最強と最弱は紙一重?クマムシの隣人“オンシフォラ”の切ない現実

クマムシ(緩歩動物)とオンシフォラ(有爪動物)は、分子系統解析や発生学的研究から非常に近縁だと考えられていますが、生態的には対照的ともいえる姿を見せます。

クマムシが乾燥や放射線、極端な温度変化など、地球上でもっとも苛酷な環境に耐えうる能力を持つのに対し、オンシフォラはむしろ「脆弱」と呼べるほど環境への依存度が高いのです。

柔らかい皮膚に覆われたオンシフォラの体は水分を失いやすいため、常に高い湿度が維持される森林の落葉層や朽ち木の下など、限られた生息環境でしか生きられません。

わずかな乾燥でも深刻なダメージを受け、クマムシのように乾燥状態で休眠する「クリプトバイオシス」も行えないのです。

この脆弱性の背景には、オンシフォラが柔らかい体と水分調節機能を温存し、粘着液を使った捕食行動に特化してきた進化の過程があります。

豊富な水分と安定した温度がある森林では十分に生存に有利だった反面、乾燥や極端な気候への適応を深める必要が少なかったと考えられます。結果として、オンシフォラは湿潤な環境に留まり続けましたが、乾燥に際しては決定的な弱みを抱えることになりました。

対してクマムシは、わずか1ミリにも満たない小さな体を活かし、苔の上や土壌、極地や高山まで活動域を広げながら、過酷な条件でも生き延びる能力を高めていきました。

両者がこれほど違う生態を身につけたのは、同じ祖先から分かれたにもかかわらず、直面した生態的ニッチや選択圧が大きく異なっていたからと言えるでしょう。

“世界最強”クマムシと“脆弱”ともいえるオンシフォラの関係は、進化の多様性を語る上での好例です。

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分岐した運命:クマムシの“超耐久”とオンシフォラの“脆弱”が生まれた理由

クマムシ(緩歩動物)とオンシフォラ(有爪動物)は、パナルトプロダの共通祖先から分かれたきわめて近い存在でありながら、耐久性の面では大きく差があります。

クマムシは乾燥状態で体内水分をほぼ失っても休眠状態(クリプトバイオシス)に入り、さらには宇宙空間に晒されても生還例があるほどの強靱さを獲得しました。

一方、オンシフォラは高い湿度を要し、わずかな乾燥や温度変化にも弱い身体を持っています。

こうしたギャップを生んだ要因の一つは、やはり両者が置かれた環境の違いです。クマムシは苔や地衣類など周期的に水分が失われる環境や、極地・高山といった厳しい条件にも進出し、乾燥や放射線などへの強力な抵抗力を身につけてきました。

一方でオンシフォラは常に湿度の高い森林床を拠点とし、粘着液による捕食という生存戦略を磨く方向へ特化。苛酷な乾燥環境に向き合う必要性が低かったため、耐久性を高める遺伝子やタンパク質を発達させる圧力が小さかったと推測されます。

さらに、クマムシにはDNAを保護するDsupタンパク質のように極限環境への耐性を可能にする分子機構が複数知られていますが、オンシフォラは柔軟な体と“スライムガン”を駆使する狩りの戦略を重視するなど、同じ祖先から分かれたとは思えないほど進化の方向性が異なりました。

まとめると、クマムシが“超耐久”を獲得したのは、過酷なニッチを生き抜くために強い選択圧が働いたからであり、オンシフォラが“脆弱”なまま湿潤環境に適応し続けたのは、乾燥への対応を高めなくても十分に繁栄できたからだと言えそうです。

こうした対照的な進化の姿は、「同じ祖先から分かれた生物が、環境や生態の違いに合わせてどれだけ多様な進化の道を辿るか」を雄弁に物語っています。小型化と極限環境耐性に特化するか、柔軟な体と捕食効率を高めるか――生物進化の多彩さを改めて感じさせる好例でしょう。

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部