〈宝塚いじめ事件〉ヘアアイロンを額に当てて火傷も謝罪なし…厳しい上下関係から生まれた“虐待”を防ぐために必要だった対策ミーティングのカタチとは

企業において、悪を生む会議と人を成長させるミーティングとでは天と地ほどの違いがある。新年度が始まり、多くの職場で新たな会議やミーティングが始まる中、本当に有意義な会議とはどんなたたずまいで、どんな機能を果たすのか。

旧態依然とした会議から生まれた悲惨な事件の代表例として、2023年の宝塚歌劇団の事件について『ほんとうの会議』より一部抜粋・再構成してお届けする。

宝塚歌劇団の虐待

2023年には、世間があっと驚く事件が三件起こりました。そのどれもが、常識や良心から大きく逸脱した異様な事件でした。三件(宝塚歌劇団の虐待、ビッグモーターの不正、ダイハツの不正)とも、世間で大きな企業だと認められていた組織で生じていたのです。

いったいこの組織の中で、会議は機能していたのだろうかと思わざるをえません。企業ですから、会議がないはずはありません。本部でも会議が月に何度ももたれ、現場でも会議がない月などなかったはずです。それなのに三つの組織で前代未聞の悪行が生じていたのです。

まず第一は、宝塚歌劇団の劇団員の死と、その後の劇団幹部、そして会社側の非情極まる対応です。被害者(Aさんとします)が受け続けた、信じがたいほどの嫌がらせといじめは以下の通りでした。

Aさんが自分でヘアアイロンを使って髪を巻こうとしているのに、上級生が「巻いてやる」と言って額に1ヵ月以上痕が残る火傷を負わせました。しかも何ら謝罪もしなかったというのです。

新人公演の直前の二日間、深夜に上級生からAさんは髪飾りの作り直しを強要されています。深夜に仕事をさせて当然という感覚が、所属していた宙組の上層部に浸透していたのです。通常の組織であれば、昼間に組の全員で髪飾りの仕事に取り組めばいいのです。これは虐待の一種です。

新人公演が終わったあと、上級生がAさんに頭ごなしに、「あなたダメね」というような、人格を否定する発言をしています。

それでもAさんは、望んで努力の果てに入団した劇団なので、懸命に耐え続けています。そして一年半後に、宙組のプロデューサーが会議室を用意します。その会議室にAさんはひとり呼び出され、宙組の幹部四人から説教されます。

その後、宙組全員の集会が開かれ、Aさんは過呼吸発作に襲われます。これはもうAさんの心が、既に怪我をした状態にあった事実を示しています。全体集会を仕切っているのは上級生たちでしょう。ここで再度何をされるかという不安に、Aさんがかられたのは間違いありません。

Aさんはたまらず、宙組のプロデューサーに組替えを求めますが、無視されます。Aさんにとって、もはや逃げ道はなくなります。

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厳しい上下関係の中で無効化する会議

それでも耐え続けたAさんに、また新人公演の準備が巡ってきたのが、2023年の秋です。新人公演の配役表に関する一件で、宙組幹部は何と午後十時以降になっても、Aさんを叱責しながら指導したのです。結局、その日の帰宅は日が変わってからになりました。

そのあともAさんへの虐待は、新人公演が近づくにつれて激化します。演出担当者の怠慢で生じた業務を、Aさんが肩代わりさせられ、衣装部門から上がって来た苦情も、上級生はAさんの責任だとして叱責します。これは下級生の衣装の取り扱い方が悪かったからですが、Aさんの指導が悪いのだと因縁をつけたのです。

いよいよ新人公演が目前に迫ると、宙組上級生のAさんへの虐待は激しさを増します。Aさんには何の落ち度もないのに、大声で叱責します。「指導」という名目でです。これは2日間にわたって続けられ、上級生はもうひとりの上級生を呼んで、二人で叱責「指導」します。挙句の果てには、何人もの上級生がいる前で、Aさんに嘘をついているだろうと、何度も詰問します。

こうやってAさんに対する暴力と暴言、虐待を綴っていると、これが芸術を売りものとする劇団のすることかと、私は怒りにかられます。

Aさんに対する2年もの虐待の間に、上級生たちは必ずや公演に向けてのミーティングを開いていたはずです。上級生の中には、Aさんへの虐待を見聞きした人もいたでしょう。これは人間としてしてはいけないこと、一種の犯罪ではないかと思った劇団員もいたはずです。

しかし「どこかおかしくはないですか」と問い質す劇団員は、ひとりとしていませんでした。ミーティングは、最重要な問題を棚上げして、公演のための練習と段取りだけが議題になっていたに違いありません。それも上意下達で、中堅や下級生は「はい」としか言えない雰囲気が支配していたのです。

こういう異様な宙組の実態は、プロデューサーも知っていたでしょうが、放置していました。とすると、この虐待という犯罪を放置する風潮は、宝塚歌劇団、またそれを管轄する阪急阪神ホールディングスにも広がっていたとしか考えられません。この実態は、後日明白になります。