
レッドブルがまたも非情な決断を下した。リアム・ローソンをレッドブル陣営のセカンドチームであるレーシングブルズに降格させ、角田裕毅を昇格させた。その決断の理由について、ヘルムート・マルコが語った。
そもそも、レッドブルF1が今季のドライバーとして角田裕毅ではなく、リアム・ローソンを選んだのは間違いだったのだろうか? そしてなぜローソンは、スーパーフォーミュラ時代に慣れ親しんだ鈴鹿サーキットでの日本GPで、レッドブルのマシンを駆ってレースすることを許されなかったのか? マックス・フェルスタッペンは今回の決定をどう思ったのか? そしてレッドブルは、ひとりのドライバーに合ったマシンを作り続けることで、長期的な将来を危険に晒しているのではないか?
レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーであるヘルムート・マルコが、シーズン開幕から僅か2戦でチームが陥った状況について、詳細に語った。
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Motorsport.com(以下MS):マルコ博士、シーズン中にマックス・フェルスタッペンのチームメイトを交代させるのはこれが初めてではありませんが、2019年にピエール・ガスリーが交代した際は12戦のチャンスが与えられました。外から見ると、リアム・ローソンがわずか2戦で交代させられるのはかなり厳しい判断のように思えます。なぜこんなにも早かったのでしょうか?
ヘルムート・マルコ(以下HM):まず最初に、彼は降格されたわけではない。彼はレーシングブルズに移ることになりましたが、そこのマシンは非常に競争力があり、RB21よりも扱いやすいのだ。今回の変更は、正直言って不運なスタートの後に決まった。オーストラリアではFP3(フリー走行3回目)を(マシントラブルで)走れず、そこから問題が始まった。当然ながら、それはリアムの自信にも影響を与えた。さらに悪いことに、中国GPでも問題が続いてしまった。中国はスプリントレースがあったため、またしてもフリー走行は1回しかなかったのだ。
同時に、RB21は非常に扱いづらいマシンであることも認めなければいけない。決して最速のマシンではなく、そのパフォーマンスのギャップはどんどん広がっていった。「降格」という点についてだが、ガスリーの例を挙げたね? 彼はその後強さを取り戻し、現在はアルピーヌで非常に成功しているF1ドライバーだ。同じことがウイリアムズのアレクサンダー・アルボンにも当てはまる。マックスのチームメイトになった誰もが同じ運命をたどったが、彼らは違う環境で再び実力を発揮し、結果を出してきた。
■なぜ2戦で決断したのか?
MS:鈴鹿はリアムがよく知っているサーキットです。彼に鈴鹿でのレースを走らせるという選択肢もあったのでは? それとも、彼にはこれ以上続けられないと判断した決め手があったのでしょうか?
HM:まあ、これはチーム全員が一致して決定したことだ。レース序盤に異なるセットアップを試したのだが、彼はまるでボクサーのようにコーナーへと追い詰められていた。そしてボクサーがロープ際に追い詰められたとき、普通はリングから下ろすね? でも彼の場合は我々には「セーフティネット」がある。それがセカンドチームを持つという我々独自の強みであり、だからこそ彼をF1の世界に留めることができるのだ。
MS:そもそもローソンと角田は、シーズン序盤の数レースで評価されることを事前に知らされていたのでしょうか? ローソンは「自分には時間がない」と語っていましたが、これは開幕戦から明確な目標が与えられていたということでしょうか? つまり、早い段階からこのような決定が下る可能性はあったのですか?
HM:いや、もしそうなら、そもそもこうした決断を下していない。最初の不運なスタートについては、もしかすると判断ミスだったかもしれない。ローソンは、今季開幕前までにわずか11戦しかF1を経験していなかった。そして、その状況下で彼は十分なパフォーマンスを発揮できなかった。
一方で角田は……奇妙に聞こえるかもしれないが……F1に参戦して5年目となった今、非常に力強い走りを見せている。彼の人間性全体を見ても、フィジカル的に大幅に強くなり、自信に満ちた姿を見せている。そして、開幕2戦では素晴らしい走りを披露した。
では、なぜもう少し待たなかったのか? それは、我々がマックスとともに5度目のワールドチャンピオンを獲得したいからだ。前述のとおり、今のマシンは扱いづらく、決して最速とは言えない。だからこそ、戦略的にレースをサポートし、マシンの開発に貢献できるセカンドドライバーが非常に重要なのだ。
■トップ10に2台のマシンを入れることが必要
MS:リアム・ローソンに対して、いつ、どのようにこの決定が伝えられたのでしょうか? 彼にとっては、かなり厳しい話し合いだったのではないかと想像します。
HM:その話し合いは、クリスチャン・ホーナーが行なった。
MS:この件について、個人的に興味深い点があります。元F1ドライバーのギド・ヴァン・デル・ガルデをご存じですよね? 彼がInstagramに投稿した内容の中に、こんな一節がありました。「私の意見では、これはトップアスリートの成果というより、いじめやパニックによる決断に近いものだ」というものです。
興味深いのは、この投稿に「いいね!」を押したのが、ピエール・ガスリー、ニコ・ヒュルケンベルグ、オスカー・ピアストリ……そしてマックス・フェルスタッペンだったことです。つまり、マックスはローソンと組み続けることを望んでいたと考えていいのでしょうか?
HM:その結論は正しい。彼はその意向を表明した。しかし、我々はマックスに対して「チャンピオンシップを勝ち取るためには、トップ10に2台のマシンを入れることが必要だ」と説明した。
MS:では、マックスはどのように主張したのでしょうか? 「彼にもう少し時間を与えよう」といった感じだったのでしょうか?
HM:マックスは「このマシンは非常に扱いづらい。もしマシンがもっと良ければ、ローソンのパフォーマンスも向上するはずだ」と主張した。当然ながら、我々もさらなる開発に取り組んでいる。しかし現時点では、その進展がどれほど早く実現するか予測するのは難しい状況だ。
MS:一部のメディアでは「昨年の時点で、マルコ博士は2025年のレッドブルのシートに角田裕毅を起用したいと考えていたが、クリスチャン・ホーナーは異なる意見を持っていた」という報道があります。これは事実でしょうか?
HM:すべての決定はチーム全体で一致して行なわれた。角田裕毅は速いドライバーであることは間違いない。しかし、これまでアップダウンのあるキャリアを歩んできた。そのため、当初はローソンの方がより有力で強力な候補だと考えていたのだ。しかし前にも述べたように、角田は大きく変わった。彼はマネジメントを変更し、精神面でも成長を遂げた。そしてこの状況下では、今回の決定が最善の選択だったのだ。
鈴鹿について言えば、確かにローソンはこのサーキットをよく知っている。しかし一方で、ハジャーは中国GPのサーキットをまったく知らなかったにもかかわらず、すぐに適応し、少なくとも予選ではユウキに匹敵する速さを見せた。つまり、ローソンは下降スパイラルに陥っていた。我々は彼のキャリアの未来を守るために、この流れを断ち切る必要があったのだ。
■驚いた”2025年版”の角田裕毅
MS:今年のユウキのパフォーマンスには驚きましたか? あるいは言い方を変えると、ローソンの不振だけが理由ではなく、ユウキの活躍が予想以上だったということですか?
HM:そうだね。一方が期待を下回り、もう一方が予想以上に良かったということだ。
MS:以前の発言の中で、レッドブルがローソンにシートを与えた主な理由のひとつは「プレッシャーに非常に強いと信じていたから」だと強調されていました。しかし、彼がそのプレッシャーの下でこれほど早く崩れたことには驚きましたか? 私が「崩れた」と表現するのは、テレビインタビューでの彼の様子から判断してのことです。そして、なぜユウキならそのプレッシャーに耐えられると信じているのでしょうか?
HM:ローソンのパフォーマンスには驚いた。しかし先ほども言ったように、不運な状況が重なっていた。バーレーンでのプレシーズンテストでも、技術的な問題で走行距離が限られていた。そしてオーストラリアのFP3も走れなかったことが非常に重要な分岐点だった。その上、スプリント週末もあった。それでも結果を出さなければならなかったのだが、ローソンは下降線をたどることになった。一方でユウキは現在F1で5年目を迎えており、全体的に非常に力強い印象を与えている。我々は彼ならこの状況を乗り越えられると信じている。
MS:昨年のアブダビでのユウキのレッドブル・レーシングでのテストは、今回の決定にどれほど重要な役割を果たしましたか? そして関連する質問として、その時点で内部的にはすでにローソンが起用されることが決まっていたと考えてもよいのでしょうか?
HM:ユウキのアブダビテストは決定的な要素ではなかった。先ほども言ったが、ユウキには浮き沈みがあった。例えば、メキシコでの2回のクラッシュが思い出される。彼は今ほど安定していなかったのだ。
そして繰り返しになるが、我々は5度目のワールドチャンピオンを目指している。しかし、現時点でマシンは優勝できるほどの速さを持っているわけではない……とはいえ、見た目ほど大きな差があるわけでもない。(中国GPでの)ハードタイヤでのマックスの最後のスティントを見ればわかるように、最後の10周はトップ勢と遜色ないペースだった。もっとも、ピアストリはもうプッシュする必要がなかった可能性もあるがね。それでも、マクラーレンの後ろでフィニッシュしていただろうし、レースペースではメルセデスよりも速かった。しかし、それだけでは不十分。だからこそ、今回の決定はこれまでとは全く異なる状況で下された。
このチャンピオンシップを勝ち取るために、あらゆることが行なわれている。チーム全体がその目標に向かっているんだ。マックスのエンジニアたちとのミーティングも非常に前向きなものとなった。我々は、今後数戦のうちにマシンがより競争力を増すと確信している……できるだけ早くそうなることを願っている。
■シミュレータでは全てがポジティブ
MS:今回の決定には厳しい批判もあります。例えば、ラルフ・シューマッハーは「もし自分が角田だったら、こんなの受け入れない。テストも準備もなしに」と発言し、さらに「レッドブルはふたりのドライバーを潰している。誰のためにもなっていない」と言いました。あなたの考えでは、それでもユウキをこのマシンに乗せるのが正しい選択なのでしょうか? しかも鈴鹿という、全世界が彼に注目する場で?
HM:繰り返しになりますが、ユウキはF1で5年目を迎えた。そして、このような難しい状況では、経験が非常に大きな要素になる。ユウキ自身も、自分こそがレッドブル・レーシングにふさわしいと繰り返し強調してきた。我々は彼に2〜3回のシミュレーターセッションを経験させたが、それは非常に良いものだった。さらに、彼が過去に批判されていた技術的なフィードバックも、非常にしっかりしていた。
MS:そのシミュレーターセッションというのは、上海GPの後に行われたのですか? それとも前ですか?
HM:上海の後だ。我々は迅速に動く必要があった。そして、すべての結果がポジティブだった。さらに彼には技術的な理解が足りないとか、マシンのセットアップができないとか、そういった批判も過去にあったが、それも誤りだったことが分かった。
MS:ひとつ確認したいのですが、仮にユウキがこの決定を拒否したくても、契約上レッドブルには自由にドライバーを入れ替える権利があるので、拒否はできなかったのでは?
HM:契約上はその通りだ。しかしユウキ自身、内心ではこうなることを予期していたようだ。ただ、彼にとっても驚きだったのは、こんなに早く決まったことだった。
■ホンダからの資金は関係ない
MS:ユウキには、例えば「これができれば合格」といった基準があるのでしょうか? それとも、彼も2戦で交代を心配しなければならないのでしょうか?
HM:いや、その心配はない。ただ、忘れてはいけないのは、リアム・ローソンが2戦連続で最後尾の20位に沈んだことだ。それより悪い結果を出すのは、なかなか難しいだろう。
MS:「ホンダもこの決定をサポートした」という噂は本当ですか?
HM:日本GPが次戦であるのは単なる偶然だ。当然、ホンダがこの決定を喜んでいるのは間違いない。しかし、それが決定的な要因ではない。そもそも、ホンダの関与は今年いっぱいで終了する。
MS:ホンダが喜んでいるというのは、「少しスポンサー資金を追加した」ということですか?
HM:それは決定的な要素ではないし、今回の決定の動機でもない。
■コラピント獲得の可能性はあったのか?
MS:ここ数日、メディアでさまざまな噂が飛び交っています。その中で、他の候補者も検討されたのではないかという話があります。例えば、フランコ・コラピントが選択肢のひとつだったという噂です。私の同僚が、あなたが日曜日にアルピーヌのホスピタリティに入るのを目撃したそうですが?
HM:私はオリバー・オークス(アルピーヌF1代表)とは良い関係を築いている。彼はジュニアカテゴリーのさまざまなチームで、これまで何人もの我々のドライバーを走らせてきた。現在も彼のチームのドライバーがイギリスF4で走っている。彼と会ったのはその関係であって、コラピントの話題が出たことはなかった。
MS:昨年もですか? レーシングブルズのシートが空いたとき、コラピントがそのシートに入る可能性があったという報道がありました。当時、まだウィリアムズ所属でしたが、何か話し合いはあったのでしょうか?
HM:コラピントはF1で非常に力強いデビューを果たた。もちろん、彼の成長を注視する必要はある。しかし、最終的には真剣に検討されることはなかった。我々にはハジャーがいたし、彼はF2で一貫してコラピントより速かった。そして今、それが正しい選択だったことが証明されている。
MS:なるほど。我々の読者の中には、こんな提案をしてくれた人もいますよ。レッドブルで最後にマックスのペースに近づいたドライバーはダニエル・リカルドでした。彼はF1を離れてから、それほど時間が経っていません。彼を再び呼び戻すことは考えなかったのですか?
HM:それは全く考えなかった。ダニエルは最後のレースを終えて以来、F1から完全に距離を置いている。彼は短期間オーストラリアにいましたが、木曜日にはもう離れている。彼の復帰が話題に上がることはなかった。
MS:2台目のマシンが常に思うように機能しない理由について、多くの議論があります。あなたは何度も、「マシンはマックス専用に作られているわけではなく、あくまで最速のマシンを作った結果、それを操れるのがマックスだけだった」と説明されていますよね。アルボンは、これをPCのマウスに例えていました。つまり、「感度が極端に高く設定されたマウスのようなもので、コントロールが非常に難しい」と。これは正しい表現だと思いますか?
HM:それは正確な表現だね。そして、それがまさにふたり目のドライバーにとって難しい理由なのだ。しかし、すでに2台目のマシンのセットアップを変更することも検討している。よりアグレッシブではない、扱いやすいセッティングを導入する可能性がある。
MS:この点に関して、ラルフ・シューマッハーも興味深いことを言っていました。彼は「今のF2の若手ドライバーは、レッドブルのマシンに合わない走り方を学んでしまっている」と主張していましたが、あなたも同じ考えですか?
HM:ハジャーを例に挙げよう。彼は現在レーシングブルズのマシンをドライブしているが、メルボルンのフォーメーションラップでのミスを除けば、非常に良いデビューを果たしたと思う。私は、F2が特定のF1マシンやスタイルに合わせて設計されているとは思わない。F1のマシンはそれぞれ異なるからね。そして、マックス専用のセットアップについては、すでに話した通りだ。彼だけが扱えるものであり、他のドライバーにとっては非常に難しい。
■フェルスタッペンを引き止めるためには?
MS:では、マックス自身はこう言うことに前向きなのでしょうか? 「チームメイトが助かるように、マシンの特性をもう少し広げることができるなら、やってみよう」と。 それとも、そういうことは気にしないタイプでしょうか?
HM:むしろそれが彼が「ローソンの交代が早すぎる」と感じた理由のひとつだ。彼自身にとっても、このマシンは非常に難しいのだから。
MS:この鋭敏なハンドリング特性は、長年レッドブルのマシンに共通しているものです。そして最近、ランド・ノリスも「マクラーレンは速いけれど、信じられないほど扱いづらい」と言い始めました。そこで思い出したのですが、ロブ・マーシャルが以前レッドブルからマクラーレンに移籍しましたよね。この関係はあると思いますか?
HM:それは明らかに関係があると思う。マクラーレンのパフォーマンス向上が始まったのは、ちょうど彼が移籍した後の2023年オーストリアGPからだ。明らかに、何らかのノウハウが持ち込まれたのだろう。ロブ・マーシャルは非常に経験豊富で優れたデザイナーであり、彼の影響がマクラーレンに現れているのは確かだ。
MS:さて、先ほども少し話が出ましたが、ローソンだけが問題だったわけではなく、RB21自体もチームが求めるレベルには達していません。マックスですら、純粋な実力だけで勝つのが難しい状況ですよね。 これまで、「ハンドリングの難しさ」が弱点のひとつとして挙げられてきましたが、それ以外に問題はありますか? そして、少なくともその原因は分かっていますか? メルセデスはここ数年、「これが解決策だ!」と信じては、結局まだ問題を抱えている状況が続いていますよね。
HM:すでに話した通り、マックスとリードエンジニアたちとの会議で、すべての問題が率直に議論された。そして、それに対する解決策も計画されている。 アップデートは当然あるが、それが成功するかどうかは分からない。それはメルセデスでもフェラーリでも同じことだ。我々が目指しているのは、もっと安定したマシン。どんなサーキット、どんな気温、どんなタイヤコンパウンドでも安定して機能するマシンだ。 その方向に向かって進んでおり、私はそれが実現すると確信している。
MS:それはどれくらい時間がかかるのでしょうか? すでに開発が進められているとしても、鈴鹿にはまだそのアップデートは間に合わないですよね?
HM:鈴鹿には間に合わない。しかし、すでに手は打たれている。我々はバーレーンテストの時点で、昨年のマシンのネガティブな傾向が再び現れていることに気づいていた。こういった開発は一夜にしてできるものではないが、そう遠くないうちに、それらのパーツがマシンに導入されるはずだ。
MS:これは本当にスポーツ面での成功のためだけなのでしょうか? それとも、マックス・フェルスタッペンのチーム残留を確実にするためでもありますか? というのも、「マックスがメルセデスやアストンマーティンに移籍するかもしれない」という噂が繰り返し出ているからです。ローレンス・ストロール(アストンマーティン会長)がマックス獲得のために10億ユーロ(約1600億円)規模のオファーを用意しているという話もありました。さらに最近では、(マクラーレン・レーシングCEOの)ザク・ブラウンが「マックスは今シーズン終了後にチームを去ると思う」と発言し、波紋を広げています。これらのアップデートは、マックスの引き留めにも必要なのでしょうか?
HM:それらのアップデートは、マックスが5回目のワールドチャンピオンを獲得するために必要なものだ。それが我々の最大の目標であり、チーム全員がその実現に向けて全力を尽くしている。もちろん、トップドライバーには、チームのパフォーマンスが基準に達しない場合に適用される契約上の「退出条項」がある。しかしその内容はドライバーごとに異なるし、今のところその話は問題になっていない。
MS:あなたの話を聞いていると、今年の目標として、コンストラクターズタイトルよりも、レッドブルがセバスチャン・ベッテルとともに達成できなかった「マックス・フェルスタッペンの5回目のドライバーズタイトル」の方が優先されているように感じます。それは正しいでしょうか?
HM:そうだ。
MS:では、もし夏休みまでに5回目のタイトル獲得が難しくなった場合、マックスがチームを去ることを懸念しますか?
HM:繰り返すが、契約がある。
MS:つまり、夏休みがその決定の分岐点になる、ということですよね?
HM:その時期が重要なタイミングになるだろう。しかし忘れてはいけないのは、我々は現在コンストラクターズ選手権で2位におり、首位とはわずか8ポイント差だということだ。夏休みまでには、まだまだ長い道のりがある。
MS:マルコ博士、なぜ私がこのような質問をするのかと言いますと、ここ数年、レッドブル・レーシングでマックス以外のドライバーがどれだけ苦戦してきたかを考えると、もしマックスがいなかったら、チームは今ごろ中堅レベルに沈んでいた可能性が高いからです。それについて不安は感じますか?
HM:もちろん、マックスは我々のチームにとって非常に重要な存在だ。昨年、タイトルを獲得できたのも彼のおかげだった。彼は今、間違いなく最高のドライバーのひとりであり、我々は彼を引き留めたいと思っている。しかしそのためには、マシンが十分なレベルに達していなければいけない。現時点では、契約上の問題も含めて、彼がシーズン終了後にチームを去る理由はないと考えている。
MS:仮に、2戦後に角田裕毅がチームを離れることになった場合、アイザック・ハジャーが次の候補になるのでしょうか?
HM:角田裕毅はシーズン終了までチームに残る。
MS:なるほど、それは非常に明確な発言ですね。ただ、もう少し別の角度から質問すると、レッドブル・ジュニアのヒエラルキーの中で、ユウキの次に位置しているのはハジャー、という理解でよいでしょうか? 必ずしもレッドブル・レーシングのシートの話ではなく。
HM:彼のデビュー戦は非常に力強いものだった。特に、いかに素早く適応したかが印象的だった。ただし、レースではまだ少しペースが遅い。それは経験不足によるものだ。彼は間違いなく、今後の大きな期待のひとりだ。
■フェルスタッペン離脱が、マルコ引退の時?
MS:セルジオ・ペレスは、今回の件についてあなたに連絡してきましたか? 何を話しました?
HM:ああ、話したよ。テキーラのことをね。
MS:彼の声には、少し満足感がにじんでいたのでは?
HM:私は彼のために一杯飲み、彼も私のために一杯飲んだ。彼はテキーラの会社に関わっているからね。
MS:彼からボトルを送ってもらったのですか?
HM:まだだが、メキシコGPの時に送ると言っていたよ。
MS:ペレスは2021年にチームに加入しましたよね。もし当時、ニコ・ヒュルケンベルグをそのシートに入れていたらどうなっていたか、後悔したり、少なくとも考えたりすることはありますか? 当時、多くの人が彼のドライビングスタイルやメンタリティを考えると、レッドブルに合っていたのではないかと言っていました。
HM:その時、セルジオ・ペレスはちょうどバーレーンで自身初のグランプリ優勝を果たしたばかりだった。まさにそのタイミングで決断が下されたのだ。そして、多数決でペレスが選ばれた。
MS:それはとても上手い質問の交わし方ですね。
HM:ああ、この話はこの辺で終わりにしよう。
MS:そうですね、ここで終わりにしましょう。ただ、最後にもうひとつだけ質問を。あなたは最近、Hangar 7でのServusTVの「Sport & Talk」に出演されましたよね。そこでクリスティアン・ネヒバとのクイックファイア・ラウンドの中で、「F1のない人生を想像できる」とおっしゃっていました。そして「夢はありますか?」と聞かれた際には、「ただもっと時間が欲しい」と答えられていました。そこでお聞きしたいのですが、もし将来、いつになるかは分かりませんが、マックス・フェルスタッペンがレッドブルから去ったとしたら、ヘルムート・マルコ博士もF1から身を引く可能性はありますか?
HM:それは、良い理由になり得るだろうね。