
今年、国立競技場の舞台に『赤い彗星』が帰ってきた。9年前、埼玉スタジアム2002で選手権優勝を果たして以来、ずっと全国ベスト4に入ることができなかったが、昨年度の選手権で4強入り。準決勝で前橋育英に1-3で敗れたが、全国の高校サッカーファンに『赤い彗星再び』という大きな印象を与えた。
「国立は、かなり僕も感情が揺さぶられました。もちろん大会前から優勝を目ざしていたのですが、準々決勝で勝って、『あ、本当にあの国立に行けるんだ』と思った時は、本当に奮い立ったし、周りの人たちも喜んでくれた。東福岡の歴史をもっと継続していきたいと思いました」
こう語るのは、選手権で5試合すべてに途中出場したMF西田煌だ。豊富な運動量とセカンドボールの回収、そこからテンポの良いパス出しで攻撃のリズムを作るボランチで、今年は攻守の要となる存在だ。
2年生だった昨年は高円宮杯プレミアリーグWESTで19試合に出場。サンフレッチェ広島ユース、帝京長岡を相手に2ゴールをマークした。
しかし、リーグ序盤と終盤にレギュラーの座を掴んだかに見えたが、選手権本戦では前述した通り、すべて途中出場。悔しい気持ちが残る大会だった。
「自分の中で昨年は本当にいろんなことを考えさせてくれた1年でした。東福岡に入学してから300人近い部員の中で、どうやって自分の色を出して周りからの信頼を掴んで試合に出るかをずっと考えていました。そのなかで昨年に見つけたのが、セカンドボールを回収して、味方を助けるというプレーでした」
広島の廿日市FCアカデミーから、東福岡に進んだ2学年上の兄・頼(立正大学)の背中を追って飛び込んだ。兄から「もしかすると3年間、トップの試合に出られないかもしれないぞ」という言葉をもらい、覚悟を決めていたが、東福岡での競争は激しかった。
当時、西田は自分のことを「パス、ドリブルもできるオールラウンダー」と評していたが、一方で「ルーキーリーグではそこを評価してもらえましたが、トップにはそんな選手はゴロゴロいる。何か他の選手にはない武器を身につけないといけないと思っていました」と試行錯誤していた。そんな時、チーム全体に突きつけられた課題に彼は目を向けた。
「プレー強度の不足がチーム全体の課題に上がっていたので、そこは自分が出していけるんじゃないかと思った時に、一気に意識が変わりました。昔から守備は得意な方で、なかでもインターセプトや、何よりガムシャラにプレーするのは好きでした。だからこそ、今度はただガムシャラにやるのではなく、より頭を使って賢くやることで自分の武器にしていけば、チームからも信頼を得られると思いました」
普段の練習からボールが落ちる場所を予測して相手より早くポジションに入ったり、先に身体を入れて自分が拾える空間を作ったりと、細かいところまで意識するようになったからこそ、西田はプレミアでも一定の信頼を得た。選手権もスタメンはなかったが、全試合に起用されたことが、それを物語っている。
「当然、うまい選手には憧れますが、自分の能力を考えた時にそこを伸ばすのではなく、セカンド回収はチームに必要なもので、そこで上に行きたいなと思った。だからこそ、今年はそれをより磨いていきたいんです」
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選手権でより覚悟を固める大きなきっかけがあった。それは準決勝の前橋育英戦だ。
「チームとして試合前から途中で入ってくる白井誠也選手のドリブルが脅威だということは認識していました。僕はそういうドリブラーを止めることが楽しいし、絶好のアピールの場になると思っていたので、試合に出たら絶対に自分が止めると思っていました」
だが、白井は後半のスタートから投入されると、58分に国立の観客の度肝を抜くスーパーゴールを決めた。自陣でボールを奪うと、鋭くターンし、そこからファウル覚悟で止めに来たDFにも屈せずにボールを運び、右サイドのオノノジュ慶吏(慶應義塾大学進学)に展開。オノノジュの突破からの折り返しを、ドリブルのスピードのままゴール前に侵入した白井が、ダイレクトで右足シュートを蹴り込んだ。
「白井選手が駆け抜けていく姿をピッチの外で見ることしかできない自分が、本当にもどかしかった」
自分が止めたかった。西田はその9分後の67分に「もうこれ以上やらせない。俺が絶対に止める」という強い気持ちを持ってピッチに入ったが、あの衝撃のゴールで動揺したチームを立て直すことができないばかりか、白井と対峙して、その凄さを思い知らされる形となった。
「いざ自分が対峙してみると、外で見ていたのと印象が全然違った。ボールの置き所と隠し方がものすごくうまくて、奪いに行こうとしてもうまくボールを隠されて、迂闊に飛び込んだらひっくり返されてしまうと思って、足が止まってしまったんです。そこで強く行けなかったのは自分の弱さでした」
現実を突きつけられたからこそ、今年はどんな舞台でも臆せずに戦える自分を築き上げようというヴィジョンがはっきりと見えた。
「もう気持ちで負けたくないし、一歩引くのではなく、一歩前に出るプレーをしたい。この1年間、どんな時も挑戦者としてがっつきたいし、自分の武器を磨きながら、より攻撃にも関われる選手にグレードアップしていきたい。当然、前橋育英にリベンジしたいと思っているし、そのためには自分がやるべきことをやらないといけない」
『赤い彗星』の攻守の要は強烈な向上心を持って、プレーと同じように一歩前に足を出し続けて、この1年間を全力で駆け抜ける。
取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)
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