
画像はAIで生成したイメージ
3月の終わり頃、埼玉県内に住む、アルバイト男性Aさん(30代)が家を出たまま行方が分からなくなっている。
Aさんの家族は「成人でもあるし、自分の意思で行動しているんだと思うから」と警察に届けるつもりはないと言うが、ひとつ大きな懸念があった。
【関連】本当にいた! 教師とパパ活に励むJC(女子中学生)の打算と呆れたバイト感覚 ほか
それはAさんの過去に起因するものだ。
実はAさんは薬物依存から立ち直った「薬物サバイバー」なのだ。
「Aは大学生の時に中国に語学留学したんですが、その時に現地で知り合った友人から薬物を勧められて、依存症になっていたんです」(Aさんの母親・B子さん、以下同)
その薬物とはいわゆる「覚醒剤」だったという。
「1年間の留学を終えて帰国した時には完全な依存症になっていたようです。日本ではそう簡単に手に入らないだろうし、本人も止めようとはしたようですが、禁断症状って言うんですか? ひどい倦怠感に悩まされるようになり、食欲がなく、不眠なども訴えるようになりました。私は何度も受診を勧めたのですが、Aは絶対に病院に行こうとはしませんでした。たまに別人かと思うくらい体調も機嫌も良い時があるのですが、しばらくするとまた不安定になるという繰り返しでした。そのうち、幻聴や幻覚に悩まされるようになり、とうとう大学にも通えなくなりました」
その後、引きこもりになったAさんは、B子さんのクレジットカードを使ったり、財布から現金を盗むようになったという。
「現金の方は『必要な時はちゃんと言って』と言ったら抜き取らなくなりましたが、カードの方は使っていたようで、不審に思ったカード会社からの連絡で知りました」
カード会社の担当者に「決済履歴から、違法なものを購入している可能性があります」と言われたB子さんは夫と共にAさんの部屋やパソコンなどを徹底的に調べ、その結果、薬物の購入と所持、使用に対する疑惑を持たざるを得なかった。
また、B子さんと夫は事実確認のためにAさんに詰め寄ったが、反発したAさんが暴れ出し、これをきっかけに家庭内暴力が始まったという。
「このままでは家族全員が破滅すると思ったので、私は医療関係者である親戚に協力してもらってAを専門の施設に入院させることにしました」
アルバイトで再び危ない外国人と親密に…
入院後、Aさんの薬物依存が深刻な状態だったことが発覚した。
そのため、「警察沙汰にしない」ことを条件に依存症の治療を受けることとなったが、Aさんの離脱症状との闘いは凄まじいものだったという。
「急に大声を出して暴れたり、そうかと思うとまたばきひとつせず死んだようだったり、全身の痛みを訴えたかと思えば、けいれんのような発作を起こしたりしていました。以前よりひどくなっている感じでした。お医者様が言うには『質の悪い薬物を摂取したのではないか?』ということでした」
2カ月ほど入院したAさんは、外来で治療を受けながら「自助グループ」の集まりに参加するなどし、1年もすると薬物依存からは抜け出したかのように見えた。
「後遺症?みたいな感じで対人恐怖症だったり、鬱っぽくなることがありました。でも少しづつでも社会復帰させようと思い、本人と相談した上で日雇い派遣の仕事やアルバイトなどをさせていました」
ちなみに、この冬は北海道のスキー場で「リゾートバイト」をしていたという。
リゾートバイトとは繁忙期のリゾート施設に泊まり込みで働くものを差すのだが、3月に入り体調を崩してアルバイト期間半ばで帰宅したAさんは、半月ほどで姿を消してしまったという。
心配になったB子さんは派遣会社を通じて、アルバイト中の様子を聞き出したが、そこでAさんがアルバイト仲間の外国人と親しくしていたことや、その外国人が怪しげな薬物を所持していたことでバイトをクビになっていたことを知ったそう。
「イヤな予感しかしません。でも、信じたい気持ちもあるんです。本人もあの、壮絶な治療期間をムダにはしたくないと思っているはずなんです」
記事は匿名で書いているが、Aさん本人ならば自分のことだと分かるはず。
もし、どこかでこの記事を目にしたら、お母さんに連絡してあげてほしい。
取材・文/清水芽々
清水芽々(しみず・めめ)
1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。