石田ひかりインタビュー 逆オファーで参加が決まった、大好きな草笛光子さんの主演作『アンジーのBARで逢いましょう』

草笛光子さん主演作、完全オリジナル脚本による映画『アンジーのBARで逢いましょう』が4月4日に公開となります。90歳で単独初主演となった『九十歳。何がめでたい』で日刊スポーツ映画大賞主演女優賞などを受賞した彼女の最新作は、ある町に突如やってきて、いわくつきの物件でBARを開く謎の老女、しかもお尋ね者というアンジーの物語。そんな彼女の元に集まるのは、様々な悩みを抱える人々で世代もバラバラ。

今作でメガホンをとるのは大林宣彦監督などの助監督を経た松本動監督、ファンタジックでユーモラスな脚本を書き上げたのは、『私立探偵 濱マイク』(1994〜)シリーズや、『十三人の刺客』(2010)を手がけた天願大介さんです。松田陽子さんや青木柚さん、田中偉登さん、ディーン・フジオカさん他、バラエティに富んだキャストの中、今回は、草笛光子さんを敬愛する石田ひかりさんにお話を伺います。

――石田さんは“何かに取り憑かれている”【梓】さんの役を演じられています。草笛光子さん主演作である今作『アンジーのBARで逢いましょう』のどの部分に惹かれて、ご出演されようと思われたのですか。

実は、今回の出演は私からの逆オファーです。草笛さんが「映画を撮られるらしい」という情報をキャッチしまして、そこからマネージャーに伝えて、出させて欲しいと伝えてもらいました。そうしたら、こんなに面白い役がまだ決まっていなかったのです。本当にラッキーでした。草笛さんとは1999年に一度、舞台でご一緒させて頂いているんです。そこから数年間、ご自宅に伺わせて頂いたり、我が家にも来て頂いたりと交流をしていたこともありました。その後、なかなかお会いできなくなってしまい、今回草笛さんにお会いするのは20年ぶりぐらいでした。年齢のことばかり言うのは申し訳ないのですが、90歳の草笛さんの主演作である現場なら、もう“何が何でも駆けつけたい”という気持ちを、俳優全員が持っていると思います。

――逆オファーするほど、草笛光子さんを尊敬されているんですね。

『九十歳。何がめでたい』(2024)にも1シーン出演させていただきました。最後の最後に病院の受付としてなんですが、あれも逆オファーです(笑)。本作の撮影時に「実は草笛さん、もう1本撮影するらしい」という話を聞きつけたんです。それで「え!草笛さんもう1本!?」って。ですから『アンジーのBARで逢いましょう』が2023年秋の撮影で、『九十歳。何がめでたい』が2023年冬の撮影でした。あの時もラッキーでした。

――現場での、草笛さんはいかがでしたか。

明るくて、楽しくて、可愛らしい草笛さん、プライベートでお会いする時のまま。草笛さんは横浜出身の方なので、きっぷの良さ、ハマっ子という感じがピッタリなんですよ。前回の撮影で、私が凄く印象に残っているのは「あなたもすぐに90歳になるのよ」という言葉です。これって、草笛さんにしか、90歳の方にしか言えない台詞ですよね。本当にありがたい言葉だと思いました。私もいつか90歳になったら、草笛さんのようにカッコ良く言いたいと思いました(笑)。

――草笛さんの主演作というだけで、元気が出ますよね。日本で今作のような大人の女性の主演作が撮られたことに拍手を贈りたいです。

草笛さんは他にもたくさんのお仕事をされていますが、このご年齢で2作続けて、しかも主演をされていることが本当に素晴らしいし、後輩の俳優としても誇らしいです。

――本当にそうですね。今回の衣裳もとてもチャーミングで、石田さんの衣裳もこだわりを感じました。

私は「草笛さんが赤いドレスを着られる」と知った時、心が震えました。衣裳合わせの時にお写真を見せて頂いて本当に素敵で‥‥。実際に現場で赤のロングドレスを着られていて、本当にカッコ良かったですね。私は霊媒師を演じる木村祐一さんと色を合わせて、何かに盲信する人というイメージから白になりました。そして草笛さんが赤いドレスで、私とキム兄に「帰れ!帰れ!」と塩を投げつけてくるあのお姿は、一生忘れたくないと本番中に思っていました。

――今回の草笛さん主演作だからこその出演依頼を考えると、色々な映画をご覧になっているんですね。

私は「一人の映画好きのお客さん」として映画を楽しんでいるので、監督のカット割りや編集などの特徴を正直、あんまり気づいていないことが多くて。ダメですね‥‥。ストーリーや、俳優さんのお芝居をどうしても追ってしまいます。出来る事なら映画館の隣に住みたいくらい、映画館が好きで、もちろん配信でも観ますが、日々スケジュールをチェックしては、映画館に足を運んでいます。昨日は早速『ANORA アノーラ』を観てきましたよ!最高でした!そんな中でも早川千絵監督の『PLAN 75』(2022)は衝撃的でした。あの作品は、カンヌ国際映画祭でカメラドール特別賞をはじめ、世界中で評価されていると聞いています。この『アンジーのBARで逢いましょう』もぜひ海外の映画祭に出品して貰いたいですし、海外の方にも観て欲しいと思っています。

――海外の観客には、どんなところを観てもらいたいですか。

まずは、90歳の草笛さんの姿を観ていただきたいです。この作品は色々な登場人物の人生が絡み合っているストーリーなのですが、私はそこも凄く面白いと思いました。大作というわけではありませんが、日本映画は、こんなにもユニークで個性的な作品を作ることが出来るということも知って貰いたいですし、お洒落な作品なので、海外の方にも絶対楽しんでいただけると思います。

――社会的弱者も登場します。この映画は居場所を作る物語なんですよね。

そうですね。そして草笛さん演じる謎めいたおばあさんが、皆の居場所を作り、結果的には皆を幸せにしていく。本当に「幸せなおとぎ話」で、良いセリフが沢山詰まっています。人生何とかなる、自分と仲良くしていこう、と優しい気持ちにさせてくれる作品だと思います。

――海外では年齢の高い人が主人公を演じる作品が、結構作られています、でも日本は少ないような気がします。

そうですね。『PLAN 75』の時も、予告もたくさん観ましたし、何より「倍賞千恵子さんが素晴らしい」という話を聞いて “絶対に観たい”と思いまして初日の初回で観ました。ちょうどそれくらいのご年齢の方々が多かったのが印象的でした。そして満席でした。正直、年齢が上がると女性の場合は、誰かのお母さんといった役が多くなるので、倍賞さん主演でしっかりとその女性の感情を映し出すストーリーや演出に感動しました。

最近は、長塚京三さん主演作『敵』(2023)や、藤竜也さん主演作『高野豆腐店の春』(2023)なども公開され、役所広司さんもカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した『PERFECT DAYS』(2023)をはじめ、主演作が作られるようになってきました。年を重ねた俳優の皆さんが主演される作品が日本で製作され、公開されることはその背中を追い続ける私たちにとっても嬉しく、大きな目標になります。

――これから更に年齢が高い人たちの物語が日本でも増えると良いですよね。今後、演じてみたい役などありますか。

どんな役でも、演じたいですね。『To Leslie トゥ・レスリー』(2022)や、『ANORA アノーラ』(2024)のラストシーンのような切なくも言葉では表現できない、なんとも言えない表現を出来るようになりたいと思っています。台詞ではない雰囲気だったり、表情であったり、存在で表現出来るようになりたい、ならなければとずっと思っています。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)も中年女性の心の迷いからSF映画の展開になって面白かったですよね。ミシェル・ヨーさんはアクションも出来てカッコ良くて憧れます。

――石田さんは、本当に色々な映画をよく観られているんですね。母親も経験されて、これからご自身はどんな人生を望んでいるんでしょうか。

私はただただ必死に生きて来ただけです(笑)。16年間作り続けたお弁当人生も終えまして、ようやく娘達も成人しました。ようやくちょっと落ち着いて“彼女たちの目に、そんな私はどう映っていたんだろう?”と思うようになりました。聞くのは怖いですけれど。今、52歳なのですが、ちょうど50歳ぐらいの時に、子育てがひと段落したのですが、その時、ちょっと面白いと思ったんです。人生100年と言われている中で、ちょうど半分が誰かの為に生きたというか、50年のうちの後半の20年ぐらいは、自分以外の人、子どもや家族の為に必死に生きました。それは結果的には自分の人生を豊かにしてくれる出来事でもありました。それを経験して、これからの50年は、自分の為に時間を使うことが出来ると思うと、もの凄くワクワクしたんです。

具体的な計画はまだありませんが、人生の後半は元気であるうちに色々な所にも行きたいですし、出来るだけ多くの作品を残せたらいいなと思っています。仕事の面では、草笛さんのように、いつまでも現場に立っていたいです。私は、たくさんの人たちと、あーでもない、こーでもない、とモノを作り続ける「現場」が大好きなんです。あといくつの作品が残せるかなぁ。

映画が大好きで、よく映画館へ行くと語っていた石田ひかりさん。そんな石田さんが尊敬する草笛光子さんは、90代で2作目の主演作を。最近になり、日本でも年長者の主演作が制作されるようになったのは嬉しいことだと語っていました。年長者の映画だからこそ逆にエネルギッシュで生命力に満ちている。そしてとびっきりチャーミング。それがこの映画『アンジーのBARで逢いましょう』。人間愛に満ちていて、どんな人も色眼鏡で見ずに対等に付き合う主人公から、人生に潤いを与える術を学ぶ作品です。

取材・文 / 伊藤さとり
撮影 / 奥野和彦

ヘアメイク:神戸春美 / スタイリング:藤井享子(banana)

作品情報

映画『アンジーのBARで逢いましょう』

「風に吹かれた」と突然町にやってきたアンジーは、いわくつきの物件でBARを開き「人間まともなもん食わないとだめよ!」「本当に怖いのは人間だけだ」「過去に追いつかれると食い殺されちまうからね」「いくつになっても生きることは簡単じゃないの。面倒だし複雑だし汚いことだらけ」と、心に刺さる名言を厳しくも優しく投げかけながら、悩み多き町の人々をだんだんと変えていく。

監督:松本動

出演:草笛光子、松田陽子、青木柚、六平直政、黒田大輔、宮崎吐夢、工藤丈輝、田中偉登、駿河メイ、村田秀亮(とろサーモン)、田中要次、沢田亜矢子、木村祐一、石田ひかり、ディーン・フジオカ、寺尾聰

配給: NAKACHIKA PICTURES

©2025「アンジーのBARで逢いましょう」製作委員会

2025年4月4日(金) 全国公開

公式サイト angienobar