
ヴェルディと聞いて、何を思い浮かべるだろうか? モータースポーツファンなら、角田裕毅とコラボレーションしているデザイナーのVerdy氏を思い浮かべる方もいるかもしれないが、日本中に聞いて回れば「あのサッカーチームの!」となる方が多いのではなかろうか。キングカズやラモス、北沢に武田……超スーパースターを揃え、Jリーグ元年を制したあのヴェルディである。
そのヴェルディがモータースポーツ……しかもeモータースポーツへの挑戦をスタートさせた。今年からシリーズが正式始動したJAF公認のeモータースポーツ・シリーズ”UNIZONE”に参戦する5チームのうち1チームが、このヴェルディなのである。
サッカーとモータースポーツなんてまるで関係ないじゃないか! 多くの人がそう思うはずだ。でも彼らはなぜその”場違い”な領域に挑むのだろうか? 話を訊いた。
前述の通りヴェルディは、Jリーグ創設初期には紛れもないトップチームのひとつだった。しかし2006年にはJ2に降格。その後一旦J1復帰を果たしたが、2009年からはずっとJ2で苦しんだ。30年前の栄光を知っている人たちからすれば、まさかという展開だ。J1に復帰できたのは2024年のことである。
そんなヴェルディは、サッカーだけに注力していたわけではない。ゴルフやバレーボール、ホッケー、セパタクロー……そして野球にまで手を広げている。2016年からはeスポーツのチームを立ち上げて、様々な競技に参戦。サッカー関連のゲームはもちろんのこと、「ぷよぷよ」などのパズルゲーム王者も、ヴェルディ所属なのだという。
そして今年、UNIZONEへの挑戦をスタートさせた。
「ヴェルディの母体は、1969年に設立した読売クラブです。1993年にJリーグが開幕した当時、”100年クラブ”を目指すと謳っていました。100年……永遠に続くぞという意味ですね」
そう語るのは、東京ヴェルディクラブでeスポーツゼネラルマネージャー代行を務める松本聡氏である。
「我々は2019年に、設立50周年を迎えました。この先の50年、どう歩んでいけばヴェルディというクラブが愛されるかと考えたんです」
「我々は拠点を東京に持っていますが、都心部において近年ではなかなかボール遊びができなくなってきています。サッカーもできないし、野球もできない。そして公立中学校では、団体球技の部活が成り立たなくなってきてしまっているところもある。そんな中でも少人数、省スペースで、スポーツのメタファーがあってみんなで楽しくプレイできるというモノを目指して、2016年にeスポーツのチームを設立しました」
「当初は格闘競技のようなモノにも出ていましたが、ヴェルディの既存のサポーターの皆さんはずっとサッカーを見続けていただいているので、同じユニフォームを着た選手たちがサッカー以外のことをしているということにちょっと違和感があったようなんです。なので2018年か2019年くらいに、サッカーのタイトルに参入しました」
なぜUNIZONEに挑むのか?
そんな中で、なぜ今モータースポーツなのか?
「UNIZONEからは、2年くらい前にお話をいただきました。リアルとバーチャルの融合というのは、当時からすごくいいなと思っていまして、そのコンセプトにはモータースポーツがとてもハマると思ったのです。なので一番最初に参入すると手を挙げさせていただきました」
でもヴェルディとモータースポーツは、これまでまったく関与なし。松本代表も、モータースポーツはまったく知らないという。
しかしヴェルディ・レーシングのラインアップは超強力である。現役ドライバーの木村偉織をはじめ、スーパーフォーミュラのTEAM MUGENで岩佐歩夢のマシンのエンジニアを務める兒島弘訓、そしてロードスターでレースに挑む佐々木光……このままどこかのリアルレースに出ても十分に戦えそうな面々である。
「日々選手たちと会話させてもらって、勉強しています。選手たちと話をし始めたのが昨年の終盤戦に差し掛かったところだったので、今年どのレースを観に行こうかと、話し合っています。SFに行って、S耐行って、KYOJO CUP行って……みたいな感じになると思います」
Jリーグの試合も、テレビの無料放送などで見るのが難しくなっている時代。そんな中で若年層のファンとのタッチポイントを作る上では、eスポーツは絶好の材料なのだと、松本代表はいう。
「我々の時代は、テレビをつけたらJリーグの試合を見ることができました。でも今は、子供たちがその競技との接点を持つチャンネルが限定的になってしまっています。なので、無料で見られるようなところでヴェルディという存在を知ってもらうというのが大事だと思っています。それは、サッカーじゃなくてもいいんです」
「昨年テストとして、Jリーグの試合の時に、味の素スタジアムにレーシングシミュレータを持ち込んで、お子様たちに無料で楽しんでもらいました」
「おそらくお子様たちは、普段マリオカートをやったりしているので、レースをすることについては比較的慣れていると思います。ただハンコンがあったり、ペダルがあったり、ちゃんとヘッドフォンで音を聞いてもらうので、本格的なんですよね。それを楽しんでいただけたということについては、非常に可能性を感じています」
ビジネス化への道
ただUNIZONEは賞金もかかったプロのリーグである。観戦するファンが楽しめなければいけない。松本代表は、まずどんな形でもいいから見てもらいやすいようにすることが大切なのだと説明する。
「サッカーや野球もそうだと思うんですけど、その競技をプレイしたことがある人にとっては当たり前なことが、その競技の経験がない人からすると当たり前じゃないんですよね。つまり、一番最初にその競技を見てもらうということが、とてもハードルが高いと思うんです」
「モータースポーツも、どのレースを見ればいいのかとか、サーキットに行くにはどうすればいいかとか、色々なハードルがあると思います。でも、手軽に見られるというのが、eモータースポーツの特徴なんだと思うんです」
とはいえヴェルディも企業体。下世話な言い方ではあるが、当然儲けなければいけない。UNIZONEでビジネスを成立させるための考えについて尋ねると、松本代表は次のように語った。
「現時点ではまだ、ビジネスモデルには落とし込めていないというのが本音です。でも関係者の方々などとお話しさせていただく中では、非常に可能性を感じていただいているので、とにかく様々なタッチポイントを増やして行けば、継続して活動していける体制にはなると思います」
現時点ではeスポーツの主な収入源は、協賛やスポンサーフィーであるという。しかし大会の入場料や配信の視聴料をいかにあげられるようにするかが、今後この業界が育っていく上での課題となりそうだ。
「eスポーツは、各ゲームごとにそれぞれのエコシステムが異なっています。そのタイトルを発売されているゲーム会社が主催するリーグがあるかというところが大きなポイントです」
「リーグがあると帯での活動ができるので、そうなると選手への報酬も含めて、安定してきます。ただ、我々が参加している既存のタイトルでは、正直難しいところもあります」
「収入源は、入場料(の分配)などもありますが、サッカーなどリアルなスポーツの興業と比べると、大きなウェイトではないんです」
そんな中でヴェルディはUNIZONEでどんなことを目指すのか? 改めてそう尋ねると、松本代表は次のように語ってくれた。
「選手やスタッフとも、チームとしての目標をしっかり作ろうと話をしています。当然競技なので優勝は目指すものの、”枠”を超えた熱狂をみんなで作っていきたいと考えています。選手やファン、スタッフなどの関係者含めて、関係する人口を増やしていきたい……そういう言葉が、選手からも出てきています」
「今後も色々と発信していきますし、UNIZONEの第2戦以降は、各チームの拠点から参加することになります。グラスルーツ活動やサッカーの試合会場での活動も含めて、色々な方々に触れていただきたいと思います」
「拠点もひとつでなくとも良いということなので、都内23区の中だったり、サッカーでいうホームタウン活動をしていて関係性の強い自治体様もありますので、そいうところで活動できればいいなと思っています」