蝶野正洋(C)週刊実話Web

プロレス団体『DDT』で行われた試合で、選手が首を負傷して立ち上がれなくなってしまい、救急搬送されるというアクシデントが起きた。

頭から落とすフィニッシュホールドが直接的な原因だったようだけど、長年のダメージの蓄積やコンディションなどもあるから、ハッキリしたことはまだ分からない。

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試合でインパクトを残そうとすると、激しい打撃や、刺激的な技を使ってしまいがち。それが事故や深刻なケガにつながってしまうのは、以前から指摘されてきた。

俺は危険性の高い技に対しては、ある程度の制限をかけてもいいと思う。

特にコンディションの悪い選手や、キャリアの長いベテラン選手に対しては、落差の大きい技を禁止にするとかね。

以前アメリカでは、プロレス興行を州ごとにスポーツコミッションが管理をしていた。

危険な行為に関しては一定の規制をかけたり、試合前のドクターチェックを徹底したりするんだよ。

日本のプロレス業界にも、厳格なコミッション制度を作ろうという動きがこれまで何度かあったけど、実現していない。

2023年末に『日本プロレスリング連盟』が発足して、安全基準や事故防止のためのガイドラインを策定するとうたっているけど、具体化するには時間がかかっている。

選手の体調管理や安全面にコストをかけられるのは、一部の大手団体だけという現実もある。

プロレスラーと名乗る者はいまや1000人を超えるが、そこにはフリーの選手もたくさんいるし、興行も自主興行やプロモーターの主催興行も多いから、一定の安全基準を順守する体制を整えるのは難しい。

どれだけルールを作っても、選手が無理をしてしまうというのもある。

レフェリーの意識向上を提案

俺も第2回「G1クライマックス」(1992年開催)のリック・ルードとの決勝戦は、首を故障していたが痛み止めを打ちながら試合に臨んだ。

やっぱり選手としては、大一番の試合で穴をあけたくない。

それに意地もあるから、ケガをしていたとしても「どんな技だって受けてやる」という気持ちになってしまう。

現状でやれることとして、レフェリーの意識向上と厳格化を提案したい。

レフェリーの仕事は試合の進行がメインだけど、実際は選手のコンディションも預かってなきゃいけない。

選手が危険な技を使用したり、何かミスが起きたらすぐに試合を止めるべきなんだよ。

試合が盛り上がっているところでストップをかけるのは、かなり勇気がいる行為だし、お客さんからも「野暮なことするな」とヤジられると思う。

でも、レフェリーが一番近くにいるんだから、選手の異変に誰より早く気づいて、必要なら止める義務がある。

リング上で事故が起きたら、レフェリーにも責任があると思ったほうがいい。

プロレスはそれぞれの団体でルールが違うが、それでもレフェリーは団体の垣根を越えて、事故を防ぐための知識や技術を習得したほうがいい。

むしろ団体から独立させて、レフェリー協会として別の組織にしてもいいかもしれない。

そこに所属する、レベルの高いレフェリーが試合を止めたのであれば、お客さんも納得するんじゃないか。

事故防止だけでなく、ケガをした選手に対する継続的なサポートも含めて、業界は一致団結して体制を整備するべきだね。

「週刊実話」4月17日号より

蝶野正洋(ちょうの・まさひろ)
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。