巨大怪獣に防衛隊が攻撃するも、まず勝てっこない、無謀、ただの前座……。昔はそんなイメージでしたが、そうしたイメージを完全に覆した映画作品がありました。



「ガメラ 大怪獣空中決戦 大映特撮 THE BEST」DVD(KADOKAWA)

【画像】すげぇぇぇ! これがリアルに再現されたガメラ(1995)の頭部です(7枚)

相手からの攻撃がなければ攻撃できない!

 2025年4月5日から、Netflixで配信されたアニメ『GAMERA -Rebirth-(ガメラ・リバース)』の再編集版がNHK総合で放送開始しました。今年2025年は、特撮映画『大怪獣ガメラ』(大映)が、1965年に初公開されてから60周年の節目でもあります。

 ガメラシリーズのなかでも、いま改めて注目したいのが、1995年(平成7年)公開の『ガメラ 大怪獣空中決戦』(以下、『平成ガメラ』)です。特撮映画史上初の「自衛隊全面協力作品」で、特撮ファンのあいだでは「初めてリアリティーを追求した傑作」と高く評価されています。

 当時、シリーズ15年ぶりの新作として製作された『平成ガメラ』は、金子修介(本編)監督の意向もあり、昭和時代の設定をリセットしてゼロからのスタートとし、子供向けの演出を極力排除し、「1995年に巨大怪獣が出現したら?」というコンセプトとしました。

 そう聞くと『シン・ゴジラ』(2016年)を思い出す人も多いでしょう。実は、本作の特撮監督は、『シン・ゴジラ』の特技監督でもある樋口真嗣さんです。樋口監督は、この『平成ガメラ』での経験を後に活かしたわけです。

 もしも、日本に巨大怪獣が出現したら、頼りにするのは「自衛隊」です。つまり、映画は「自衛隊」の全面協力が命でした。とはいえ、そう簡単ではありません。

 自衛隊は、映画製作側から協力の依頼があると防衛省内で審査を行います。協力する場合は、戦艦、戦闘機、車両や武器、さらに隊員や小物まで、使用するものは税金で提供することになります。全面協力のハードルは高いわけです。

 実際、『平成ガメラ』では、陸上・海上の承諾は得ますが、航空からはNGが出ました。それは「怪獣ギャオスとの空中戦で戦闘機F-15Jが撃墜され、有楽町マリオンに墜落」というシーンが問題だったからです。あくまで推測ですが、「自衛隊が民間に被害を及ぼす描写になり得る」ことを懸念したからでしょうか。結局、「戦闘機は出動するが、市街地上空のため交戦が不可能」と変えることで「全面協力」が成立します。

 大怪獣が出現すると、早々と戦闘機や戦車が出てきてミサイルなどを発射するが、全く歯が立たず兵器が破壊される……というのが特撮映画のお決まりでした。ところでこの軍隊、全て「自衛隊」だと思っていませんか? 実はそうとも限りません。映画に登場する軍隊は「防衛隊」、「防衛軍」など、架空の団体名が多く、「自衛隊」はあくまで「協力」というケースが多いのです。自衛隊ではないのに、「自衛隊では怪獣を倒せない」というイメージが付いたのは、少しかわいそうな気もします。



2025年4月5日からNHKで放送開始した、アニメ『GAMERA -Rebirth-』  (C)2023 KADOKAWA/ GAMERA Rebirth Production committee

(広告の後にも続きます)

特撮における「自衛隊」イメージを変えさせたひと言

 そのイメージを変えさせた人物のひとりが、樋口監督です。あるインタビューで、胸を打たれたエピソードを明かしています。それは、ある自衛官の子供が、友達から「おまえのお父さん、負けてばかりだな」などとからかわれたと聞いたことでした。樋口監督は、「なんとかしなければいけない」と思ったそうです。そしてその想いは演出からあふれます。

『ガメラ 大怪獣空中決戦』は自衛隊全面協力ですから、一部の隊員をはじめ、あらゆる装備は基本的に本物です。衝撃なのは、空飛ぶ『ガメラ』を、実在のミサイル「81式短距離地対空誘導弾(短SAM)」で撃墜するシーンです。「ガメラ」は富士の裾野に落下し、自衛隊は追撃。映されたのは本物の「戦闘機F-15J」や「74式戦車」などの射撃映像でした。このように、映画用の新兵器などを登場させず、自衛隊が実在する装備品で怪獣に挑んだのはリアルでした。

 自衛隊出動までのプロセスや法的根拠といった部分も描かれました。緊急案件が起きても原則として「自衛隊」は出動できません。「自衛隊」の最高指揮官は内閣総理大臣なので、例えば、都道府県知事からの出動要請があり、閣議決定を経て、自衛隊は出動となります。

「ガメラ」が福岡の街を進撃するシーンで、なぜ攻撃をしないのか問われ、「武力行使が認められるのは防衛出動の場合に限られている」、「相手による攻撃が行われなければ、こちらから攻撃することは許されない」と、現場にいる人間とて融通が利かない体勢にじれる心情がセリフで説明されています。『平成ガメラ』以前の特撮作品で、このような現実の法律の流れは描かれていないと思われます。

 本作では、総理大臣の登場や閣議のシーンなどはありませんが、TVニュース報道で「攻撃が閣議で決定した」、「攻撃があるので近隣住人は避難」、他にも、道路や鉄道の状況、情報を伝えていて、さながら大災害発生時のシミュレーションのようでした。観る者には、過去の特撮とは一線を画すリアルを感じた作品だったでしょう。