1995年放送の戦隊シリーズ20周年記念作品は、放送開始直後に起きた地下鉄サリン事件の影響で大きく路線変更を余儀なくされました。時代に翻弄された不運な記念作品の知られざる舞台裏とは。
「『超力戦隊オーレンジャー』ヒット曲集」(日本コロムビア)
【画像】えっ、「さとう珠緒」さんだったの!? こちらが可愛いすぎな『オーレンジャー』ヒロインの当時ステージ写真です
当初の路線から一転、なぜ?
2025年は戦隊シリーズ50周年を迎える記念の年ですが、スーパー戦隊の歴史にはさまざまな壁にぶつかった作品があります。なかでも1995年に放送された『超力戦隊オーレンジャー』は、シリーズ20周年の節目を担いながらも、当初の企画意図から大きく路線変更を余儀なくされた特異な作品でした。
ハードでシリアスな展開で始まったはずの物語が、なぜ途中からコミカル要素を取り入れた明るい作風へと姿を変えたのか。今年で放送開始から30周年を迎えるこの作品に隠された時代背景とは?
『超力戦隊オーレンジャー』は「超世紀全戦隊20周年記念作品」として、第1作『秘密戦隊ゴレンジャー』への原点回帰を図った意欲作でした。全員が職業軍人という設定や、ニューヨークやパリが制圧され東京に迫る危機という物語は、従来の戦隊ものとは一線を画すハード路線。フランスでオーケストラ録音を行った重厚なBGMも、その意気込みを表していました。
ところがそうした展開が仇となりました。本作は1995年3月3日に放送スタートしましたが、それに先駆ける1月17日には阪神・淡路大震災が発生し、6000人を超える死者を出すに至りました。
さらに第3話が放送されて間もない3月30日にはカルト集団「オウム真理教」による大規模テロ、地下鉄サリン事件が発生し、現実社会は一気に重たい雰囲気に包まれました。奇しくも今年は阪神大震災、そして地下鉄サリン事件からも30年の節目にあたり、当時を思い出した人も少なくなったでしょう。
さて、そうした状況が作品にも影響を及ぼすこととなります。本作を手がけた鈴木武幸プロデューサーは自著で「世相が暗さを増す時期に子供向け番組でハードでシリアスなものを作って良いのか」「フィクションに登場する悪の組織を凌駕するような現実の悪が存在」と記しており、最終的に社会情勢を踏まえて、企画当初に掲げたハード路線は破棄され、コミカル要素を盛り込み、路線変更がなされることになりました。
ミリタリー色は薄れ、壮大なスケールは後退し、ご当地感が増すなど、作風にも変化が表れました。その辺りはサブタトルからも明らかであり、初期は第1話「襲来!! 1999」、第2話「集結!! 超力戦隊」、第6話「強敵 頭脳マシン」といった感じだったのが、途中からは第10話「参上 泥棒だヨン」、第11話「服従 愛の冷蔵庫」、第12話「爆発!! 赤ちゃん」といった具合で、比較してみれば一目瞭然です。
とはいえ、戦隊ものでは、これまでにも年間を通してさまざまな要素がテコ入れされることは往々にしてあったことですし、バラエティーあふれる内容こそが戦隊の面白さといった見方もできます。
さらに終盤の第46話では、超力を失ったオーレンジャーがその力を取り戻すために地球を離脱、第47話では半年の歳月が経っており、地球は既にバラノイアの支配下に陥っているといったハード路線へ回帰しつつ、1年間の放送を終えました。
また本作では、「オーピンク/丸尾桃」役のさとう珠緒さん(当時の芸名は珠緒)がバラエティー番組でブレイクし、「オーブルー/三田裕司」役の合田雅吏さんが『水戸黄門』第32部からの5代目「格さん」役で注目を集めたこともあり、現在でもしばしば話題に上ることがります。さらに今年は、30周年のアニバーサリーイヤーであり、8月3日にはさとうさんや合田さんをはじめ、オリジナルキャスト5名がそろうイベント開催も決定しています。
この機会に、作品の再評価が進むことを願うばかりです。