
消化試合なのに消化不良とは、これいかに。3月25日に埼玉スタジアム2002で行なわれた北中米ワールドカップ・アジア最終予選のサウジアラビア代表戦は、日本代表のボール支配率が7割を越える一方的な試合だったが、ゴールを割るには至らず、0-0で引き分けた。
試合終了のホイッスルが鳴り響いた瞬間、サウジアラビアの大半の選手はひざまずいてピッチに頭をつけ、神に感謝の祈りを捧げた。より明け透けだったのは、メインスタンドにいたサウジアラビアの分析スタッフたち。終了と同時にハイタッチを交わし、笑顔でガッツポーズを見せた。
正直、半信半疑というか信じたくなかったが、あの姿を見たら認めざるを得ない。ライバルと思っていたサウジアラビアは0-0を狙っていたし、受け入れていた。むしろ万々歳だった。「日本で試合をするときはオープンにはできません。とても良いチームなので」と、エルべ・ルナール監督は話す。
残る2試合で、オーストラリアが日本を相手に勝点を落とす可能性、さらに最終戦でサウジアラビアがホームでオーストラリアと直接対決になることを踏まえ、今回は決着を急がず、勝点1を優先したようだ。褒め殺されても、どんなにボールを支配しても、相手の望む結果に誘導されてしまったことは、気持ちいいものではない。
そうした“0-0戦略”を落とし込んだサウジアラビアのシステムは、5-4-1だった。本来のサウジアラビアは4バックのチームだが、日本の3-2-5にかみ合う守備的な形をチョイスした。
ただ、最初から自陣に引かれてしまったとはいえ、前半の日本は多くのチャンスを生み出し、特に3人の個が圧倒した箇所が起点になった。
その1人は中村敬斗だ。中へ、縦へとキレ良く迫るドリブルに対し、対面する2番のムハンナド・アル=シャンキティはきりきり舞い。前半は中村からゴールへ迫る場面が多かった。
2人目は前田大然だ。19分にチェイシングでボールを奪った場面は圧巻。相手CBのキックに回り込んでブロックしたからこそ、触ったボールが外へこぼれず、ゴール方向へ転がってビッグチャンスになった。普通なら回り込んで寄せれば、相手もプレーの選択を変えて切り返すはずだが、それも予測、認知できないほど、前田の寄せが速い。これは本大会でも武器になる。間違いなくW杯に連れて行きたい選手だと改めて感じた。
ただし、前田はこのチェイシングだけでなく、田中碧からのスルーパスや背後への浮き球、あるいは両サイドからのクロスなど、多くのゴール機会があったのも確か。どれか1本でも決めてくれれば、全く違う試合展開になっていた。
そして、個で圧倒した3人目は、久保建英だ。ドリブル突破や、すき間を通すパスは巧みで、ミドルシュートも意表を突いていたし、CKの精度も抜群。右足のクロスは失敗する場面が多かったが、この試合でもパフォーマンスは際立っていた。
【画像】日本代表のサウジアラビア戦出場16選手&監督の採点・寸評を一挙紹介! 最高点は初スタメンの20歳など4選手。MOMはリンクマンとなった15番
さて。問題はこうした個が通用しなくなった場合だ。
中村は後半に途中出場した12番のアリ・マジュラシに完全に封じられてしまったし、前田のチェイシングも2度目の決定機はなかった。プレータイムが増えた久保も最初の交代カードで下がっている。個人での解決が難しい以上、相手の守備に対する効果的な連係が必要になる。
その意味で惜しかったのは、前半に多く見られた中央からの飛び出しだ。相手は5バックでレーンを埋めていたため、ポケットを突くのは容易ではない。実際、サイドから飛び出すと囲まれる場面が多かった。
だが、それもルート次第だ。左右のCB、17番のハッサン・アルタムバクティと5番のジェハド・シクリは、久保や鎌田大地を気にして前へ意識が向いているので、大外やハーフレーンからではなく、中央から左右CBの背後を取ってポケットへ飛び出すとフリーになる。また、中央CBの4番アリ・ラジャミは前田とマッチアップしているので、この動きに反応しづらい。
5バックというと、相手がたくさん並んでスペースが無いように見えるが、各人の意識は違う。両ウイングバックや左右CBは、1対1に負けないよう迎撃に出る意識が強いが、中央のCBはできるだけ真ん中を離れたくないと考えている。
実際に前半、田中や鎌田、久保がアルタムバクティの背後を取って飛び出し、フリーになる場面が何度もあった。しかし、右ウイングハーフで出場した菅原由勢は、この真ん中の動き、菅原から見ると一つ奥のスペースを活かせていない。25分に飛び出した鎌田へ供給したようなワンタッチパスをもっと選択できれば良かったが、今回はチャンスを逃すことが多かった。
後半に入ると、日本の攻め筋が変化し、こうした中央からのダイレクトな飛び出しではなく、ハーフレーンと大外に人数をかけ、サイド突破を重視するようになった。しかし、久保、田中、菅原が三角形を作っても、あまりサイド突破が有効にならない。後半のサウジアラビアは「飛び出しを深く追うこと」というルナール監督の指示もあり、ボランチなどMFがマークを受け渡さず、そのまま追走してきたので、完璧に剥がすのが難しくなった。さらに終盤は選手交代も増えたが、好機は少なく0-0で終了した。
サッカーの攻撃は、手札を出しながら攻めて行く。ある手札を出し、チャンスになったが決まらなかった。相手は狙われた人やスペースを修正するので、同じ方法は何度も通じない。次の手札を出したが、これも決まらなかった。だんだん繰り返すうちに、その手札自体が無くなっていく。今回は選手の入れ替わりが多いこともあって、手札切れが早かった。
文●清水英斗(サッカーライター)
【記事】「過剰なリスペクトはもううんざりだ」「闘志なし、脅威なし、戦術なし」サウジは日本相手にドローも、終始劣勢の試合内容に母国ファン怒り! 森保Jの強さには驚嘆「彼らのレベルは異常、圧倒された」
【記事】サウジの壁を攻略できず第二次森保ジャパン初の無得点。三笘や守田よりも“不在”の影響を感じた選手が…【担当記者コラム】
【画像】9頭身の超絶ボディ! 韓国チア界が誇る“女神”アン・ジヒョンの魅惑ショットを一挙チェック!