メトロン星人がちゃぶ台を囲む『ウルトラセブン』の名場面は、制作現場の「あるルール」を無視していました。そのルールとはいったい何だったのでしょうか。



「S.H.フィギュアーツ ウルトラセブン メトロン星人」(BANDAI)(C)円谷プロ

【画像】え…っ? 美しすぎる… こちらが「ちゃぶ台シーン」後、夕日をバックに戦うウルトラセブンとメトロン星人の場面です

実相寺昭雄監督はなぜ「畳」にこだわった?

 ちゃぶ台の前であぐらをかくド派手な色彩の宇宙人……初期ウルトラシリーズのなかでも、最も有名なシーンのひとつです。『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」に登場した、この「メトロン星人」と「モロボシ・ダン」の対話風景は、いまなお新鮮な衝撃を与えてくれます。

 バラエティー番組などで『ウルトラセブン』が紹介される際には、よくこの場面が引用されており、同作品の際立った個性を象徴している名シーンです。

 いまだに語り継がれるこのシーンですが、実は制作現場の「あるルール」を破っています。そのルールとは、「和室の禁止」というものでした。意外に思われるかもしれませんが、初期のウルトラシリーズにおいて、畳の敷かれた和室のシーンはたしかに少ないのです。プロデューサー側の意向で、やんわりと禁じられていたといいます。

 理由としては、作品を海外に輸出しやすくするため、また、SFの世界観の邪魔にならないようにするため、などがあげられています。明確な禁止事項として設けられていたわけではありませんが、「暗黙の了解」として制作現場では共有されていました。

 ところが、第8話「狙われた街」のあの場面は、狭いアパートの和室とちゃぶ台ががっつり映っています。暗黙の了解も何も、あったものではありません。

 この第8話を監督したのは、実相寺昭雄さんでした。実相寺さんといえば、のちに「実相寺アングル」と称される、極端な画面構成でも知られる監督です。前作『ウルトラマン』でも、「ジャミラ」登場回をはじめ、その前衛的な演出で少年少女の度肝を抜きました。

 さて、独自の演出スタイルで、なおかつ洋風より和風が断然好きだという実相寺監督は当然のごとく、この和室を禁じる「暗黙の了解」を無視します。それも、わざわざプロデューサーが交替する、そのどさくさにまぎれてこの撮影を敢行しました。ほかの関係者から文句を言われながらも、あの名場面を完成させたのです。

 ちなみに撮影の段階に入ると、ちゃぶ台前に座るメトロン星人というあまりにも奇妙な光景に、スタッフみんなが笑い出したといいます。それどころか、実相寺監督も笑いがこらえきれず、助監督に指示を任せたほどでした。

 なぜ実相寺監督が和風の場面が好きなのかというと、撮影の合間に畳で横になれるから、だそうです。この真意はともかくとして、禁止事項を破ったからこそ、後世にも語り継がれる名場面が誕生したのでした。

参考書籍:『ウルトラマンの東京』(著:実相寺昭雄)