
累計580万部を突破! 小学生が朝読書の時間に取り合いをする『最強王図鑑』はどのように生まれたのか? 編集者の目黒哲也氏(株式会社学研プラス)に話を聞いた。
ヒットのウラにキラキラ表紙、表情にこだわった
——「最強王図鑑」シリーズは本にとどまらず、アニメ化、ゲーム化、多くの関連商品も発売されています。これは予想通りなのでしょうか。
目黒哲也(以下、同) 個人的には「みんなきっと好きなはずだ」と思って作っていますが、ここまで子どもたちが手にとってくれるとは予想していませんでした。『こうだから売れるはず』という明確な戦略も示せませんし……。
実際に書籍化、商品化してみた結果、「こういう意見もあった」「もっとこうしよう」など、毎回少しずつ調整する柔軟さを大切にしています。
——確かに、ルールの内容が少しずつ変わっていたり、毎回ブラッシュアップされていることが読みとれます。
当初、想定読者層は小学校高学年でしたが、実際には小学3年生をコア層として、さらに下の未就学児の子どもたちも読んでくれていることがわかりました。フリガナを記載していない漢字もありましたが、3冊目からはすべての漢字に振り仮名をつけました。
部数が伸び、他社でも同様の本が出始めたので、遠目でも目立つように7冊目の『異種最強王図鑑』から表紙を思い切ってキラキラ仕様にして、現在も継続しています。
イラストレーターの方も、「リアルな絵の中にも、より表情を豊かに描いてくれる人」という観点を大事にしています。
売れたから、何も変えずにいくと定番的なスタイルに落ち着き、視野も内容も狭まってしまいますよね。結果が出たものを、さらにどのように育てていくのか。常に変化を恐れない。そして、チャンスの芽は大切にしています。
——チャンスの芽を感じたタイミングは?
7冊目の『異種最強王図鑑』です。それまでは、「色物だから、出オチ的に売れていて、定番にはならないのでは?」という社内の半信半疑な空気を感じていました。
でも、その頃チョコエッグ(フルタ製菓)など「最強王図鑑」のライセンス商品がでたり、同様の本が出始めるなど少しずつ周囲での波を感じ始めていました。そして、自分にとって大きな自信につながったのは蜷川実花さんのSNSでの書き込みでした。
《この本最高すきてw寝る前に子供に読むたびについ爆笑してしまう 妄想はどこまでも自由 妄想力の勝利!! 私も負けないw #異種最強王図鑑》
これを読んで「あ、わかってくれる人もいる。自分がやっていることは間違いではない」と背中を押されました。
カバとクワガタ、キリンとオオエンマハンミョウらを戦わせ、より妄想の世界に浸れるように振り切った内容にしてみたことが功を奏したと思っています。
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恐竜はあえて後にだした
——シリーズには現存しない妖怪や幻獣なども登場し、攻めの姿勢を感じます。どのようにして決めているのですか?
『”動物”最強王図鑑』からはじまり、絶滅動物、そして恐竜、妖怪、昆虫と続きました。図鑑の鉄板テーマは、動物、昆虫、恐竜なんですが、恐竜を出してしまうとクライマックスを迎えた感があり”絶滅動物”を手にとってもらえないのではと思い、恐竜は後にしました。
そして、絶滅動物が受け入れられたのならば、妖怪も受け入れられるのではないかと思いました。”動物園にいない、見たことがない生物”という意味で、子どもたちにとって絶滅動物と妖怪の距離感は違わないのではないか、と。
昆虫が5冊目になったのは、”大きさを統一した場合”と条件を加えたためです。先ほど(前編の冒頭で)もお伝えしたように、動物たちが死ぬまで戦うことはないわけです。
架空の戦いの中で、“大きさの統一“という更なる空想の条件が加わると混乱をまねくと思ったので、「こういう本なんだ」という本のコンセプトに共感してもらってから昆虫は発売したかったんです。
14冊目のタッグ戦は、かつて、マンガ『キン肉マン』(集英社)でシングルマッチからタッグマッチに移行し盛り上がったので、きっといける!と企画にしました(笑)。
現存しない妖怪、王者を集めた異種、タッグを組む戦いなど、新たな試みには一抹の不安はありましたが、振り返るとターニングポイントにもなっていて、チャレンジし続ける意義を改めて感じます。
——一番売れたのは?
まず、ひとつは9冊目に発売した『水中最強図鑑王』ですね。約5億万年以上前から生息する、地球上で最古の大型捕食動物アノマロカリスから、現代で大人気のサメまで登場しますから、水中のベスト版のようなものなので読み応えがあります。30万部以上売れています。
もうひとつは、『ドラゴン最強王図鑑』です。ドラゴンは、ゲームやアニメでもよく登場しますし、世界各地にさまざまな伝説があって『神聖で強くてかっこいい』と、こちらも水中以上に人気があります。
ただ、『ドラゴン最強王図鑑』には内容だけではなく、本に”最強王図鑑会員証”をつけたので、もしかしたら、そういうことが+αになっているのかもしれませんね。