could-understand-english-and-play-minecraft-dies-at-44
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部