
累計580万部を突破! 小学生が朝読書の時間に取り合いをする『最強王図鑑』はどのように生まれたのか? 編集者の目黒哲也氏(株式会社学研プラス)に話を聞いた。
「“スピーディーな完結”は、子どもたちが読みやすい」
近年、全国多数の小中高校で取り入れられている朝読書の時間。そこで、「ケンカになるから」と、持ち込みが禁止される学校もあるほど人気の本がある。
それが『最強王図鑑』シリーズだ。累計580万部の売り上げを誇り、アニメ化、ゲーム化もされている。
シャチとサメを本気で戦わせたら、勝つのはどっち—?など、さまざまな動物、妖怪、昆虫が本気で戦った場合の勝者がどちらなのかを、トーナメント形式で楽しみながら生態を知ることができる。
その内容が緻密で大人もつい読み入ってしまう。かと思うと、クスッと笑えるシーンもある。読者の心をつかんで離さない「最強王図鑑」は、どのように生まれたのか。編集者の目黒哲也氏(株式会社Gakken)に話を聞いた。
——朝の読書の時間に夢中になる子があとを絶たず、小学生が取り合いをしているとか。
目黒哲也(以下、同) 「ケンカになるから」という理由で、“最強王図鑑の持ち込み禁止”をしている学校もあると聞きました。
「私が読みたい!」と取り合ったり、バトルの結果を予想して「勝つのはこっち!」と熱くなったり、図書館に入れると「早く返せ」と諍いが起こるので蔵書を取りやめたケースもあるようです。
——そこまで子どもを虜にする本書の着想の原点は?
捕食は別として、動物は、基本的に死ぬまでは戦いません。死にそうになったり、危険を察知すると逃げますから。
でも、逃げるというコマンドを外して「動物が本気で戦ったら、一番強いのは誰なのかな?」と、少年時代に友人とそんな話でよく盛り上がっていました。
あとは、小学生の頃に読んでいたマンガに出てくるトーナメント表、それが目前にあるだけで興奮しワクワクしていました。
そのワクワクの掛け合わせが、今回の「最強王図鑑」の原点です。児童書を作るときには、6年1組だった頃の目黒少年の心を大事にしています。
——トーナメント方式で読み進めていけるスタイルに新しさを感じますが、参考にした作品はありますか。
ひと見開き目で予想をして、ふた見開き目で勝敗が分かる4ページ完結の作りは、4コママンガを想起しているところもあります。
あとは、自分が担当した「5分後に以外な結末」シリーズ中の『5秒後に意外な結末』も同様の考えで構成を考えています。これは、オモテ面にフリがあってウラ面でオチ、というスタイルなんです。
こちらも累計500万部を突破しました。やはり”スピーディーな完結”というのは子どもたちが読みやすいのでしょうね。
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ティラノサウルスとアフリカゾウが戦ったら…
——「バトルの勝敗のバランスが秀逸」という読者の声が見受けられますが、対戦の組み合わせはどのように決めていますか?
「これとこれが戦ったら盛り上がるのでは?」という視点で考え抜いた決戦になっています。どの選手を出場させ、どんな組み合わせで戦わせるのかは、私と最強図鑑王チーム(編集者など3〜4名で構成。以下、チーム)で話し合い決めています。
たとえば、動物を選ぶ際は単に強さだけの順で選んでいくと、ライオン、トラ、ジャガーなどネコ科が多くなってしまいます。なので、同じネコ科から複数出場させる際は、スピード枠でチーター、攻撃力の高いライオンなど、それぞれの特徴が際立つ戦いにできるよう、偏らないように気をつけています。
『異種最強王図鑑』の中ではマンモスとゾウが両方出ているんですが、この同種の2頭が中途半端に準決勝などで対戦するのは盛り上がりに欠けるので、トーナメント表の山を分けて当たらないようにするか、早めに戦わせどちらかだけを残すなどと考えますよ。
あと、毒の扱いは難しく毒を有する生物を多用すると一発で相手を倒せることもあるので、あまり登場させないようにもしています。
対戦結果は、監修の先生がいらっしゃるので、基本はその方に相談しながら、チームでも検討を重ねます。
——監修の先生の出した勝敗の結果に「いやいや、勝者はこちらでしょう?」と納得いかないことは?
なくはないです(笑)。そのため、一歩引いて客観的な視点を保つために、疑問を提示して、より深い理由や、「こういう場合はどうなりますか?」ということをお聞きしています。
たとえばティラノサウルスとアフリカゾウが戦ったらと考えたときに、「ゾウが勝ちませんか。体に噛みつけるような部分はないし、筋肉のかたまりである。鼻がある分、手足が5本あるようなものですよね」みたいな感じです。
それに対して、監修の先生から「ゾウは突進しかできない。曲がることができないから横から押されると、倒れてしまう」という意見をいただき、そこから「そういえば、映画『300〈スリーハンドレッド〉』で描かれた戦いの中で、ペルシア軍がゾウ軍団を投入するも、ゾウはまっすぐにしか戦えないため、横から押されて崖から落ちていたな」など、映画や動物が戦う動画をYouTubeで見て参考にし、勝敗の結論を吟味していくんです。
妄想の結集ではありますが、それは、監修者をはじめ、多数の大人たちの知識を集め作られています。