地球の自転から電気を取り出す仕組みを開発:なお使いすぎると? / Credit:Canva
地球の自転エネルギーを使って電気を取り出せるか――かつてファラデーが挑み、長らく“不可能”とされてきたこのテーマが、アメリカのプリンストン大学(PU)で行われた研究によって再び脚光を浴び始めています。
わずか数マイクロボルト程度とはいえ、地球の自転をエネルギー源に連続して電圧と電流を生み出すことに成功した今回の実験では、従来の常識だった「地球の自転からは電力は得られない(自分自身の軸対称な磁場の中を一緒に回転しても電流は得られない)」という壁を突破しました。
もちろん取り出せる電力はごく小さいものの、原理的に実現可能であることを示した意義は大きく、将来的には素材や構造を工夫することで“燃料不要の電源”として応用できるかもしれません。
しかし取り出したエネルギーは理論的に地球の自転からのものとも考えられます。
吸い出しすぎた場合、地球はどうなってしまうのでしょうか?
研究内容の詳細は『Physical Review Applied』にて発表されました。
目次
地球は巨大な発電機なのか?地球の自転をエネルギーに変える研究地球の自転エネルギーを“収穫”する未来
地球は巨大な発電機なのか?
地球の自転から電気を取り出す仕組みを開発:なお使いすぎると? / Credit:Canva
地球の磁場と自転から電気を取り出す――このアイデアは、実は19世紀の科学者ファラデーの時代から存在していました。
実は、その背景には「電気を通す物質が磁場の中を動くと、電子が移動させられて電圧や電流が生じる」という基本的な原理がかかわっています。
たとえば身近な例として、コイルと棒磁石を近づけたり離したりしていると電流が流れる――これは、そのコイルと磁石が相対的に動くことによって“導体が磁場を切る”状態が生まれ、コイルの中の電子が動かされるからです。
ここで磁場を生み出す物体(この場合は地球)と、電気を通す物質(もし地球上に固定されている装置)が完全にくっついて回転しているような状況を想像してください。
磁場と導体が同じ速度・同じ方向に動いている以上、相対的な“ずれ”がほとんど生じないため、電子が動くきっかけ(ローレンツ力)が極めて小さくなり、結果として目に見える電流がなかなか発生しないのです。
地球の磁場と電気を通す物質がほとんど同じスピード・同じ方向で動いているため、ふつうは電子の移動が“帳消し”になりやすいと考えられてきました。
そのためこのアイディアは実現不能と考えられていました。
しかし、近年になって「磁場と導体を完全に同じ動きにせず、わずかなずれを作りだすようにすれば、打ち消されずに電気が生まれるのではないか」と考えられるようになりました。
地球の磁場と電気を通す物体を上手い具合にズレて配置させるわけです。
具体的には、たとえば中が空洞になった筒の形を使ったり(導体の内部で磁場が違う経路をとりやすくなる)、磁場を通しやすいのに電気もほどほどに通すような特殊な素材を選んだりといった工夫を凝らすことで、「導体と磁場が完全に固着して動いてしまう状態」を回避できる可能性があります。
こうすることでわずかながら相対運動が維持され、結果として少しだけ電子が流れ続ける――つまり極微量ながら電圧や電流を生み出し続ける、という理論が提案されました。
言い換えれば、「地球が回転しているからこそ、導体の中の電子が常に少しずつ動かされる状態になり、そこから電気を取り出せる」可能性があるということです。
まるで“完全に貼り付いていたはずの磁場と電気を通す物体のあいだに、細い隙間を意図的につくってあげる”ようなイメージを持つとわかりやすいかもしれません。
その隙間を通して、普通なら打ち消されてしまう電子の動きがわずかに残り、そこから微弱な電流が生まれ続けるわけです。
さらに理論上は、「そんな装置が地球の自転の勢いをほんの少しだけ奪う」形でエネルギーを取り出すとも解釈できます。
いわゆる“自転にブレーキがかかる”という言い方をすることもありますが、もちろんごくごく微小なので実際には観測が難しいほどの変化です。
それでも、もしこの原理をうまく使ってスケールアップできれば、「地球が回り続けるかぎり、燃料を補給しなくても電気が得られる」という、従来の常識を超えたエネルギー利用の可能性が開けるかもしれないのです。
しかしこれまでに実際にこの効果を検証しようとした研究はどれも上手くいきませんでした。
たとえば、装置の形状が理論で想定される“正しい中空構造”から外れていたり、微小電圧を測るには極めて敏感な測定が必要なため、ゼーベック効果(温度差による起電力)や周囲のノイズを取り除くのも難しかったのです。
それでも、「もし実験でちゃんと微弱な電流が確認できれば、地球の自転をエネルギー源にできる」という夢が研究者たちを駆り立ててきました。
小規模ではあっても“燃料不要の電源”となりえる可能性を秘めているからです。
しかし地球の自転からエネルギーをとりだすことなど本当にできるのでしょうか?
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地球の自転をエネルギーに変える研究
地球の自転から電気を取り出す仕組みを開発:なお使いすぎると? / Credit:Canva
地球が自転しながら維持している磁場を利用して、本当に電気を取り出すことはできるのだろうか?
この大きな疑問に迫るために研究者たちが用いたのが、マンガン亜鉛フェライトという特殊な素材で作られた円筒形の部品でした。
最大の特徴は、中が空洞になっている点です。
イメージとしては、飲み物を吸うときに使うストローを思い浮かべてください。
ただし、その素材は一般的なプラスチックとは大きく異なり、磁石の性質をもちながら電気もある程度通すという、非常にユニークな性質をあわせ持っています。
この円筒を実験に使う理由は、地球が自転していることで生じる“磁場とのわずかなずれ”を逃さず捉え、微弱な電圧や電流を生み出せる可能性があるからです。
ふつうは、磁場を生み出す側(地球)と導体(電気を通す物質)が一緒に回ってしまうため、電子の流れが打ち消されて電気が発生しにくいとされています。
しかし、この中空円筒は「導体と磁場を完全には同期させない」ように設計されているため、電子の動きが完全に止まることなく、ごく微量ながら連続的に電気を取り出せる仕組みを理論的に期待できるのです。
実験では、まずこの中空円筒を地球の磁場の方向に対して直交する向きにセットします。
地球は一日一回転していますから、円筒と磁場のあいだには僅かながらも相対的なずれが生じます。
そこで筒の両端に高感度の電圧計をつないで微弱な電圧を記録すると、数マイクロボルトというごく小さい数値ですが、間違いなく直流電圧が測定されました。
さらに注目すべきは、円筒を180度回転させると、この電圧がプラスからマイナス、もしくはマイナスからプラスへと反転する点です。
逆に、円筒の軸を地磁気と平行になるように向けると、ほぼゼロの値に戻ってしまいます。
これらの結果は、理論が予測していたとおりの振る舞いであり、「わずかなずれを意図的に作ることで、電子の流れが打ち消されずに残る」ことを実験的に示唆しているのです。
また、同じマンガン亜鉛フェライトでも“中が詰まった固体の円柱”を使うと、ほとんど電圧が検出されませんでした。
この比較実験からは、“中が空洞かどうか”が大きなカギになっていることがわかります。
言い換えれば、内部が空いていることによって、磁場の中を移動する電子の経路がより複雑かつ柔軟になり、打ち消されずに流れが発生しやすくなるという考え方です。
こうした特性のおかげで、中空の円筒形マンガン亜鉛フェライトが「地球の自転と磁場を利用して電気を引き出す」という、一見夢のように思えるアイデアを、わずかながらも現実のものとして実証できたわけです。
もちろん、取り出せる電圧や電流は非常に小さく、すぐに実用的な発電装置になるわけではありません。
とはいえ、長年“不可能”とされてきたテーマに対して、「実際に数マイクロボルトではあるが連続的に電気を得られる」という確かな証拠を示せた点は極めて大きな前進です。
中空構造や素材の特性を活かすことで、地球の自転エネルギーを微弱ながら電気として取り出す――この研究は、その第一歩を印象的に示したといえるでしょう。
今後は、さらに透磁率や導電率を最適化した素材の開発、システムのスケーリングアップなどの研究が進むことで、“燃料不要の電源”という新たな可能性がどこまで広がるのか、大いに注目されます。
この結果が革新的なのは、「軸対称な地磁気と一緒に回転しているはずの導体からは、電気なんて取り出せない」という昔からの常識を覆した点にあります。
いまのところ得られる電圧や電流はごく小さいですが、「地球が回り続けている限り、微弱でも連続的に電気を生み出せる装置が実際にある」という発見は、とてもわくわくするものです。
将来もっと工夫を重ねれば、“燃料を使わない電源”として活躍する可能性があるかもしれません。