福島で輝きを放ったMF大関友翔が川崎復帰を決めるまで。ケンゴさん、セキさん、周平さんに背中を押された言葉と“川崎の伝統を継ぐ者”への期待【インタビュー】

 ある日の練習でもその光景は見られた。

 全体トレーニング後の居残りメニュー。川崎お決まりの“パス&コントロール”をする輪のなかには、FRO(Frontale Relations Organizer)の肩書きでトップチームとアカデミーの懸け橋になっている、クラブレジェンドの中村憲剛の姿もある。

 その大先輩とディスカッションしている選手がいる。ふたりは身振り手振りを交えながら感覚を共有したのだろう。

 練習後の食堂など様々な場所では、大島僚太、脇坂泰斗、家長昭博ら諸先輩たちに疑問もぶつけているという。「みんな優しいので分からないことがあればなんでも教えてくれるんです」と笑顔を浮かべる。

 中村憲剛、大島僚太、脇坂泰斗らの系譜を、そして川崎の伝統を、継承する存在として、今、クラブで注目されているのがプロ3年目のMF大関友翔である。彼にとって川崎は最高の学びの場なのだろう。

 川崎U-18から昇格したのは2023年。プロ1年目はまさに研鑽の連続であった。同期入団のCB高井幸大、SB松長根悠仁、MF名願斗哉らが次々にプロデビューするなか、唯一、出番が訪れない日々。紅白戦にさえ参加できないことだって少なくなかった。折れそうになる心を支えてくれたのは、それこそ諸先輩やコーチングスタッフたちだった。

 努力が報われたのはシーズン最終戦のACL・蔚山戦。アウェーの地でついにプロデビューを果たすと、翌2024年にレンタル移籍したJ3の福島で持てる才能を示してみせた。

 同時期に川崎のコーチから福島の指揮官に就任した寺田周平監督の下、テクニカルな4-3-3で、大関はインサイドハーフでボールを引き出し、味方を活かし、自らゴールにも絡んでみせた。32試合・8得点でJ3ベストイレブンにも選出。福島を初の昇格プレーオフ進出にも導いた。J3というカテゴリーを考えても魅力的なパフォーマンだったと評せる。

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 だからこそ、今季川崎にレンタルバックするにあたって葛藤もあったという。

「福島は本当にめちゃくちゃ良いチーム。先輩も優しいですし、何よりサポーターが温かすぎる。大好きなクラブでした」

 福島に残るという選択肢もあったという。伸び盛りの選手にとって何より必要なのは実戦の場だ。その意味では福島へのレンタル期間を延長すれば、さらなる経験を積めることになる。それでもユース時代から過ごした川崎で結果を残し、優勝させるという目標が大関の背中を押した。川崎からも帰還のオファーを受けた。

「本当に福島をJ2に上げたいっていう想いで昨年1年は戦ってきたので、その悔しさや心残りは正直ありました。だから、昇格プレーオフで敗れた直後はいろんな選択肢を考えていましたね。

 でも、やっぱり福島に行く時、フロンターレから出る時に、フロンターレの力になるために戻ってくると誓っていましたし、一度、神奈川に戻って面談をさせてもらい、フロンターレから『戻ってこい』と言われた時はもう迷いはなかったですね。自分が選手としてもう一歩上にいくためにも。その想いを周平さん(福島の寺田周平監督)とセキさん(福島の関塚隆テクニカルダイレクター)にも伝えさせてもらいました。

 セキさんも、周平さんも、『自分で決めたことなら』と言って送り出してくれました。でも『川崎に帰って出られなかったら意味がないからな』って、愛のある厳しい言葉もいただきました。その想いに報いるためにも頑張らなくちゃいけないですよね。

 どの道を進むべきか迷った時、福島の先輩や川崎の先輩にも相談しましたよ。それこそケンゴさんにも。ケンゴさんからは『どの選択肢にしても、それを正解にすればいいから』っていう言葉をもらいました。結局最後は自分で決めた決断を正解にする。それが大事なんだなと改めて感じましたね」

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 まだ正式に行く末を決めていなかった2024年の年末には、心に残る大きなイベントもあった。

 中村憲剛が4年越しで開催した引退試合だ。錚々たる顔ぶれが揃ったなか、大関は同じく福島にレンタル中であった松長根悠仁(2025年も福島でプレー)とともに、中村から声をかけられた。

 ユース出身であったが、大関にとっては満員の等々力でプレーするのは初めてのことだった。

「やっぱり感慨深さがありました。プロになってから一度も等々力に立てていなかったですから。川崎の選手として出場したのはACLの蔚山戦と、公式戦ではないですが国立でのバイエルン戦(2023年夏)のみ。だから不思議な感覚と言いますか、満員の中で、なんだか“等々力デビュー”した気分になっちゃいました。でも、改めて公式戦で出たいという想いが強くなりました。今度は自分の手で掴み取りたいと」 

 一方で中村憲剛の引退試合では、目標とするその人の偉大さを改めて痛感したという。

「引退試合であんなに人を集められるのは、本当に凄いですよね。ケンゴさんは僕がサッカーにおいて一番尊敬している人。でも、当たり前なんですが、あの人を超えるには相当な壁があるなと、引退試合で痛感させられました。あれだけ愛されなきゃ“中村憲剛という位置”は確立できないんだなって」
 
 中村憲剛はかつてアカデミー時代からアドバイスを送ってきた大関に関して「自分と同じで良い意味で性格が悪い」と評していた。相手の逆を取り、相手を困らせる。ピッチのなかで厄介な存在と言われる素養をふたりは有しているということだろう。

 もっとも大関が“第2の中村憲剛”になれるわけではない。大関には大関のひとりのサッカー選手としての魅力がある。だからこそ、偉大な先輩の背中を追い、多くの意見を取り入れながら、彼はさらに羽ばたこうとしている。インテンシティや身体能力が優先される現代サッカー。かつて華奢な14番が我々に夢を見させてくれたように、大関にも多くの人を魅了できる才能があるはずだ。

(全3回/1回目)

■プロフィール
大関友翔 おおぜき・ゆうと/2005年2月6日、神奈川県生まれ。真福寺FC―FC多摩ジュニアーFC多摩Jrユース―川崎U-18―川崎―福島。川崎育ちの新時代の司令塔。プロ2年目の昨季、レンタルで加わった福島では中盤の欠かせない存在として活躍。今季は愛する川崎でのブレイクを期す。ロス五輪を目指す若き代表の中軸選手でもある。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)