「ナイスガイのままでもチャンピオンになれる」今季王者候補ランド・ノリスの野望

 2025年のF1王者の有力候補と目されているマクラーレンのランド・ノリス。彼は『ナイスガイ』のままでも頂点に立つことは可能だと主張している。

 開幕からの3戦で優勝1回、2位2回といい形でシーズンをスタートさせたノリスは、4度のF1王者マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が激しい性格だと見なされているのとは対照的に、穏やかで温厚なドライバーだと評されている。

 そしてノリスは、ライバルのような過度なアグレッシブさを見せず、“ナイスガイ”のままでもF1チャンピオンになることを決意している。

「世界チャンピオンには、こうあるべきだという決めつけがあるように感じている。つまり、みんなは過剰にアグレッシブであるべきだと言っているようなんだ」

 ノリスはガーディアン紙に対しそう語ったが、これはフェルスタッペンのような人物のことを仄めかしていると受け取れる。

「僕はそれよりも、良い人でいて、そして上手くやれるように頑張りたい。チャンピオンシップを制するためにできることは何でもやるつもりだけど、自分の人生を犠牲にすることはないだろう。それか、世間で『Fxxx You』の精神を持つべきだとかいうこともないだろうね」

「僕は世界チャンピオンになれると今も信じているけれど、ナイスガイでいても、それはできると思う」

 ノリスはライバル達と同じ人のように振る舞うことは簡単にできるというが、それは本物ではないと語っている。

「僕はそういうふうに育ってこなかったから、多くのチャンピオンやドライバー達ほどには、“殺しの本能”を持ち合わせていない」

「それを持ち合わせているように振る舞ったり、ちょっと嫌なヤツのように振る舞って、みんなにそういった印象を与えることはできるかもしれない。でも他のチャンピオンがやってきたとしても、僕がやらないことはあるんだ」

 実際、ノリスはサーキット内外で「人生を楽しんで」いつつ、タイトルを獲得することはできると証明するのが使命だと語っている。

「僕は周囲からの押し付けは望んでいないし、自分が優しすぎるから何かを諦めているようには思われたくない」

「僕は戦い続けるし、リスクだって冒すし、世界チャンピオンになるためには何でもやる。でも、自分自身の自由まで失うつもりはない」

 なお同紙のインタビューの別のパートでは、キャリア初期にはメンタルヘルスの面で戦いがあったと率直に語った。

「様々なことや僕自身のパフォーマンスについてネガティブな思いを抱いていた時は、まだ次のレースウィークが来ていないのにもかかわらず、その週末についてネガティブに考え始めてしまうこともあったんだ」

「外部から見ても、僕のネガティブさは明らかだったと思うし、今でもそうだ。僕は今も『今日は最悪だった。酷い出来で十分じゃなかった』みたいに思うやつなんだ。多分、他の人はそんなことは認めないだろうけど、僕はいつもそんな感じだ。そのことが、僕の健康に悪影響を及ぼしていた」

 それでも、他のスポーツのアスリート同様に、ノリスは自分が恵まれた立場にあると認識している。

「最悪なのは、世界中を飛び回って高い給料を貰って、人生でやりたいことはほとんど何でもできる自分が、どれだけ幸運なのかということだ」

「だから他の人達と同じくらい文句を言ったり、あること無いこと言ったりする権利が無いように感じる」

「でも僕にとっては、このことについて話すのはちょっとした勝利だった。僕と同じ立場のひとがいて、それに対する共感のメッセージを受け取ることができたし、彼らの助けにもなっていたからだ」

 そしてノリスは、世界チャンピオンになる野望を語った後、レースに勝つことはファンの健康と安全ほど大事ではないと認めた。

「たとえ1通だとしても、自殺したかったという人たちの命を救ったと言われた時のほうが、僕は嬉しかった」

 メンタル面の不調について公言したあとに受け取ったメッセージについて、ノリスはそう語った。

「かなりのメッセージを受け取った。レースで優勝するよりも嬉しい気持ちにさせてくれたよ。僕の人生観に、大きな影響があった。僕が違いを生み出すことができたんだ。レースにかっても、その違いは生まれないんだ」