
3月17日、厚生労働省が2024年の賃金構造基本統計調査の結果を発表した。男女の賃金格差は年々縮小している一方で、格差が完全には解消しない原因も見えてきた。
専門学校卒の女性は、男性よりも収入が上
調査によると、フルタイムで働く労働者の平均月給は男性が昨年に比べて3.5%増の36万3100円、女性が4.8%増の27万5300円。男性の賃金を100とした場合、女性は75.8で、格差は前年に比べ1.0ポイント縮小し、その差は過去最少となっている。
格差が縮小した理由は、正社員としてフルタイムで働く女性が増え、役職に就くケースが増えていることが要因だという。2001年の結果を見てみると、男性の平均月給は34万700円だったのに対して、女性の平均月給は22万2400円。この23年間で、男性の平均月給は2万2400円増で、女性の平均月給は5万1300円増だ。
さらに年齢別で見ると、若年層の男女格差はさらに縮まっていることがわかる。20~24歳の男性の平均月給は23万4200円、女性の平均月給は23万600円とほとんど差はない。この年代の学歴別の調査結果を見ると、「専門学校卒」という区分においては、男性が22万6300円、女性は23万4000円と、女性が男性を上回っている。
つまりこの結果を見ると、若い世代ではほぼ男女格差はなく、男性の賃金を100とした場合、女性は75.8というデータも、まだ女性の社会進出がそれほど盛んではなかった中高年層の格差が大きく影響しており、いまの若い世代がこのまま年齢を重ねていけば、格差はほとんどなくなるように思える。
しかしそう簡単にはいかない現状もある。それが、“出産・育児”に伴い、女性の所得がガクンと落ちてしまうことだ。SNS上でもこの部分を指摘する声は多い。
〈格差が減ったのって単純に子ども産まない人が増えたから、普通に仕事続けてるだけなんじゃ…?〉
〈だから「賃金の男女格差」というのはおかしくって、「男女のポジション格差」なんだって。その最たる要因が子どもの有無〉
〈男女の賃金格差なんて既に15年前から無いけどな。今過去最少になってるのは婚姻数減&少子化で社員で働き続ける女性が増えたってだけ〉
〈格差は過去最少といっても差が大きいのは、女性が出産、育児をしながらキャリアアップしていくための支援体制が整っていないことが大きな要因では〉
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日本にはびこる“子育てペナルティ”が問題に
今年2月に発表された東京大学の研究によると、子どもを持たなかった場合と比較して、子どもを持つ女性の賃金は10年間で46%減少する一方、男性の賃金は8%増加することが明らかになった。この研究結果が公表されると、「子育てペナルティ」という言葉がSNS上で話題となり、日本国内で大きな注目を集めた。
なぜこのようなことが起こるのだろうか。北海道大学公共政策学研究センター研究員で政策・経営コンサルタントの森川岳大氏に解説を聞いた。
「子育てペナルティが起こる背景には、日本の雇用慣行が大きく影響しています。日本では、長期的な雇用を前提に、多様な業務をこなせる人材や長時間労働が重視される傾向があります。そのため、女性が出産や育児によって一時的にキャリアを中断すると、昇進や賃金上昇の機会を失いやすくなります。
さらに、多くの企業では、育児との両立を理由に女性が負担の軽い一般職や間接部門、非正規雇用に移行することが多く、これが所得低下を長期化させています」(森川岳大氏、以下同)
さらに「家事や育児は女性、稼ぐのは男性」といった社会規範や文化も根強く存在し、こうしたバイアスの下では、母親になった女性は能力を過小評価されやすい一方で、父親になった男性はむしろ高く評価される傾向も見られるという。
日本の「子育てペナルティ」は、雇用慣行だけでなく、ジェンダーバイアスを含む社会的・文化的要因が複合的に絡み合うことで、国際的にも特に大きな課題となっているそうだ。
ではこれを解決するにはどのような策が考えられるのだろうか。森川氏は「政策、企業の取り組み、個人の意識といった多方面での変化が求められます」と指摘する。
まず政策面では、育児休業制度や保育施設の充実、経済的支援に加え、男性が育休を取得しやすくなる仕組みづくりが重要。スウェーデンでは、育児休業の一部を父親専用としており、「取得しなければ損をする」仕組みにすることで、男性の取得率を大きく高め、母親の就業継続や賃金回復にも効果をもたらしているそうだ。