早稲田卒で印刷会社勤務の私が「セーラー服おじさん」になったワケ。出世コース外れても好きを極めろ。

セーラー服おじさんが、熱心にAIの進化を追いかけ「天才ウォッチ」を続ける理由

──小林さんは現在、自治体のイベントでAIについてレクチャーするなど、AIエバンジェリストとしても活躍されていますよね。

そうなんです。私自身がAIを研究したり、新しい技術を開発したりするのではなくて、ウォッチャーとしてAI分野の探究にのめり込んでいます。2025年は「日本情報倫理協会」主催のオンラインセミナーに登壇したり、社内向けのAI講座で240名ほどに向けて話をしたりと、多少はAIエバンジェリストとして箔がついてきたかな、と。

ChatGPTの登場を機に、今となっては世間的にも少しずつAIにスポットライトが当たるようになりましたが、研究者たちの間では、ここ2〜3年でAIはとんでもなく飛躍すると言われているんですよ。

近い将来、AI が新薬の開発過程を劇的に加速させると言われています。2024年、ノーベル賞が AI 研究者たちに贈られましたが、今後もノーベル賞級の AI が次々に登場してくるでしょう。最先端の AI が超有能な助手としてはたらくことで、新薬がどんどん開発され、たいていの病気が治るようになり、「人間の寿命が向こう10 年で 150 歳に伸びるかもしれない」なんて見解も広がっています。

「AIに人間の仕事が奪われ、失業者が続出」なんて状況も、あっという間に到来してしまう。1日8時間労働、週休2日の人間よりも、年中無休で休まずに処理を続けるAIのほうが、圧倒的に低コストですから。それほど狂瀾怒濤の時代になってきていると、私はそう睨んでいます。

──とんでもない時代に入っているのですね……。そんな時代に、私たちができることはなんだと思いますか?

「未来を予測する次善の方法は、自らそれをつくり出しそうな人をウォッチしていることである」これが持論です。アメリカの計算機学者が唱えた未来予測についての名言を、普通のおじさんである自分流に変換しただけなんですが。つまり、世界の天才の語ることを追いかける、「天才ウォッチ」が大事だなと。

今後、AIによってとんでもない未来がもたらされるのは間違いない。自らそれをつくり出す技術がないのであれば、せめて最先端の情報を観測することが、私たちに今できることかなと。そしてそれを世の中に伝えていくのが、AIエバンジェリストとして、今の私に課せられた使命だと考えています。

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好きなことを極めるのは、甘くない。仕事以外に生き甲斐を見つけた、小林さんの哲学

──セーラー服にAI探究と、各分野で我が道を突き進んできた小林さんは、自分の個性を大切にする第一人者ではないかと感じます。

ただ好きなことに没頭してきただけなんです。こうして好きなことを追求していたら、気が付いたら出世コースからは外れてしまっていましたけれど(笑)。でも、型にはまらず、我が道を歩んできて良かったと思っています。

昨今は「多様性」という言葉も叫ばれるようになりましたが、本当にその価値を理解している人が社会にどれだけいるのだろうと考えます。

なぜ多様性が大切なのか。個人的には、「生命体としての種の存続」のためだと思うんです。環境は常に一定ではないので、すべての人間が同質化すると、いずれ種として弱体化して淘汰されてしまう。セーラー服はさておき、自分の興味・関心分野を極めておけば、いずれ社会が変化していった際にもしかしたらその道を極めた者が新たな社会の切り札になる可能性だって、ないとは言い切れません。

──好きなことに打ち込むことで、思わぬ未来を切り開くことになるかもしれない、と。

もちろん仕事は大切だけど、仕事だけがすべてじゃない。私はセーラー服を着たことをきっかけに、その事実に気付いたんだと思います。

何もかも手につかないくらい気になってしょうがないことが、もし仕事以外にあるのであれば、社会の体裁なんて関係なく、その道を極めれば良いと思います。優秀な人間を装ったり、実力以上のことを語ったりして出世にしがみつく必要はない。もちろん、与えられた仕事はきちんとこなした上で、ですが。

ただし、何かを極めるからには生半可な気持ちでは意味がない。私なんか、休みの日も15時間くらいかけてAIに関する文献を読み漁ったり、講演会を聴講したり、資料を作ったりしていますから。「好きなことを極める」って、楽をして生きるのとは対極のものだと思っています。意外と甘くはないんです。

それでもできるのは、やっぱりそれが好きだから。これからも私は、セーラー服を着て、AIにちょっぴり詳しい変なおじさんとして生きていきます。それが私の生き甲斐であり、使命だから。


巳年にちなんで、パイソンと記念撮影

撮影:岩切等氏(小林さん提供)

(文・写真:神田佳恵 編集:おのまり 写真提供:小林秀章)