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全自動コーヒーメーカーを買おうと通販サイトを除いたとき、「金属フィルター」を使っているタイプが便利そうだと思ったことはないでしょうか?
コーヒーを淹れる際は紙フィルターを用いるのが一般的ですが、金属フィルタータイプでは、いちいち紙フィルターを用意する必要がなく、洗って何度も使えるため非常に経済的で楽な印象があります。
ところがこのタイプのコーヒーマシンには大きな落とし穴があるようです。
2025年3月、スウェーデンのウプサラ大学を中心とした研究チームは、金属フィルターを用い事が多い職場に置かれている全自動コーヒーマシンを調査し、利用者のコレステロール値を大幅に上昇させている可能性を示したのです。
一見便利でスマートな金属フィルターのコーヒーマシンですが、実はコーヒーの中に油分をたっぷり残ってしまっており、一杯で生クリームを60ml入れるのに近い状態にしているというのです。
この研究の詳細は、2025年2月に栄養学などに関する科学雑誌『Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases』に掲載されました。
目次
コーヒーの「抽出方法」がコレステロールを左右する理由1日3杯×週5日で悪玉コレステロールが約1.5倍に!?
コーヒーの「抽出方法」がコレステロールを左右する理由
昔から「コーヒーは体にいい」と言われてきました。
実際、カフェインには覚醒作用があり、ポリフェノールには抗酸化効果もあります。しかし、1980年代に入ってから、ある副作用が注目されるようになります。
それが「コーヒーを飲むとコレステロール値が上がる」という報告です。特に、紙フィルターを使わず直接煮出した“ボイルドコーヒー”(鍋で煮出すスタイルの抽出方法)ではその傾向が顕著でした。
では、なぜフィルターがそんなに大事なのでしょうか?
答えは、コーヒー豆に含まれるジテルペン類という油の一種にあります。このジテルペンは、肝臓がコレステロールを分解する機能を邪魔してしまうのです。
しかしペーパーフィルターを用いた場合、このジテルペンをキャッチしてくれます。つまり、紙を通して淹れたコーヒーは比較的安全というわけです。
意外と多いコーヒーの油分/Credit:canva
ところが、最近では「エコで経済的」として、金属フィルター(ステンレス製など)が家庭や職場で広まってきました。
金属フィルターは繰り返し洗って何度も使えるため、紙フィルターのように毎回買い足す必要がありません。ゴミも少なくなるので環境への負担が少なく、長い目で見ればコストパフォーマンスが高いとされているのです。
しかし金属フィルターは、紙のようにジテルペンを吸着しないため、油分をそのままコーヒーに通してしまうのです。
こうした金属フィルターは家庭向けのマシンでも売られていますが、特に職場に置かれるマシンでよく採用されるタイプです。
ウプサラ大学の研究チームは、「それなら、職場でコーヒーを飲むと体に悪いのでは?」と考え、スウェーデンの病院や医療施設にある14台のコーヒーマシンを徹底調査しました。
その結果、実際職場に置かれているコーヒーマシンは金属フィルター式が中心であり、コレステロールを上げるジテルペン類の量は、紙フィルターを用いた場合の10倍以上含まれているとわかったのです。
研究で報告されていた、このジテルペンの代表格である「カフェストール」の含有量を以下に比較して表記します(単位はmg/L=1リットルあたりのミリグラム量)。
抽出方法
カフェストール濃度(mg/L)
紙フィルター式ドリップコーヒー
約12
ブリューイングマシン(職場用)
平均176(最大で444)
ボイルドコーヒー(煮出し式)
約939
この差は驚くべきものです。ペーパーフィルターを使えば大半のカフェストールは取り除かれますが、金属フィルターではそれがそのまま残り、さらに煮出し式では桁違いの量になってしまいます。
ちなみに煮出し式とは、鍋に水とコーヒー粉を入れて沸騰させて抽出し、その後、粉が底に沈むのを待ってから、上澄みだけを注いで飲むスタイルのことです。電源のない場所でも手軽に淹れられるため、特にキャンプやアウトドアで親しまれています。
煮出し式を日常的に用いる人はほとんどいないでしょうが、金属フィルターで日常的にそのコーヒーを飲んでいるとどうなるのでしょうか――次章ではその影響を見ていきましょう。
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1日3杯×週5日で悪玉コレステロールが約1.5倍に!?
では、金属フィルターを使っていると具体的にどれくらいの影響があるのでしょうか?
研究チームは、スウェーデンの医療職に従事する人が「1日3杯、週5日、職場でマシンコーヒーを飲む」シナリオを想定して試算を行いました。
その結果は衝撃的です。
この程度の摂取でも、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が0.58 mmol/L上昇する可能性があるとのこと。
この変化は、毎回1杯のコーヒーに60mlの生クリーム(脂肪40%)を入れながら飲んでいるのと同じくらいのインパクトだといいます。
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さらに、動脈硬化性心疾患リスクは5年間で13%、40年間(職業人生)では36%も増加することも示されました。
1杯飲むだけならさしたる問題でもありませんが、毎日の習慣として続けた場合、金属フィルターでコーヒーを飲むことの影響は大きく、知らぬ間に血管をむしばんでいく可能性があるのです。
職場で使用されているコーヒーマシンが金属フィルター式である場合、個人で抽出方法を変えることは難しいかもしれません。
ですが、自宅で飲むコーヒーについては、利用機会が多い人ほど紙フィルター式に切り替えた方が懸命かもしれません
最近は紙フィルターでも香りを逃がしにくい設計のものや、環境に配慮した無漂白のフィルターも多く登場しています。
いずれ金属フィルターでもこの問題を解決する方法が登場するかもしれませんが、現在のところそれは見つかっていません。そのため職場ではコーヒーを控えるくらいしか対策がないかもしれません。
その一杯が未来を変える
Credit:canva
コーヒーは私たちの生活に欠かせない癒しであり、集中力の相棒でもあります。
でも、その一杯が未来の健康にじわじわと影を落としているかもしれないとしたら、少し立ち止まって見直してみる価値はあるはずです。
もちろん金属フィルターには、コーヒーの油分を通す故の良さというものもあります。これによりコーヒーの持つ独特の香り・コク・ボディ感をダイレクトに感じやすくなるのです。
とはいえ、健康の問題と比較されると悩ましいところです。
明日からの一杯、あなたはどちらを選びますか?
参考文献
Cholesterol-elevating substances in coffee from machines at work
https://www.uu.se/en/press/press-releases/2025/2025-03-21-cholesterol-elevating-substances-in-coffee-from-machines-at-work
元論文
Cafestol and kahweol concentrations in workplace machine coffee compared with conventional brewing methods
https://www.nmcd-journal.com/article/S0939-4753(25)00087-0/fulltext
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部