
国際Aマッチウィーク中の3月23日にチアゴ・モッタ監督を解任し、クラブOBでもあるクロアチア人監督イーゴル・トゥードルを後任に招聘したユベントス。新体制の初戦となった3月29日のセリエA第29節ジェノア戦では、前監督のそれとは大きく異なる戦術への適応に苦労しつつも、25分にケナン・ユルドゥズが決めた1点を守り切って3試合ぶりの勝利を収めた。
モッタ解任直前の数試合、劣勢に立たされても結束や反発の兆しすら見えない、それこそ魂が抜けたような不甲斐ない戦いが続いてきたことを考えれば、内容はともかくチームが結束して持てる力を出し切り、勝利という結果を掴み取ったこと自体、初戦として小さくない成果だと言えるだろう。
今シーズンのユベントスは、3シーズン続いた「第2次アッレーグリ体制」に終止符を打ち、若く野心的なモッタを監督に迎えただけでなく、補強にも2億ユーロ(約324億円)近くを投じて陣容を大幅に入れ替えた「新プロジェクト」の1年目。本来ならば、新監督の下で戦力、戦術の両面においてチームの土台を固め、最低限の結果(CL出場権)を確保しつつ、2年目、3年目のさらなる成長と発展に道をつけるシーズンになるべきだった。
ところが現実には、「土台を固める」以前の段階で停滞したままシーズンが進んでいく。試合ごとにメンバーが入れ替わるだけでなく、ひとりの選手を異なるポジションで使うなど、良く言えばチーム内に序列を作らず流動的、悪く言えば試行錯誤が無限に続いているかのようなメンバー構成/選手起用での戦いが続いてチームは固まらないまま。
内容的にも、ボール支配率が高い一方で得点につながる決定機創出数が少なく、失点は少ないが勝ちきれない試合が重なって(13引き分けはリーグ最多)、順位は最低目標のCL圏(4位以内)に届かない6位前後で推移してきた。
そしてシーズンが山場を迎えた2月、32チーム中20位という不本意な成績で進出したCLプレーオフでPSVに敗退、さらにコッパ・イタリア準々決勝でもセリエAで降格争いに巻き込まれている格下エンポリにPK負けと、重大な取りこぼしを重ねてカップ戦の戦いは早期終了。3月に入ると、唯一残るセリエAでもアタランタに0ー4、フィオレンティーナに0ー3と惨敗を重ねる深刻な状況に陥った。
この頃になると、モッタ監督とチームとの関係は冷えきっている、共に戦っていくうえで不可欠な信頼や共感が失われている、といった指摘がクラブ周辺から聞こえてくるようになる。象徴的だったのは、ユベントスのレジェンドであり現在はスカイ・イタリアのコメンテーターを務めるアレッサンドロ・デル・ピエロが、フィオレンティーナ戦の直後に発した次のようなコメントだ。
「ピッチ上の選手、ベンチにいた選手、さらにはクラブの首脳陣、その誰ひとり持てる力をすべて出し切ったと胸を張って言い切ることはできないはずだ。これは非常に悪い状況だ。ここには『ユベントスの魂』が欠けている。勝つこともあるが負けることもある。しかしユベントスは常に誇りを持って全力で戦わなければならない」
ここでチームと並んで名指しされたクラブ首脳陣は、フィオレンティーナ戦の後にも、モッタ監督の続投を表明していた。「困難な状況にあることは確かだが、ここから抜け出すためには全員の結束が不可欠だ。そこにはモッタも含まれるのか?もちろんだ」(クリスティアーノ・ジュントリFD)。
しかし、このフィオレンティーナ戦を終えて国際Aマッチウィークに入ったその週末、改めてモッタ監督と会談を持ったジュントリFDは急速に解任に傾き、後任探しに動き始める。最初に接触したのは、EURO2020でイタリアを優勝に導いたロベルト・マンチーニ。昨年10月にサウジアラビア代表監督を解任されて以来フリーだったが、今シーズン末(6月のクラブW杯含む)までの3か月契約で来シーズン続投の保証なしという条件で合意できず、話は物別れに。
続いて打診したのが、1998年から2007年まで足かけ8シーズン、DFとして在籍しただけでなく、20ー21シーズンにはアンドレア・ピルロ監督の助監督を1年間務めて、クラブの内情もカルチャーも理解しているトゥードルだった。監督としてもすでに12年のキャリアを持っている。
セリエAでも過去にウディネーゼ、ヴェローナ、ラツィオの監督を歴任。21ー22シーズンに途中就任でヴェローナを残留に導いただけでなく、昨シーズンも終盤の3月にマウリツィオ・サッリの後任としてラツィオを引き受けると、鎌田大地を重用するなどしてチームを立て直した実績の持ち主だ。
ユベントスが新監督を今シーズン残り3か月だけの「つなぎ」と位置付けたのには相応の理由がある。モッタを解任した時点で、彼と共に構想したシーズン開幕時の「プロジェクト」は棚上げになり、来シーズンは新監督の要望を踏まえて新たなプロジェクトの立ち上げ(戦力と戦術の両面で)が必要となること。
さらに、シーズンが終われば監督の選択肢が大きく広がることを考えれば、現時点での限られた選択肢から選んだ監督が、来シーズンのチームにとってベストの選択にはなりにくいこと。これらを踏まえると、今選ぶ監督に来シーズン以降の運命までを託すのは得策ではない、というのは理に適った判断ではある。
トゥードルはそれを理解して「つなぎ」の立場を受け入れ、彼にとって「心のクラブ」のひとつであるユベントス(もうひとつはハイドゥク・スプリト)の指揮を引き受けた。こうしてクラブ首脳陣は、3月23日にモッタ監督の解任とトゥードルの就任を発表する。契約期間は6月末までの3か月。
CL出場権を確保した場合には1年間の自動延長のオプションがつくが、クラブ側には7月30日までならそのオプションを解除できる権限が残るという複雑な内容である。これは今シーズンの残り試合に加え、6月から7月にかけて行なわれるクラブW杯まで指揮を委ねることを前提としながら、来シーズンについてはクラブ側に全面的な選択権を残すための方策である。
【動画】トゥードル新体制の初陣で、若き10番がドリブル突破から決勝ゴール!
翌24日のトレーニングから指揮を執り始めたトゥードルが導入したのは、ヴェローナやラツィオで用いたのと同じ、マンツーマンディフェンスをベースとする3ー4ー2ー1システムだった。敵のビルドアップに対しては前線からマンツーマンでハイプレスを仕掛け、ミドルゾーンから下の守備も人に基準点を置くのが原則だ。
攻撃は後方からパスをつないでのビルドアップが基本で、その過程ではCBとボランチ、ボランチとWB、WBとトップ下が流動的にポジションを入れ替わることで相手に守備の基準点を与えず、中央よりサイドを主体に前進。しかしポゼッションには強くこだわらず、相手のプレスを剥がしたらそこから先は縦にスピードアップして一気にフィニッシュを狙っていく。
タイプ的にはジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督のアタランタや、アントニオ・コンテ監督時代のインテルとの共通点が多いアグレッシブで強度の高い3バックである。前任のモッタが打ち出していた、4ー2ー3ー1によるミドルブロック主体のゾーンディフェンス、ポゼッションによるゲーム支配を基本に据えたスタイルとは、対極に位置するとは言わないまでも、明らかに異なる種類のサッカーだ。
シーズンの終盤になって、これだけ大幅に戦術的な枠組みを変更するというのは、かなり勇気ある選択と言える。しかしトゥードルは昨シーズンのラツィオでも、前任監督サッリの独特な攻撃サッカー(人に基準を置かない純粋なゾーンディフェンス、システマチックなパス交換に根差したポゼッションと崩し)から、上で見たようなマンツーマンの3ー4ー2ー1への大胆な移行を試み、ラスト9試合で5勝4分け1敗というポジティブな成果を残している。
そのトゥードル新体制の初戦となったこのジェノア戦、後方からのビルドアップは相手のアグレッシブなハイプレスの前に自陣内で行き詰まる場面が目立ち、前線からのハイプレスもうまくハマらず後退を強いられるなど、内容はどちらかと言えばパッとしないものだった。
決勝点となった25分のゴールは、相手が触れてタッチラインを割ったボールをキャッチしたトゥードル監督が、それを素早くトゥーン・コープマイネルスに渡して前方へのスローインを促し、それをドゥシャン・ヴラホビッチが競り合ったこぼれ球を拾ったユルドゥズが独力で一気に抜け出して難しいシュートを決めたもの。
ただ、それを除けば、決定機らしい決定機はほとんど作ることができなかった。ボール支配率50対50、ゴール期待値0.94対0.36という数字を見ても、指揮官のファインプレーがなければ0ー0で終わっていた、あるいはそれが最もふさわしい試合だった。
それでも、デル・ピエロに「ユベントスの魂が欠けている」とまで言われた2週間前のフィオレンティーナ戦と比べれば、全員が結束して持てる力を出し切り、相手にも危険なチャンスをほとんど許すことなく1点を守り切って、どうしても必要だった勝利という結果をもぎ取ったことは確か。この事実はそれだけでポジティブな評価に値するものだ。
逆に言えば、ユベントスが直面していた状況はそこまで深刻だったということでもある。そしてその責任をすべてモッタ前監督に帰するのは、決してフェアではない。その意味で、さきに取り上げたデル・ピエロのコメントは重要かつ正鵠を射たものだ。
モッタがチームを掌握できず、選手たちとの関係が冷えきっていたことは、解任後に伝えられたいくつかのエピソードからも明らかだ。しかし、ピッチ上でプレーするのは監督ではなく選手たちであり、彼らが本来のパフォーマンスを発揮できなかった敗北の当事者であることもまた事実である。
さらに言えば、2億ユーロ近い資金を投じ、満を持して立ち上げた新プロジェクトが、1年も立たないうちに全面的な見直しを強いられたとすれば、それを統括し主導してきたジュントリFDもまた、その責任を問われて然るべき立場にある。確かなのは、2010年代のセリエAを圧倒的な強さで支配した後、2020年に入って迷走を続けてきたユベントスは、またもや「再スタート」に失敗したということだ。
シーズンの残りは8試合。現在の順位は5位(勝点55)で、4位ボローニャ(勝点56)との勝点差はわずかに1。さらに3位アタランタ(勝点58)とも3ポイント差であり、CL圏内(4位以内)はもちろん3位進出の可能性もまだ残っている。トゥードル監督のミッションは、CL出場権を確保したうえで、シーズン終了の半月後に組まれているアメリカでのクラブW杯で上位進出を果たすことだ。
しかしこのミッションがどちらに転んでも、ユベントスは来シーズンに向けて改めて仕切り直し、数年後を見据えた新たなプロジェクトを立ち上げなければならない。その出発点となるのは監督選びである。
トゥードルがこれからの3か月で誰をも説得する内容と結果を残して、指揮官の座に留まるのか。それともすでに噂に上っているように、コンテ、ステーファノ・ピオーリといった実績あるベテラン監督を迎えて出直すのか。その選択こそが、今度こそ最後になるべき「再スタート」の始まりとなる。
文●片野道郎
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