『人造人間ハカイダー』公開から30年が経過しました。どうして主役のキカイダーを差し置いてライバルキャラのハカイダーが主役になったのでしょうか。その答えは物語の展開にありました。
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アンチヒーローが主役の異色作
本日4月15日は、1995年に「東映スーパーヒーローフェア」内の作品のひとつとして『人造人間ハカイダー』が公開された日です。本年2025年で30年の時が経ちました。公開当時はファンのあいだで話題になった作品です。
本作の主人公である「ハカイダー」は、もともとTV特撮作品『人造人間キカイダー』(1972年)に登場したライバルキャラクターでした。つまり主人公ではありません。いわば本作はライバルにスポットを当てたスピンオフ作品といえるものでした。
もっとも原典である『人造人間キカイダー』とは設定も大きく異なっており、名前を引用したパラレル作品ともいえるかもしれません。そして内容も子供向けというよりも、当時の子供だったファン層に向けたと思える大人向けで、全編にビターなテイストを持った映画に仕上がっています。
『人造人間キカイダー』においては、主人公である「キカイダー」こと「ジロー」の人気も高いものでしたが、ライバルであるハカイダーもそれに勝るとも劣らない人気を誇るキャラクターでした。ハカイダーというキャラクターは当時の特撮ファンからライバルキャラクター、アンチヒーローの代名詞的な存在として広く認知されていたと思います。
そのようなハカイダーを主人公にして映画が制作されるという発表は、本来のターゲットであるはずの子供たちより、放送当時のことをよく知る大人の方に大きな注目を浴びることになりました。
ちなみに「東映スーパーヒーローフェア」では、放送中の戦隊作品とメタルヒーロー作品がそれぞれ1本ずつ上映され、メインプログラムとして残る1本に劇場版オリジナル作品が割り当てられています。前年までは「仮面ライダー」シリーズである『仮面ライダーZO』『仮面ライダーJ』がその枠でした。
当時は「仮面ライダー」シリーズも「ウルトラマン」シリーズもTVでは休眠期で、このように特撮作品が定期的にリリースされていくことは珍しいことだったと思います。こうした試みが翌年1996年に、TV特撮作品が一気に増える礎となったのかもしれません。
余談ですが『人造人間キカイダー』はファンに根強い人気のあった作品でした。20周年だった1992年には雑誌「てれびくん」でマンガ連載が始まる予定もありました。マンガは都合により中止となったものの、その流れが本劇場公開作品に至ったのかもしれません。
こちらは1972年TV放送のオリジナル。「人造人間キカイダー VOL.1」Blu-ray (東映ビデオ)
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本作のスタッフがその後に制作した作品とは?
本作をビターなテイストといいましたが、それは設定にも表れています。争いのない奇跡の街「ジーザスタウン」に1体の戦闘用ロボットが現れました。それがハカイダーです。そしてジーザスタウンに争いがないのは、「グルジェフ」という男にすべてを支配されているからでした。
グルジェフと反政府ゲリラの戦いにも興味を示さなかったハカイダーは、とあることをきっかけに戦いに身を投じることとなります。ハカイダーが戦うことになった理由とは……物語はこのように展開していきました。
ここで描かれるハカイダーは、ヒーローではありません。自分のことを「悪」と言い切れる存在でした。そして、ハカイダーと戦うことになる「ミカエル」は対照的に全身が白く、「正義」であることを強調する存在です。
キャラクター配置からもわかる通り、本作は便宜的に正義と悪の立場が逆転していました。こうした部分が本作の魅力と感じる人も少なくありません。子供にはわかりにくい構図であり、本作が大人向けと感じる要因といえるでしょう。
この点については、本作のプロデューサーのひとりが白倉伸一郎さんで、脚本が井上敏樹さんであることから、ピンとくる人もいると思います。後の「平成仮面ライダー」シリーズの基礎を作ったともいえるふたりでした。
「平成仮面ライダー」シリーズでは、複数の立場から見た正義を描く展開が多く見られます。勧善懲悪でなくさまざまな立場から見たそれぞれの正義、そういった複雑な関係の原点が本作にあったのかもしれません。
そういう意味では、ヒーローではないハカイダーは絶好のキャラクターだったのでしょう。そして当時のTV特撮では描くことのできなかったドラマを、劇場版という形でまとめたのかもしれません。
ちなみに本作『人造人間ハカイダー』は劇場版ののち、『人造人間ハカイダー -ラストジャッジメント-』というセガサターン用ゲームソフトが発売されました。セガサターン用ガンコントローラ「バーチャガン」対応のガンシューティングゲームです。
このソフトの発売元であるセガは、本作の制作にも加わっており、劇場版ののちにTV版の企画をスポンサーとして動かしました。この企画は結果的に翌年、TV特撮作品『超光戦士シャンゼリオン』となります。
ハカイダーというアンチヒーローを起用し描いたリブート作品。21世紀以降は珍しいことではありませんが、当時としては斬新な試みでした。この劇場版があったから、現在のようにスピンオフ作品が多く制作されるようになったのかもしれません。