絶賛の声が多い『グレイテスト・ショーマン』ですが、実在の興行師「P・T・バーナム」の描写には否定的な声も寄せられていました。彼が「詐欺師」と呼ばれた理由や、劇中で示された「善性」を振り返ってみましょう。



映画『グレイテスト・ショーマン』ビジュアル (C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

【画像】え…っ? 「ヒュー・ジャックマン」と比べて「本物」はどう? コチラが実際の『グレイテスト・ショーマン』主人公です

史実の人物のイメージは正直「悪い」?

 2025年3月28日の「金曜ロードショー」で、映画『グレイテスト・ショーマン』が放送されます。日本では2018年2月に公開され、興行収入52.2億円の大ヒットを記録した同作は、メロディアスな楽曲や力強い歌声、挫折を経ても諦めず成功を目指す王道の物語などが絶賛されていました。

 しかし、評論家および一部の観客からは、当時厳しい意見も出ています。主な批判のポイントは、主人公である実在の興行師「P・T・バーナム」を「美化しすぎている」という点で、史実はもちろん、劇中の言動からも違和感や居心地の悪さを覚えたという声がいくつかありました。

※以下からは『グレイテスト・ショーマン』の一部展開に触れています。

「詐欺師」というイメージがつきまとっている

 客観的には、バーナムは「フリークス(身体障がいを持つ人や奇形で生まれた人)たちを利用して金儲けをした詐欺師」ともとらえられます。劇中では「親指トム将軍」をモデルをした小人症の青年や、髭の生えた女性「レティ・ルッツ」に声をかけて、いぶかしんでいる彼らを言葉巧みに肯定し、サーカスでの興行を成功させようとしていました。

 史実でのバーナムは、160歳を超えているとされた(実際は80代の)黒人奴隷の女性を買い取って興行師としてのキャリアをスタートし、交霊会の興行を担当してスピリチュアリズムブームのきっかけも作っています。

 史実では彼の興行は「詐欺」という評判も寄せられ、映画の劇中でも批評家から「下劣で低俗」などと酷評されていました。ほかにも「バーナム効果」という、誰にでも当てはまる一般的な特徴や説明を、「自分のことだ」と勘違いしてしまう心理現象を指す用語は、いまでも使われています。やはり、バーナムには成功者や偉人というだけでなく、「詐欺師」というイメージがつきまとっているのも事実です。

映画でも完全に「正しい」人間として描いてはいない

 とはいえ、映画『グレイテスト・ショーマン』でも、バーナムを完全に「正しい」人間として描いてはいません。パーティー会場では「君たちがうろついていたら……」と仲間たちをほぼ拒絶したこともありましたし、歌手「ジェニー・リンド」の興行では「いつも荒唐無稽なハッタリですが一度は本物を手がけたい」などと、相対的に仲間たちを「ニセモノ」と呼ぶような言動もありました。

 彼はフリークスを出演させることへの葛藤もあまり見られず、真っ当な人間性に欠けていると思う人もいるでしょう。

 ただ、確かにバーナムはお金儲けやエゴのために興行をしていたのかもしれませんが、重要なのは「その過程で貴重な関係性や喜びが生まれたのも事実」ということでしょう。レティが、「あんたは儲けたかっただけかもしれない、でも私たちには家族ができた」と言う場面が象徴的です。

 そもそも、フリークスと呼ばれる人たちを見せものにしていること自体、いまの倫理観では完全にアウトです。しかし、19世紀には当たり前のように「見世物小屋」があったこと(もちろん公序良俗に反するという風潮も強まっていましたが)は事実ですし、バーナムが周りからの理解をされなかった人たちに、「仕事」や「自分を肯定できる場所」を示したという見方もできます。

 映画では、そのバーナムの「善性」も描かれています。それが端的に表れたのは、物語の序盤の場面です。

 少年時代のバーナムは、良家の令嬢で後に結婚する「チャリティ」と出会い、行儀よく食事をしていた彼女を笑わせたものの、そのせいでドレスが汚れてしまいます。すると、バーナムは父親に「自分が悪いんです」と正直に告げました。

 この場面は、彼が「人を喜ばせたい」という純粋な意志を持っており、また、自分のために誰かを不幸にはしたくない考えていることを、示唆していると思われます。この映画はそういった彼の「良い人」としての面を、強く信じて作り上げた物語といえるでしょう。

同監督の『ベター・マン』は「正しくなさ」を振り切って描く作品に

 映画『グレイテスト・ショーマン』は、「偉大な興行師」とも「詐欺師」とも評されるバーナムの両面を描いていながらも、比重としては「偉人」「善人」寄りに描いており、さらにきらびやかでポジティブなミュージカルシーンが多いために、居心地の悪さや欺瞞を感じている人がいるのだと思われます。

 ちなみに、現在『グレイテスト・ショーマン』のマイケル・グレイシー監督の最新作映画『ベター・マン』が公開中です。同作には興味深い点がありました。

『ベター・マン』は、実在の世界的ポップスターであるロビー・ウィリアムス氏を「猿」の姿で描いた伝記映画であり、さらにPG12指定でも少し甘いと思える大人向けの描写が多く、違法薬物の使用や「Fワード」や性的な話題が登場し、女性のヌードもはっきり映るのです。

 そういった過激さや、「愚かさ」の象徴のようにも思える猿の姿を通して、主人公が父親に抱く愛憎、成功してからの悩みや葛藤、または「ダメなところ」も自虐的に描いています。『グレイテスト・ショーマン』にも実はあった主人公の問題を、赤裸々かつ振り切ったように描いているため、『グレイテスト・ショーマン』でモヤモヤした人こそ『ベター・マン』はハマるかもしれません。