
2025年度上半期のNHK連続テレビ小説『あんぱん』がスタートした。評判は上々で、早くも名作を予感させる立ち上がりになっている。なぜ早くもこれほどの評価を獲得しているのだろうか。
朝ドラのお約束をいくつも盛り込んだ手堅い作り
『あんぱん』は、国民的キャラクター“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと、その妻・小松暢(こまつ・のぶ)の夫婦をモデルにしたオリジナルストーリー。第1週目では、ヒロイン・朝田のぶと、その夫となる柳井嵩(やない・たかし)の出会いが描かれた。
東京から高知県・御免与町にやってきた内気な転校生の嵩が、活発で元気あふれるのぶと出会い、最悪の初対面から徐々に仲を深めていく。
初回の視聴率は、前作『おむすび』の最終回12.5%より大幅に上昇して15.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)。さらに第4回は初回の15.4%を上回る15.5%を記録した。
「NHKの朝ドラは初回の視聴率が高い傾向にあり、『おむすび』は最高視聴率が第1回の16.8%で、それ以降はずっと右肩下がりでした。対して『あんぱん』は、すでに初回超えを達成。こうした数字の面からも、好評であることがわかります」(テレビ局関係者)
好評の理由のひとつはなんといってもストーリーだ。名作家・やなせたかし夫婦の生涯を描くという大きなアドバンテージはあるものの、脚本のよさが際立っている。そして中身を紐解くと、実は“朝ドラあるある”のオンパレードであるとも……。
「活発なヒロインが走るシーンから始まり、いじめられる転校生、それをかばったがゆえに相手をケガさせて相手の親から怒られるという展開、極めつけは父親の早逝。一週目から、“朝ドラあるある”をこれでもかというほどに詰め込んだ内容です。父親の早死になんて、何度朝ドラで見たことでしょうか。
また、ヒロインとお相手の出会いのシーンもベタベタでしたね。走るヒロインに男の子がぶつかり、ヒロインが逆ギレ。その男が、実は転校生だった……という、もはやギャグのようなお決まりすぎるシーンもありました」
こうした“ベタ”と“あるある”が詰め込まれていることはSNSでも多く指摘されている。
〈朝ドラあるある よいお父ちゃんほど 早死に〉
〈朝ドラあるある「女の子が男の子を守る」がこのドラマでも〉
〈朝ドラのお約束をいくつも盛り込んだ手堅い作りで安心して見ていられる〉
〈あんぱんは今のところベタオブベタなので、ツッコミ入れながら気楽に見ている〉
こうしたベタ展開が、なぜここまで視聴者にウケているのだろうか。
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不幸ばかりが続く展開だが……
「やはり第一に、これが事実を元にしたストーリーだからというのが大きいでしょう。第1週目では、ヒロインとそのお相手の男の子に不幸が降り続く連続で、言ってみれば“不幸のご都合主義”のような状態でしたが、これらが基本的には事実なので、そこに対するツッコミは起こりません。
また、展開自体はベタですが、そのシーンごとの登場人物のセリフや演出が非常にていねいに練られているからこそ、退屈しない要因になっているのかと。
特に第5回では、やなせたかしが作詞した『手のひらを太陽に』『アンパンのマーチ』の歌詞を思わせるようなセリフが効果的に使われていて、これを王道の展開に乗せるからこそ、そのメッセージ性が際立っていました」
下手にこねくり回すことなく、ベタな王道を突き進んでいるのは、やなせたかし夫婦の人生の物語は、それだけですばらしいドラマになると制作陣が確信しているからだろう。
そういった背景は、NHKが明かす制作秘話からもうかがえる。
「『あんぱん』はまず脚本家の中園ミホ氏にオファーして、それから誰をドラマの題材にするのかを考えていったと言います。それで、中園氏がやなせたかしさんという案を出した直後に、制作統括の倉崎憲氏もリュックからやなせさんの本を出したそうなのです。
中園氏はやなせさんの詩に感銘を受けて手紙を送り、10~15歳くらいまでは文通をして、実際に面識もあったと明かしています。これだけ制作陣側にモデルとなった夫婦へのリスペクトの気持ちがあるからこそ、視聴者を納得させる作品が作れるのでしょう」
実話を元にしていくならば、この先夫婦にはさらなる苦難が待ち受けている。アンパンマンの助けを待つたくさんのキャラクターたちのように、視聴者もまた、アンパンマン誕生の瞬間を心待ちする展開になっていきそうだ。
取材・文/集英社オンライン編集部