数あるマンガの実写版のなかでも、「原作者の要望」通りにした部分が、賛否割れた実写映画を3作品紹介します。それぞれ「演出」「ストーリー展開」「デザイン」という異なる要素で批判がされていたのです。



『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』ポスタービジュアル (C)2015 映画「進撃の巨人」製作委員会

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声が聴こえないライブシーン、どう感じた?

 作品のメディアミックスおよび実写化において、「原作者の意向を反映させる」ことは確かに重要です。しかし、その原作者の要望が、結果として作品が批判される要因のひとつになってしまったケースも存在します。

 重要なのは、要望にただ従うだけでなく、「そこからどのように工夫し、いい作品に昇華させるか」「他の要素とどうすり合わせていくか」なのでしょう。ここでは、原作者の意向を守ったものの、批判的意見も出てしまったポイントがある実写化映画3作品を振り返ります。

●『BECK』:「歌を聴かせない」演出

 2010年に公開された『BECK』は、原作者のハロルド作石さんの意向により、佐藤健さん演じる主人公「田中幸雄(コユキ)」の声が「聴こえない」演出が採用されました。音のないマンガでは納得できる「コユキは天性のボーカルの才能の持ち主で、その歌声を聴けば誰もが魅了される」という設定に、映像作品でも説得力を持たせるため、同様に観客に「想像させる」手法を選ぶのは、ひとつの有効な手と言えます。

 監督の堤幸彦さんは、パンフレットで上述の要望があった際に「よっしゃと思いました」「”描かないで、見る人の創造に委ねる”という方法は、表現の中でも強烈な手」と語っており、コユキの声を出さない代わりに、ライブシーンの周囲のリアリティーにこだわったことも明かしていました。

 そのこだわりは伝わりますが、この手法は劇中で6回も繰り返されます。序盤では「夕焼け」「雷鳴」「その歌声でライブをしている」といったイメージ映像が差し込まれるなど、「聴こえない」ことをカバーする演出がされていますが、終盤のライブは「他の楽器や歌声は聴こえて、歌詞の字幕も表示されるのに、コユキの歌声だけが出ていない」という演出です。

 結果として、一部で「コユキのマイクの電源が入っていないように見える」とまで言われる場面になっていました。ライブシーンのこだわりは確かに感じられたほか、「千葉恒美」役の桐谷健太さん、「平義行」役の向井理さん、「斉藤さん」役のカンニング竹山さんの好演など、見どころは多々あるだけに、1回はちゃんとコユキの歌を聴きたいと思った方も多かったのでしょう。

●『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』:原作サイドから「違う話にする」要望があった

 2015年に2部作で公開された実写映画版『進撃の巨人』は、原作からの改変やツッコミどころのために、批判的意見も多く出ていました。原作者の諫山創さんはファンだった映画評論家の町山智浩さんに脚本をオファーし、町山さんはいったん断ったものの承諾、そして初めに原作マンガの4巻くらいまでのストーリーをまとめた脚本を書いています。しかし、それを読んだ諌山さんと担当編集者は、「原作とは全く違う話にして欲しい」と要望した、という経緯がありました。

 そうして完成したオリジナル展開多めの脚本だけでなく、現場でのズレもあったようです。たとえば前編の「巨人たちは音に敏感」と告げられたあとの場面の脚本には、「セリフは全部小さなささやき声で」と書いてあったにもかかわらず、映画ではキャラたちは普通に大きな声で話しています。三浦春馬さん演じる「エレン・イェーガー」の絶叫シーンも、本来の脚本では壁に向かって『ああ…』と小さくうめくだけだったそうです。

 さらに、気まずくなった方も多そうな映画オリジナルキャラ「ルリ(演:武田梨奈)」が唐突なラブシーンに応じるシーンも脚本にはなく、樋口真嗣監督が現場で武田さんにオファーして生まれたことが明かされています。

 さまざまな積み重ねで、原作との違いのほか、不自然な場面も生まれてしまった実写版ですが、PG12指定止まりとはとても思えない巨人のグロテスクな描写や、アクションの迫力は称賛されていますし、決して全方位的に悪い実写映画ともいえないでしょう。まだ作中の大きな謎が明かされていない2015年の段階で実写化したのが、そもそも早すぎたのかもしれません。

●『聖闘士星矢 The Beginning』:「聖衣」のデザイン

 2023年に公開された実写版『聖闘士星矢』で、原作者の車田正美さんから要望があったのは、「聖衣(クロス)」のデザインでした。トメック・バギンスキー監督は、聖衣について原作マンガやアニメを強く踏襲したものや、ハリウッドの著名デザイナーにも多く案を出してもらったものの、プロジェクトの最初期に車田さんに「こうじゃないんだよね」と、「原作の再現が大事なわけではない」ことを告げられたそうです。

 さらに、バギンスキー監督は車田さんの「自分は聖衣を最初に描いたとき、古代ギリシャの鎧をベースに作っていた」という言葉にハッと気付かされたそうで、今までのデザインを全部捨てて、実際にギリシャやヨーロッパの鎧を作る鍛冶屋に協力をあおぎ、聖闘士星矢のシルエットは残しつつリアルにする方向性を相談しながら、本物の鎧と同じ製法で聖衣を創出していったことを明かしています。

 しかしながら、でき上がった映画本編での聖衣のデザインに関して、「中途半端」「もうちょっと遊んでも良かった」「マスクをしているとニンジャみたい」といった声も出てしまったのは、残念なところです。この聖衣はポスタービジュアルでも使われているので、作品の第一印象も大きく左右してしまったのではないでしょうか。

 作品としての評価は賛否両論となり、興行的に振るわなかったものの、アクションのクオリティーは高いですし、邦題にある通りの物語の始まりを描く構成は理にかなっています。何より日本人である新田真剣佑さんがハリウッド大作で主演を務めた記念碑的な作品であり、良いところもたくさん見つけられました。

 新田真剣佑さんは後のNetflix配信の実写ドラマ版『ONE PIECE』の「ゾロ」役で世界的に注目が集まりましたし、再評価されることを願っています。