サウジ戦の失点危機を未然に防いだビッグプレー。守護神・鈴木彩艶は的確な準備と研ぎ澄まされた集中力で日本のゴールを守る

[W杯最終予選]日本 0-0 サウジアラビア/3月25日/埼玉スタジアム2002

 そのシーンは前半の22分だった。右サイドで高井幸大のパスを受けた菅原由勢がサウジアラビアの左サイドバックであるナワフ・ブーシャルとのデュエルで、ファウルを取られた。5バックで引いて守る時間が長かったサウジアラビアにとって、自陣とはいえリスタートから局面を変えるチャンスだ。

 キッカーのハッサン・アルトムバクティは自らセットしたボールを右足で思い切り、日本側の中央奥に蹴り込んだ。無回転のような不規則な軌道で向かってくるボールに対して、日本は3バック中央から板倉滉が前に出て競りに行くが、フェラス・アルブライカンにヘッドで前方に落とされてしまう。

 左センターバックの伊藤洋輝がカバーしながらボールを処理しようとするが、ワンバウンドしたボールが伊藤の頭上を越えてゴール方向に。伊藤の外側から1トップのマルワン・アルサハフィが身体を前に出してボールをコントロールしようとする。

 そこに立ちはだかったのが、日本代表のGK鈴木彩艶だった。あらかじめ前の方に出ていた鈴木はバウンドを見極めながら、ちょうどペナルティエリアを越えたあたりで、ヘディングの処理に切り替えた。

 伊藤が何とかアルサハフィをショルダーでブロックしていたとはえ、足で行けば先に触られる可能性が高い。もちろん手で処理すれば反則を取られてしまう。
 
 思わずアジアカップ準々決勝のイラン戦でやられた失点シーンを連想してしまいそうなシチュエーションだったが、鈴木の的確な判断と冷静な対応によって、この試合の数少ない危機の一つは未然に防がれた。

 鈴木は「キーパーからのロングボールをヘディングされた、そらしのところは常に、自分のポジショニングを含めて準備していたので。そこは自分が捕まえることで、相手にチャンスを与えないように意識していました」と振り返る。

「1つのミスでカウンターを受けるかもしれないというのは、常に頭に入れていた。後半最後のバックパス、少し短くなったので危なかったですけど、そこも含めて準備は怠ってなかったので。相手に触られる前に対応できたし、修正しないといけないですけど、コミュニケーションの部分を含め、自分としては集中力を保ってできたなと思います」

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 これまでもアジアの戦いでは、日本がボールを握って攻める側になり、ほぼハーフコートの状況からロングボールで一気にピンチを迎えるシーンは少なからずあった。2010年、14年、18年のW杯3大会で日本のゴールマウスを守った川島も、そこの準備を非常に重視していた。

 浦和レッズからベルギーのシント=トロイデン、そしてセリエAのパルマと環境を変えながら、日本代表での地位を築いてきた鈴木は、パルマで最も成長したのが準備のところであることを認めるが、セリエAでは多くのシュートが飛んでくる環境で、度重なるビッグセーブを強いられている。

 それとは全く反対の状況で、いきなり来る危機的なシーンをいかに防いでチームに安心感を与えられるか。そこは日本代表における鈴木の大きなテーマの1つになっている。
 
「今日みたいなゲームは本当に、一本歩かないかだと思う。そこの集中力は常に持ってましたし、チームではたくさんシュートが飛んでくることが多いので。代表ならではというか、代表だなあという感じがします」

 そう語る鈴木はビルドアップなど、攻撃面での関わりはあまりないなかで、必ずゼロで終えることを念頭におきながら、仲間たちのゴールを信じた。結果、試合は無念のスコアレスドロー。鈴木はそこの悔しさを共有しながらも「やっぱり後ろの安定感が攻撃に繋がると思いますし、そこは常に自分として出していきたい部分。今日は得点できませんでしたけど、やっぱり最後までチャンスがあるので。(GKは)いかにゼロで抑えるかが鍵になる」と強調した。

 ここから本大会まで色々なシチュエーションでの戦いが想定されるが、いかなる時も的確な準備と研ぎ澄まされた集中力で、日本のゴールを守っていく。アジアカップで多くの批判を浴び、逆境を乗り越えたGKの背中は、頼れる守護神のそれになっていた。

取材・文●河治良幸

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