Credit: 総合研究大学院大学 – 台湾からデニソワ人—台湾最古の人類化石はデニソワ人男性の下顎骨だった—(2025)
台湾最古の人類化石が、なんと現生人類のものではなく、絶滅人類「デニソワ人」のものであることが明らかになりました。
この発見を報告したのは、総合研究大学院大学、東京大学、九州大学、台湾・國立自然科學博物館らの国際研究チームです。
デニソワ人はこれまでアジア北部でしか見つかっていませんでしたが、今回の発見により、アジア南部にも広がっていたことが突き止められました。
研究の詳細は2025年4月10日付で科学雑誌『Science』に掲載されています。
目次
謎に包まれた絶滅人類「デニソワ人」とは?台湾に住んでいた男性のデニソワ人と判明!
謎に包まれた絶滅人類「デニソワ人」とは?
かつて人類はアフリカだけでなく、アジアやヨーロッパにも様々な系統の仲間たちが暮らしていました。
その中でも「デニソワ人」は、2010年にシベリアのデニソワ洞窟で見つかった骨からDNAが抽出されることで突如その存在が明らかになった、謎の多い絶滅人類です。
デニソワ人はネアンデルタール人とは別系統の旧人であることがわかっていますが、その確実な化石は、これまでシベリアとチベットの2カ所でしか見つかっていません。
そのため、デニソワ人の姿や生息域は今も謎に包まれており、多くの研究者がその解明に取り組んでいます。
台湾最古の人骨化石/ Credit: 総合研究大学院大学 – 台湾からデニソワ人—台湾最古の人類化石はデニソワ人男性の下顎骨だった—(2025)
その一方、これまでのゲノム研究から、デニソワ人と私たちホモ・サピエンス(現生人類)が遺伝的に交雑していたこともわかっています。
特に東南アジア周辺やオセアニアで数万年前に交雑が起こった可能性が高く、日本列島に暮らす現代人のゲノムにもわずかですがデニソワ人との交雑の痕跡が残っているのです。
こうした研究報告から、デニソワ人の生息範囲は従来の予想よりもっと広かったのではないか、と考えられるようになりました。
そして、その謎に一つの答えを与えてくれたのが、今回の主役である台湾最古の人類化石「澎湖(ほうこ)1号」です。
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台湾に住んでいた男性のデニソワ人と判明!
澎湖1号は、台湾の澎湖水道の海底で見つかった下顎の化石であり、年代は約10万年前(最も古い見積もりでは19万年前)とされています。
形が非常に頑丈で原始的だったため、独自の人類系統の可能性が議論されてきました。
ところがこの化石からは、DNAがほとんど抽出できず、正確な分類ができないままでした。
そこで研究チームは今回、最新の技術を活用し、歯と骨に残された古代タンパク質を解析。
その結果、コラーゲンやエナメル質のタンパク質の中に、デニソワ人特有のアミノ酸変異を2カ所発見されたのです。
特にAMBN(アメロブラスチン)とCOL1A2(コラーゲンα2鎖)というタンパク質における変異は、デニソワ人の他の化石と一致しており、系統樹解析でも「デニソワ3」と呼ばれる基準個体と同じグループに分類されました。
さらに、歯のタンパク質から男性特有のアメロゲニンY(AMELY)が確認され、この個体が男性であったことも特定されています。
研究成果をもとに想像したイメージイラスト。台湾の明るい太陽の下を頑丈なデニソワ人の男性が歩いている/ Credit: 総合研究大学院大学 – 台湾からデニソワ人—台湾最古の人類化石はデニソワ人男性の下顎骨だった—(2025)
これらの結果から、澎湖1号は東南アジアに生きていたデニソワ人男性の化石であると、確定的に言えるようになったのです。
この発見は「デニソワ人が温暖湿潤な東南アジアにも生息していた」という、これまでゲノムだけで推測されていたことを初めて化石そのものの証拠として裏づけたものでした。
また、澎湖1号を含めた複数のデニソワ人化石から、彼らの歯や下顎の特徴―太く、低く、非常に大きな奥歯―が、ネアンデルタール人とは対照的な進化をたどっていたことも見えてきました。
今回の発見は、アジアにおける人類進化の歴史を大きく塗り替える可能性を秘めています。
これまでデニソワ人は寒冷地に限定されると思われていた常識を覆し、温暖な地域にも広がっていたことが示されたのです。
そしてDNAが失われていたとしても、古代タンパク質を手がかりにして、数十万年前の人類の物語を蘇らせることができる時代が来たことを意味しています。
たったひとつの骨が語る壮大な進化の物語は、これからも私たちを驚かせてくれるに違いありません。
参考文献
台湾からデニソワ人—台湾最古の人類化石はデニソワ人男性の下顎骨だった—
https://www.soken.ac.jp/news/2025/20250411.html
元論文
A male Denisovan mandible from Pleistocene Taiwan
https://www.science.org/doi/10.1126/science.ads3888
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部