
ナチョ・フェルナンデス(現アル・カーディシーヤ)は、レンタルまたは完全移籍を経験することなく、トップチームで長いキャリアを築いた最後のレアル・マドリーのカンテラーノだ。
移籍情報サイト「Transfermarkt」によると、ナチョが頭角を現し始めた2011年以来、リザーブチームのカスティージャを経由した選手の売却で、マドリーが得た移籍金総額は約3億8500万ユーロに達する。しかし現時点で、この有益な経営モデルから免れている選手がいる。ラウール・アセンシオだ。
現在22歳のアセンシオは常にカスティージャの指揮官、ラウール・ゴンサレスのお気に入りの選手だった。その評価の高さを巡ってはカルロ・アンチェロッティ監督やコーチングスタッフとの会話にも頻繁に出ていた。ただ想定外の事態が重なったとはいえ、アセンシオが今置かれている場所にたどり着くと想像した者は誰もいなかった。
「カンテラではいつも同じプレーを見せていた。今よりも集中力に欠け、少し自信過剰気味だったかもしれないが、ひとつレベルが上の選手であることを示していた。こうしてトップチームでプレーする選手になるとまでは予想できなかったけどね。優秀な選手ではあるが、能力的に上回っているCBは他にいた。人生はチャンスということだ」という、若手発掘を担当する大手代理人事務所に所属するアナリストの言葉もそれを裏付ける。
アンチェロッティ監督にとってもアセンシオの台頭はサプライズだった。チャンピオンズリーグ(CL)の決勝トーナメントプレーオフでマンチェスター・シティと対戦するまでは、ファンの間で待望論が出ていた中でも、オプションの1つとしてしか考えていなかった。
しかし怪我人続出という緊急事態を受けて、第1レグと第2レグで先発に抜擢されると、アーリング・ハーランドを向こうに回すという超難関試験に合格。以降も怪我から復帰したダビド・アラバを差し置いてスタメンで出場し続けている。
現在、アンチェロッティ監督から課題として突きつけられているのがカッとなってプレーが雑になる癖だ。長所と短所は紙一重と言われるが、アセンシオのケースもそうだ。コパ・デル・レイ・ラウンド16のセルタ戦(延長戦の末に5-2で勝利)のPK献上はその一例だった、「衝動的になるところがあり、ペナルティエリア内でアグレッシブさを履き違えると、PKに繋がる危険性がある」と、指揮官は指摘する。
2020-21シーズンにフベニールB(U-18)でアセンシオを指導し、現在はタラベラ(セグンダ・フェデラシオンRFEF[4部相当]に所属)の監督を務めるハビエル・バスケスは、「当時から非凡さを垣間見せていた。スピード、アグレッシブさ、身体の使い方といった点は特にね。だから個人的には、現在のパフォーマンスに驚いてはいない。ただ、マドリーのような大所帯のカンテラの一員として、同世代の選手たちとプレーする姿しか見ていなかったため、いくら格が上であるところを示しても、果たしてプロの世界で10歳も15歳も年上の選手たちと対峙して同じことができるのかという疑問は常にあった」と見解を語り、性格については「寡黙というよりも真面目」と評する。
守備だけでなく、攻撃でも素晴らしい働きを見せているが、中でも目に付くのがロングフィードによるアシストだ。オサスナとのデビュー戦でジュード・ベリンガムに、シティとの第2レグではキリアン・エムバペに裏に抜ける対角へのパスを通してゴールをアシストした。
バスケスは「カンテラ時代から武器の1つだった。他のCBにも同様のプレーを要求していたが、ラウールの場合は、当時から相手にダメージを与えるパスを出していた」と回想する。ラウール・ゴンサレスもつい先日、「ダイアゴナルパスを1000回繰り返し練習していた」と言及していた。
ハーランドに続いて、準々決勝のアトレティコ戦ではフリアン・アルバレスというこれまた一線級のストライカーと対峙したが、物怖じせず対応した。超難関試験に合格し続けるデビューから4か月の若者がマドリーのシーズンの成否を左右する重要な戦力となっている。
文●ロレンソ・カロンヘ(エル・パイス紙レアル・マドリー番)
翻訳●下村正幸
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