
「ストレスをためて、人に対してのあらゆる感情を蓄えろ」
──帯にも「M-1チャンピオン史上 最も泥にまみれた男」と書いてありましたが「泥にまみれる」久保田さんのような経験は、いまの若手芸人はしづらいのでしょうか。
そうかもしれないですね。時代的にコンプラとかもありますから。外に出て、ストリートで学ぶこともあんまりできないと思うし。
──この自叙伝によれば、久保田さんはストリートで学びすぎていましたね。
こんなもん、完全にストリートの本でしょ。ラッパーの本みたいな(笑)。
出典: FANY マガジン
──久保田さんはNSC(吉本総合芸能学院)で講師もしていますが、授業ではどういうことを伝えていますか?
「人となり」ですね。やっぱり最近の若い子は、「オシャレな歌の歌詞を書きたい」みたいな子が多いんですよ。ネタ見せでも、リズムやテンポがよかったりして、みんな上手いのは上手い。ただ、言葉に奥ゆきがまったくないんですよね。
──奥ゆきですか。
そういう奥ゆきは何から出るかと言ったら、苦労とか厚みとか過去の経験とか、くぐってきた修羅場の数とかが出たりするんですよ。それが僕は“人間力”だと思うんですけど、その指示はしていますね。「もうちょっと分厚い言葉を出せないか?」と。
──よく漫才師さんが人(ニン)と言いますよね。その人らしさというか、人間性というか。
そうですね。ニンがほしいですね。ヒューマンが見たいですよね。
──若いうちからニンを身に着けていくのは、なかなか難しそうですね。
難しいですよ。でも、若くても頭二つぐらい飛びぬけたモンスターたちはそれが出せるんですよ。
──どうして出せるのでしょう?
なんでしょうね。そこが僕もわからなくて。「なんでこいつ、ここまでできるんだろうな」って思ったりするんですよね。(令和ロマンの高比良)くるまとか、漫才を見ていたら感じますね。怖さとか狂気がある。喜怒哀楽の強さ、トゲがある。「あの若さであんな表現ができるのは、なんでだろう」と思います。
──すごいですね。くるまさんは久保田さんのように、ストリートで泥まみれになっていたタイプではなさそうですが。
ないんでしょうけどね。幼少期にいろいろあったのかもしれないし、わからない。「なにかあったのかな?」と疑ってしまうくらいの怖さはありますね。
──授業の中で、ニンを身に着けていく生徒もいるんですか?
たった1回の授業でニンを身に着けることなんてできないんで、背伸びしないでいいから、簡単なことをしないで、泥臭くバイトをしたりしてストレスをためて、人に対してのあらゆる感情を蓄えるようにアドバイスをしています。「憎しみでも恨みでもなんでもいいから、感情を持つように生きてみろ」って。「そしたら、喋っている言葉が自然と変わってくるから」って教えています。
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大喜利が勝手に強くなった理由
──喜怒哀楽の感情を強く持つことが、お笑いでは大事なんですね。
そうです。もう絶対にメンタルですね。だって俺、大阪にいたときは大喜利が得意じゃなかったんですよ。
──そうなんですか?
まったく別ジャンルだと思ってたんで、大喜利なんて強くなくてもいいと思ってたし、まわりからも弱いと思われていたんです。でも東京に来て、この本に書いてある通りずーっと苦労してたら、勝手に大喜利の回答が、めっちゃ強くなってたんですよ。
──面白いですね!
大阪のときは苦労してなかったんで、問題に対してのアンサーが、「久保田が出す答え」でしかなくて薄かったんでしょうね。でも、東京で泥まみれになってから出る言葉は、「久保田にしか言えへんやん」の答えになったのかもしれないです。それで『IPPONグランプリ』の予選で優勝して、本選にも出られましたから。
出典: FANY マガジン
──苦労を経験して芸を磨いてきた久保田さんだからこそ、NSCで伝えられることは多そうですね。
僕はのどが枯れるくらい、お笑いのことをやってきたし、語ってきました。でも教えることはできても、押し付けるのは違うと思っているんです。わかるやつだけでいいんですよ。わかってるやつが、わかろうとしてるやつに、うまく伝えられたらいい。この本だって、そうです。100人が読んで、100人が感動するような本じゃない。そんなラブソングみたいな本じゃないんで。
──そうですか? 誰でも刺さる部分はあると思いましたけど。
ポップでしたか?
──ポップではないです(笑)。
ですよね(笑)。ラブソングだったらポップじゃないですか。表紙も革命家が持っている看板の文字みたいでしょ。
──(笑)。でも、ご自身の経験を通じてどうしても伝えたいことがあるのだなと、本を読んで強く感じました。
そうですね。汗を流して頑張った人間が報われないなんて、本当にファ〇クですから。お笑いを目指す人や表現者の人がこの本を読んで、僕の思いに賛同してくれるんだったら、その輪は広げていきたいです。こんな時代を変えたい。ただそれを変えられるのは“ジブンシダイ”なんで。そういう“ヒジョウジタイ”な人生の方に読んでほしいと思います。……めちゃくちゃ韻を踏んだんちゃうかな、いま(笑)。
【著者略歴】
久保田かずのぶ
1979年9月29日生まれ、宮崎県出身。宮崎日大高校の同級生だった村田秀亮と2002年にお笑いコンビ・とろサーモンを結成。06年に『第27回ABCお笑い新人グランプリ』最優秀新人賞、08年に『第38回NHK上方漫才コンテスト』最優秀賞を受賞。『M-1グランプリ』では9度の準決勝敗退を経て、ラストイヤーの17年に初めて決勝進出し優勝を果たした。