
レッドブルの角田裕毅は、F1日本GPの決勝レースを12位でフィニッシュした。スターティンググリッドのポジションから、ふたつ上げるのが精一杯。前を行くマシンの後方乱気流、そして性能が劣化しなかったタイヤ、そしてダウンフォースが大きく最高速が伸びないセッティングのマシン……これらにより、思うように順位を上げられなかった。ただ、終始前を行くマシンにプレッシャーをかけ続けたことは、今後に向けたポジティブな要素だったと言えよう。
今年の鈴鹿は、実に動きの少ないレースだった。そもそも鈴鹿は、コース幅が狭くオーバーテイクポイントが限られているため、順位を上げるのが簡単ではない。しかし昨年までは、タイヤの性能劣化が激しく、これがバトルを生んだ。
ただ今年は、タイヤの性能劣化が著しく抑えられた。そのため、例年以上にバトルが生み出されにくかったわけだ。
2024年F1日本GPレースペース推移
このグラフは、2024年のF1日本GPの上位勢のラップタイム推移である。最終スティントでほぼ横ばい……つまりタイヤの性能劣化と、燃料を消費したことによるペース向上の効果が、ほぼ同じだったわけだ。ただ第1・第2スティントは、各車とも走れば走るほどペースが落ちている。つまり、タイヤの性能劣化の度合いが大きかったわけだ。その結果、2ストップ作戦が主流となった。
一方で、今年のラップタイムの推移を見ていただこう。
F1日本GPレースペース推移(上位)
こちらが、2025年F1日本GPの上位勢のラップタイム推移を表したものだ。走れば走るほどペースが上がっていることがよく分かろう。
各車が最初に履いたミディアムタイヤは、それでも少し性能劣化が見られたようで、それほど大きくペースは上っていない。しかし、ハードタイヤに履き替えて第2スティントを走り始めると、各車のペースが右肩上がり。2024年のレースとはまるで違う傾向である。
コース上でのバトルが生まれる要素は多々あるが、そのうちのひとつが、ポジションを争う2台のマシンのタイヤに性能差が生じるということだ。例えばバトルをしている2台のマシンのうち、前を走るマシンの方がタイヤの性能劣化が激しければ、後方を走るマシンに攻め立てるチャンスが生まれる。ただ今回はそういう要素がほとんどなかったため、バトルが生まれにくかったということだ。
とはいえ、性能劣化の差が全くなかったわけではない。上位3台(マックス・フェルスタッペンとマクラーレンの2台)は、レースの最後までペースが上昇傾向にあった。しかしその後方4番手を走っていたシャルル・ルクレール(フェラーリ)は、40周目頃からペースが上がらなくなっている。これに対して5番手を走行していたジョージ・ラッセル(メルセデス)は、上位3台同様にペースの上昇傾向が続いた。ルクレールとしては厳しい状態にあっただろうことは間違いない。
フェラーリのルイス・ハミルトンは日本GPを終え、「僕らは4番目のチーム」だと語っていた。このルクレールのペース推移を見る限りでは、確かにハミルトンが言うように、フェラーリは4番目のチームだったと言えそうだ。
F1日本GPレースペース推移(中団)
さて本題に移ろう。角田裕毅の日本GPの戦いかたである。
上のグラフは、中団グループ各車のペース推移である。紺色点線で示した角田は、レース序盤にピエール・ガスリー(アルピーヌ)に抑えられ、後半にはフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)に抑えられ続けた。つまり角田は、決勝レース中ずっと前を抑えられ、クリーンエアの中を走るタイミングは皆無であったと言える。
前述の通りタイヤの性能劣化はほとんどなく、常に前を行くマシンの乱流を浴び続けるポジションを走り続けることで、角田は攻め手を欠いた。これは何も、角田に限った話ではない。フェルスタッペンを追い続けたマクラーレンも、前に出ることさえできればあっという間にフェルスタッペンを引き離して圧勝することができたはずだが、前に出ることができなかった。これは、角田がガスリーやアロンソに対して陥ってしまった状況とよく似ている。
しかも角田の場合は、フェルスタッペンよりもダウンフォース量が大きいセッティングにしていたという。つまりは直線スピードが伸びず、オーバーテイクには不向きであり、攻め手を欠いたのだ。
ただ逆を考えれば、乱流を浴び続けるという不利な状況にもかかわらず、ずっとプレッシャーを”かけ続ける”ことができ、離されることもなかったということ。つまり角田+レッドブルRB21というパッケージは中団グループ以上、まずまずの戦闘力を手にしていると言えそうだ。
兎にも角にも、予選Q2で失敗してQ3に進出できず、後方グリッドからのスタートとなったことが、角田の日本GPのほとんどを決した。ただそのパフォーマンスを見れば、次のバーレーンGPではさらなる期待を抱くことができそうだが、どうだろうか?