
2026年北中米ワールドカップへの新たなサバイバルの幕開けとなった3月25日のアジア最終予選・サウジアラビア戦。日本代表は前日の時点で守田英正(スポルティング)、上田綺世(フェイエノールト)、三笘薫(ブライトン)の欠場が決まっており、大幅なメンバー変更が確実視されていた。
フタを開けてみると、森保一監督は20日のバーレーン戦から6人を変更。三笘の左ウイングバックには予想通り、中村敬斗(スタッド・ドゥ・ランス)を抜擢した。
最終予選突入後は1試合で先発、4試合で途中出場し、ジョーカーとして出場した昨年10月のオーストラリア戦で値千金の同点弾を誘発している背番号13が、どこまで攻撃陣を引っ張れるのか。そこが今回の1つのポイントと目された。
4バックでボールを保持してくると思われたサウジが超守備的な5-4-1を採ってきたのは想定外だったが、守備ブロックを作られた時こそサイドアタックが重要になる。それを強く認識していた中村は序盤から積極的な仕掛けを見せ、ポケットの部分を攻略。開始8分のドリブル突破を皮切りに、15分間で4~5回の局面打開を披露。前田大然(セルティック)の決定機も作った。
「前半は5バックで意外にスペースもあって、僕が前向きで仕掛けることができた。そこからかなりフタをしてきたんで、20分くらいまでに試合を決めていたら良かったですね」と本人はそう語る。
実際、そこからのサウジはより強固な守備組織を形成。韋駄天の前田でさえも裏抜けができない状況に陥った。久保建英(レアル・ソシエダ)の強烈なミドルシュートも枠を越えていき、前半は0-0で終了。後半に入ると、相手が中村対策として1対1の守備に秀でるDFマジュランを投入してきたこともあって、中村自身、激しい寄せに遭い、ペースダウンを強いられた。
「後半は僕のサイドがタイトになって、ボールをもらう前から距離感がかなり近くなった。前半は裏に行けたりができていたけど、なかなか難しくなった。相手も6バックっぽかったし、わざと縦に行かせないような守備を見せてきた。ちょっと最後の質の部分が落ちちゃったかなと思いますね」と、不完全燃焼に終わった90分間を悔しそうに振り返った。
結局、日本はサウジとスコアレスドロー。中村も36分の大外からのシュート1本にとどまり、圧倒的な存在感を示すには至らなかった。
第二次森保ジャパン発足の2023年3月から代表入りし、ゴールを重ねることで地位を築いてきた男にしてみれば、最終予選でここまでノーゴール・アシストゼロという結果は納得がいかないはず。このままでは同じポジションの「三笘の控え」という立ち位置から抜け出せない。その現実の厳しさを痛感したのではないか。
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とはいえ、三笘1人がいれば、日本が掲げている「W杯優勝」まで辿り着けるわけではない。ご存じの通り、北中米W杯から出場国が48に増え、ファイナルまでの試合数は8に。となれば、試合ごとにメンバーを大幅に入れ替えながら戦うことは必須。森保監督も「2チーム分、3チーム分の選手層を作っていきたい」と話したが、それを現実にしなければ頂点に上り詰めるのは不可能なのだ。
日本は2022年カタールW杯でも初戦でドイツに勝った後、2戦目のコスタリカ戦でスタメン5人交代を断行したが、思うような戦いができずに最終的に苦杯を喫している。ターンオーバーの難しさについてはキャプテンの遠藤航(リバプール)も指摘していたが、その課題を克服することが重要だ。
「僕らのように、なかなかスタメンで出る機会がない人たちは結果を求められていたと思いますし、そういう意味で0-0になっちゃったのは残念ですね。僕としてはこれから生き残りを賭けて頑張っていきたい。クラブでしっかりやるだけだと思います」
中村はこう語気を強めたが、S・ランスでのパフォーマンスを引き上げることが全てのスタートと言っていい。今季の彼は前半戦こそ7ゴールと数字を重ね、強烈なインパクトを残していたが、チームは11月以降15試合未勝利という長いトンネルに突入。リーグ・ドゥ降格圏の一歩手前で、彼自身も2か月間、ゴールから遠ざかってしまっている。
サウジ戦で途中出場した伊東純也もそうだが、その低調なチーム状態が2人の個人的なパフォーマンスに影響している部分もないとは言えない。その傾向は日本代表にとっては明らかにマイナス以外の何物でもない。
サウジ戦で悔しい思いをしたことで、中村は今一度、代表における自分自身の役割とストロングを冷静に客観視すべきだ。
前述の通り、彼は得点力を武器にのし上がってきた男。最大の強みは“ここ一番で決め切れる力”である。今は三笘のいる左ウイングバックでプレーしている分、チャンスメイクや仕掛けに頭が行ってしまいがち。それも理解できるが、もっと自分が点を取れる形を作るべく、周囲に働きかけていくべきだ。
サウジ戦であれば、右の菅原由勢(サウサンプトン)と久保が縦関係を作ってサイドを突破しようとしていたが、そういう時に中に入り込んでゴールを狙う動きを増やすことはできたはず。
局面の打開にしても、縦を封じられたら中に持ち込んでフィニッシュに行くことも可能だろう。そうやってプレーの幅を増やしつつ、自分自身をブラッシュアップさせていくことが肝要だ。
1年3か月後の本番では、森保監督が三笘と中村のどちらを使うかで迷うような状況になっているのが理想的。サウジ戦で直面した課題を真摯に受け止め、今季リーグ終盤、そして来季の飛躍につなげてほしい。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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