
借りていたマンションのオーナーが中国人に替わり、突然、家賃を7万円から19万円に値上げするという通知を受けた40代男性。法的には値上げを受け入れる必要はないことが分かったが、「ある出来事」により、泣く泣く退去を決めたという…いったい何があったのか。
賃上げ通知後「見たことのない人たちがウロウロしていて…」
今年1月、40代の男性サラリーマンが住む東京・板橋区の賃貸マンションの家賃が、これまでの7万1500円から、突然、3倍近い19万円に値上げされた。
原因は、この7階建てマンションの土地・建物の所有者が替わったことだ。中国人とみられる男性2人が代表のA社が新たな所有者になると、すぐに家賃値上げを通知してきたのだ。
男性は、19万円への値上げなど呑めるはずはなく、無料法律相談会へ行った。そこで女性の弁護士に「これまでの家賃を払っていれば追い出されることはありません」と教えられ、「一緒に闘いましょう」と勇気づけられた。
しかし、2月半ばを過ぎるとマンションの様子が変わった。
「夜9時頃、マンション1階で見知らぬ若い男女とすれ違ったのですが、私が部屋へ入ると、男女はマンションを上がったり下がったり、ウロウロし始めたのです。部屋の中から様子を窺っていると、男性はスマートフォンで、中国語で電話していました。何をしに来たのか分かりませんし、怖くなって部屋の外に出て確かめることはできませんでした」(男性)
次は、不可解な宅配だった。
5階の部屋に顔見知りの若い男性が住んでいたが、値上げを嫌がったのか、2月に入ると退去した。その1週間後の昼間、空き室になったはずの部屋の前に、アマゾンが宅配した荷物が3つ置かれていた。
伝票を覗くと、送り先の住所はこの空き部屋であり、宛て名は中国人の名前だった。荷物の1つは電子レンジだが、他の2つは中身が分からなかった。
「3つの荷物はその日のうちに消え、2日後、新たに荷物が届いていました。その翌日には、梱包を解いた跡なのか、共用の廊下に発泡スチロールのカスが散乱していました。そして、その日の夜11時頃には、誰かが部屋に入っていきました」(男性)
気づくと、その空き部屋のドアノブに黒色のキーボックスが掛けられていた。暗証番号を押して鍵を取り出す、民泊用にも使われることも多いものだ。
もし、A社が民泊を始めたとすれば“闇営業”の可能性が高い。
民泊事業を行なう者は、住宅宿泊事業法に基づく届け出が必要となる。板橋区では3月11日時点で304部屋が届けられているが、このマンションは届け出がないのだ。民泊を行なうときは近隣住民への説明が推奨されているが、それもないという。
「見たことのない人たちがウロウロして、空き室に荷物が届いて、不安が募りました。民泊として利用されれば、落ち着いて暮らせなくなります。
それに住み続ければ、嫌がらせが始まるかもしれないとも思いました。引っ越せば、貸し主の思う壺になると思いましたが、怖気づいてしまったのです」(男性)
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無駄になった家賃1カ月分の更新料
2月半ば、男性は、地元の不動産業者を回って近隣で新居を探し始めた。
「昨今、家賃の値上がりが言われていますが、本当に値上がりしていました。引っ越しをあきらめる人が多く、物件が出てこなくなったとも聞きました。結局、新居が見つかるまで1カ月近くかかり、何だかんだと100万円近くの出費になってしまいました」(男性)
男性はマンション売却の経緯にも納得できなかった。7階建てマンションは、もともと地元の信用金庫が所有していた土地に、1980年に信用金庫の子会社が建てて、45年近く所有していた。
昨年11月末、その子会社が、上場している某大手不動産会社に売却し、さらに、現在の所有者A社に転売された。
男性は、信用金庫の子会社が売却する直前の昨年10月、新たに2年間の契約更新を行なっていた。
「マンション管理会社の担当者は、長年にわたりよくしてくれましたが、契約更新の際にマンションが売却されることは教えてくれませんでした。こうなることが分かっていれば契約は更新しませんでした。家賃1カ月分の更新料が無駄になったのです」
(信用金庫に売却の経緯等を聞いたが「お答えは差し控えさせていただきます」と回答)
それ以上の問題は“転売”だ。
昨年11月29日、信用金庫の子会社からマンションを購入したのは、大手不動産会社の傘下で、中古物件を購入してリニューアルし、投資用物件として販売しているグループ会社だった。
しかし、このマンションはリニューアルされることなく、わずか1カ月半後の今年1月17日にA社に転売されていたのだ。ちなみにこの大手不動産会社は、人気タレントを起用したユニークなテレビCMで知られている。
男性は新居探しで地元の不動産業者を回ったとき、こう指摘されたという。
「中国人が高く買ってくれるので、1棟ごとさっさと転売してしまうことはよくあります。または、地元の信用金庫が実態不明のA社に売却するとは考えられず、大手不動産会社がA社に転売することを前提に、信用金庫から買い取った可能性がある」
(大手不動産会社に転売の経緯等を聞いたが「個別の取引についてはお答えいたしかねます」と回答)